障害のある人を雇用し、ともにはたらく際に、欠かすことのできないのが「合理的配慮の提供」です。合理的配慮とは具体的にどのようなもので、なぜ提供する必要があるのでしょうか。配慮提供までの大まかなプロセスとあわせて、雇用する企業が知っておきたい大切なポイントを説明します。

合理的配慮とは

合理的配慮とは、障害のある人とそうでない人の機会や待遇を平等に確保し、支障となっている事情を改善、調整するための措置のこと。2006年に国連総会で採択された「障害者権利条約」の中でも「合理的配慮を否定することは、障害を理由とする差別である」と明示されており、障害と社会の在り方を考えるうえで世界的に重視されている概念です。

合理的配慮の提供には当事者の意思表示がとても重要であり、画一的な配慮ではなく本人の意思や障害の程度、環境などに応じた個別の対応を考えることが基本となっています。障害者雇用においても、一人ひとりの特性や職場の状況を考慮し、どのような配慮が必要でどのように取り入れれば過度な負担がなく実現可能であるかを、障害のある人と企業、周りの人たちが話し合って決めていくことが求められます。

合理的配慮が必要な理由

障害のある人に合理的配慮を行おうとすると、「障害のある人だけに特別な配慮をするのはおかしい。みなが平等であるべきだ」「差別ではないのか」という意見が上がることがあります。合理的配慮の必要性を理解するには、まず「平等」と「公平・公正」の違いを認識する必要があります。

イラスト出典:パーソルダイバース「Challenge LAB」

上の図は、左図が平等を、右図が公平・公正を表しています。
左図のように、背が高い人にも低い人にも同じ高さの踏み台をあげるのは「平等」です。しかしこの場合、背の高さにもともと差があれば、踏み台をもらってもパンダが見られない人が出てしまいます。一方、右図では全員がパンダを見られるよう、それぞれの背丈に合わせて異なる高さの踏み台が与えられています。これが、「公平・公正」です。

障害のある人は、抱えている制約の分だけ、障害がない人と比べてスタートライン(ここでは身長)が違います。合理的配慮(ここでは高さの異なる踏み台を与えること)によって制約の差を埋め、公正さが保証されてこそ、初めて平等な環境が得られるのです。

合理的配慮の提供は法的義務

雇用分野における合理的配慮について定めた障害者雇用促進法では、事業主による合理的配慮の提供を「法的義務」としています。一方、雇用以外の分野における合理的配慮について定めた障害者差別解消法では、「努力義務」としていました。

しかし2021年5月に改正障害者差別解消法が可決・成立し、雇用“以外”の分野における合理的配慮も「法的義務」へ変更されることになりました。つまり今後は、雇用の分野かどうかに関わらず、民間事業主による合理的配慮の提供が法的義務となります。

※本改正法は、公布日である2021年6月4日から起算して3年以内に施行されます。

また、合理的配慮の提供に伴う必要な費用は、個々の事業主が負担することが原則です。ただし、事業主に対してそれが「過重な負担」になる場合は、合理的配慮を提供する義務はありません。

「過重な負担にならない範囲」とは

障害者雇用促進法では、「合理的配慮に係る措置が、事業主に対して『過重な負担』を及ぼす場合には、合理的配慮を提供する義務はありません」としています。「過重な負担」に当たるか否かは、下記の要素を考え合わせながら、事業主が判断することになります。

負担の要素 内容
事業活動への影響の程度 合理的配慮の提供を行うことにより、事業所における生産活動やサービス提供への影響の程度
実現困難度 事業所の立地状況や施設の所有形態によって、措置を講ずるための機器や人材の確保、設備の整備等の困難度
費用・負担の程度 措置を講ずることによる費用・負担の程度
企業の規模 企業の規模に応じた負担の程度
企業の財務状況 企業の財務状況に応じた負担の程度
公的支援の有無 措置に係る公的支援を利用できるかどうか

ただし、過重な負担を及ぼすと判断した場合であっても、まったく措置を行わなくてよいわけではありません。企業と当事者が十分に話し合い、お互いの意見を尊重した上で、より提供しやすい措置を考えます。

合理的配慮はどのように行われるべきか?

合理的配慮を実現するには、障害のある人の意思や就労環境、企業側の状況などを踏まえてよく話し合い、合意を形成していくことが大切です。措置を決める際には、下記のフローを参考にするとよいでしょう。

1. 本人から申し出てもらう

合理的配慮の内容とその程度については、「本人が必要としている配慮である」ことが絶対条件です。しかし、障害のある人の中には、必要な配慮を自分から伝えるべきだと理解していない方や、不採用になることをおそれて言い出せない方もいます。企業は、採用面接時に合理的配慮について本人の希望を聞く時間を設けるなど、本人が申し出をしやすい環境を作る必要があります。

2. 本人と話し合う

合理的配慮について話し合う際には、下記の3つのポイントをしっかり押さえるようにしましょう。

実現可能かどうか

前述のとおり、「過重な負担」を及ぼさないかを慎重に判断します。実現不可能な場合は、本人になぜできないのかを説明した上で次善の策を講じます。

配置部署に配慮の内容をどこまで伝えるのか

合理的配慮が実際に行われるには、配置される部署の上司や同僚の理解が不可欠です。一方で、プライバシーにも大きく関わることなので、配慮の内容をどこまで伝えるのかは本人の意思を尊重して慎重に話し合います。

配慮内容の確定について

本人から求められた配慮内容に対し、企業が具体的にどういった配慮を提供すると決定したのか、その内容と理由をわかりやすく説明します。

3. 継続して提供するための体制を整える

上司や同僚が替わっても合理的配慮が継続して提供されるよう、社内で合理的配慮の引継ぎに関するルールを作成します。また、サポートできる担当者を置く、同じ部署の社員にフォローを依頼するなど、相談しやすい体制を作っておくことも理想です。

4. 配慮内容は常に見直し、改善する

障害の程度や中身は、時間が経つにしたがって変わっていく可能性が高く、それに伴い配慮内容も見直しが必要となります。定期的に面談などの機会を設け、配慮の内容が適切か、職場で支障になっていることはないかを確認しましょう。