
「またこの季節がやってきたね」「これから忙しくなるだろうねえ」
先日、ほとんどの社員が帰った夜の田町オフィスで、定着支援担当者とそんな話をしていました。当社では、年度の切り替わり時期や季節の変わり目などなど、節目節目でメンタルダウンを起こすメンバーが少なくありません。
多くの人がワクワクしたり喜んだりする季節イベントでさえ、社員によってはとっても悲しいことに感じられたりするのです。
そして今年もまた、不調者が増える傾向にある春が近づいてきました。出会いと別れの季節とも言いますが、新たな業務・環境・人との出会いによってなんとなく緊張してしまったり、変化で心が落ち着かなくなったり……。
季節の変わり目で寒暖差も大きくなるため、余計に体調管理が難しくなるということもあります。がんばって春を乗り切っても、溜まった心労やストレスがあとからどっと出ることも。
この記事では、季節の変わり目で精神が不安定になる原因と改善策をご紹介します。
季節の変わり目に精神が不安定になる原因
季節の変わり目に「なんとなく気分が落ち込む」「イライラしやすくなる」と感じるのは、あなたの心が弱いからではありません。実は、私たちの身体が環境の変化に適応しようとして、フル回転でエネルギーを消耗していることが主な原因です。なぜこの時期に心が揺らぎやすいのか、そのメカニズムを解説します。
自律神経の乱れを引き起こす気温や気圧の激しい変化
季節の変わり目は、1日の中での寒暖差や、数日単位での急激な気圧の変化が頻繁に起こります。私たちの身体には、周囲の環境に合わせて体温や血圧を一定に保つ「ホメオスタシス(恒常性)」という機能がありますが、これをコントロールしているのが自律神経です。
度重なる気温変化に対応するために、自律神経は常に「活動モード」を強いられ、オーバーワーク状態に陥ります。すると、交感神経と副交感神経の切り替えがスムーズにいかなくなり、倦怠感や動悸、不眠といった身体症状とともに、不安感や焦燥感といったメンタルの乱れが現れやすくなるのです。特に低気圧が続く時期は、脳内の血管が拡張し、神経を圧迫することで頭痛や「だる重い」感覚を誘発し、さらに精神的なストレスを増幅させます。
日照時間の減少による「セロトニン(幸せホルモン)」の不足
特に秋から冬、あるいは梅雨時期にかけては、日照時間が短くなることがメンタルに大きな影響を与えます。日光を浴びることで脳内に分泌されるのが、通称「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンです。セロトニンには精神を安定させ、幸福感を感じさせる働きがありますが、日光不足になるとその分泌量が低下してしまいます。
セロトニンが減少すると、感情のブレーキが効きにくくなり、ネガティブな思考に支配されやすくなります。また、夜に分泌される睡眠ホルモン「メラトニン」はセロトニンを原料に作られるため、日中の日光不足は夜の睡眠の質まで下げてしまうという悪循環を招きます。「天気が悪いと気分が塞ぐ」のは、単なる気分の問題ではなく、脳内の化学物質のバランスが変化しているという生理的な現象なのです。
進学・就職・異動など、生活環境の変化による心理的ストレス
春先などは特に顕著ですが、季節の変わり目は「ライフイベント」が重なる時期でもあります。自分自身の進学や就職、職場の異動、あるいは家族の環境変化など、たとえそれが「おめでたい変化」であっても、脳にとっては「未知の状況への適応」という大きなストレスになります。
新しい環境に馴染もうとして、私たちは無意識のうちに気を張りすぎてしまいます。この「過適応」の状態が続くと、ある時ぷつりと糸が切れたように意欲を失ったり、感情のコントロールが難しくなったりすることがあります。気象条件という「外的な要因」に、人間関係や役割の変化という「社会的な要因」が加わることで、心にかかる負荷は想像以上に大きくなっているのです。
花粉症などのアレルギー症状による睡眠の質の低下
見落とされがちなのが、アレルギー反応による肉体的な消耗です。春の花粉症や秋のブタクサなど、アレルギー症状が出ている間、体内では常に炎症が起きています。この炎症自体が身体を疲れさせるだけでなく、鼻詰まりや目のかゆみによって睡眠の質が著しく低下します。
ぐっすり眠れない夜が続くと、脳の疲労が回復せず、感情を司る「前頭葉」の機能が低下します。その結果、普段なら気にならない些細なことにイラついたり、将来への不安が止まらなくなったりと、精神的なレジリエンス(回復力)が弱まってしまうのです。「ただの鼻炎」と侮らず、身体の炎症を鎮めることが、結果として心の安定につながります。
精神を整えるためのセルフケア
不安定な時期を乗り切るコツは、完璧を目指さないことです。「自律神経を外側からサポートしてあげる」という感覚で、日常に取り入れやすいアクションを積み重ねていきましょう。
朝の光を5分浴びて「体内時計」をリセットする
乱れた自律神経を整える最も強力で簡単な方法は、「朝起きたらまず日光を浴びること」です。カーテンを開け、窓際で5分ほど光を感じるだけで十分です。曇りの日でも、室内の照明よりずっと強い光エネルギーが脳に届きます。
朝の光を浴びると、脳内でセロトニンの合成が始まり、同時に「体内時計」がリセットされます。このリセットから約14〜16時間後に、眠りを誘うメラトニンが分泌されるよう予約セットされるのです。つまり、朝の5分がその日の夜の熟睡、そして翌日のメンタルコンディションを決定づけます。「朝一の光のシャワー」を、自分への最初のご褒美として習慣化してみましょう。
自律神経を整える39〜40℃の入浴習慣
精神的な不安定さを感じる時は、交感神経が優位になりすぎて、身体が「戦うモード」で凝り固まっていることが多いです。これを強制的に「リラックスモード(副交感神経優位)」へ切り替えるスイッチが、お風呂での入浴です。
お湯の温度は、少しぬるめの39〜40℃がベストです。42℃以上の熱すぎるお湯は逆に交感神経を刺激して興奮させてしまうため、注意してください。10〜15分ほど湯船に浸かって深部体温をわずかに上げることで、お風呂上がりに体温が下がっていく過程で自然な眠気が訪れます。お気に入りの入浴剤を使ったり、浴室の電気を消してキャンドルライト(あるいは防水のライト)だけで過ごしたりと、「感覚を癒す時間」にすることで、心のこわばりもじわじわと解けていきます。
セロトニンの材料となる「トリプトファン」を含む食事
心を作るのは、日々口にする食べ物です。精神の安定に不可欠なセロトニンを増やすには、その材料となるアミノ酸の一種「トリプトファン」を意識して摂取しましょう。トリプトファンは体内で合成できないため、食事から摂る必要があります。
手軽に摂れるおすすめの食材は、バナナ、納豆、豆腐、チーズ、卵などです。例えば「朝食にバナナヨーグルトを食べる」「お味噌汁に豆腐を入れる」といった小さな工夫でOKです。また、トリプトファンをセロトニンに変える際には「ビタミンB6」も必要になるため、赤身の魚や鶏肉も組み合わせるとさらに効果的です。サプリメントに頼りすぎるよりも、美味しいと感じる食事をよく噛んで食べることで、副交感神経が刺激され、より高いリラックス効果が得られます。
質の高い睡眠のために、寝る前のスマホを控える
睡眠は、メンタルヘルスにおける最強の処方箋です。しかし、不安な時ほどつい夜遅くまでスマホで情報を探したり、SNSを見続けたりしてしまいがちです。スマホのブルーライトは脳に「今は昼だ」と誤解させ、睡眠ホルモンの分泌をピタッと止めてしまいます。
寝る前の1時間はスマホを置き、脳をデジタルから切り離す「デジタルデトックス」を試してみてください。もしスマホを見てしまったら、「ああ、また見てしまった」と自分を責めるのではなく、「今は脳が刺激を求めているんだな」と客観視するだけで十分です。スマホの代わりに、お気に入りのパジャマや肌触りの良い寝具を整えるなど、「眠ることへの環境づくり」に意識を向けると、睡眠の質が向上し、翌朝の気分の安定を実感しやすくなります。
「何もしない時間」を意識的に作り、脳を休ませる
現代人は、常に「何かをしなければならない」「生産的でなければならない」という焦燥感にさらされています。特に季節の変わり目でエネルギーが低下している時にこのプレッシャーを感じると、心は悲鳴を上げてしまいます。そこで、あえて「何もしない時間」をスケジュールの中に確保しましょう。
「何もしない」とは、スマホを見ることでも読書をすることでもなく、ただぼーっと外の景色を眺めたり、温かい飲み物の香りを味わったりすることです。脳がデフォルト・モード・ネットワーク(アイドリング状態)に入ることで、情報の整理が行われ、心の余裕が回復します。「今日は15分だけ、ただ座っているだけにする」と自分に許可を出してあげてください。効率を求める手を休める勇気が、結果として一番早く心の安定を取り戻す近道になります。
年間の体調のリズムに合わせ、適度な距離感で声をかける
「うつ」などの具体的な症状に対応できるのは病院(医療領域)ですので、会社でできることはなかなかありません。ですから、支援担当としては通院を促し、「支援機関に早めに連絡して、事後の対応を相談するように」と伝えることがほとんどです。ただ、社歴が長い社員に対しては、少しできることがあると思っています。それは「調子が悪くなる時期」が近づいてきたら「声をかけすぎない程度に、声をかける」こと。
1年以上はたらいていると、その社員の「1年の体調のリズム」が何となくですが把握できるようになります。「この社員は4月ごろに花粉症がひどくなって、心身の調子が乱れるな」「台風で気圧が乱れる9月前後は不調になるな」などなど。
そうしたタイミングに合わせ、「昨年のいまごろはどんな対策をしていたっけ」「もうすぐ冬本番だから、体調に気を付けましょう」「1年経って、対応策が見つかって昨年のいまごろよりは調子がいいんじゃない?」などと声をかけ、コミュニケーションを取るようにしています。
あまり言いすぎると本人も意識してしまって、逆効果になる場合もありますから、「この時期ってなんだか憂鬱になりますよね。何かあればいつでも言ってくださいね」とさりげなく、しかししっかりと構えを取ることが大事じゃないかと思います。
(ちなみに余談ですが、体調が悪くなる社員を多く目にするこの季節、会社の外で起きることに支援担当はなかなか関われないのが歯がゆいところだったります。定着支援担当には解決できる問題、介入できない問題がそれぞれあります。大事なのは、解決できない問題に対しては「それは無理」としっかり相手に伝えることだと思っています。)
今年を乗り切れば、きっと来年はもっとラクに
支援担当としては声掛けや相談対応などの忙しさが増す時期ですが、一方でちょっとうれしいこともあります。それは、長く在籍した社員たちの「辛い時期の症状」が、年々軽減していくのが目に見えて分かることです。
毎年同じ時期に、同じような不安・症状で調子を崩すものの、1年の間に経験したこと・掴んだことがプラスにはたらいているのだと思います。仮に体調を崩しても「そうはいっても昨年のいまごろよりはちょっと元気だぞ」と感じられると、じんわり喜びを感じます。
毎年のことではありますが、これからしばらくの間は、気合を入れていこうと思っています。がんばれば来年また、やりがいと喜びを感じることができますから。


