パーソルグループの特例子会社であるパーソルダイバースでは多くの精神・発達障害のある社員が活躍しています。本コラムでは、社員を支えるジョブコーチの視点から、精神障害・発達障害のある方が安心してはたらくためのヒントやノウハウを紹介します。

第2回の今回は「障害者が長くはたらく」をテーマに、当社で長くはたらき活躍している精神障害のある社員に、継続のための工夫を伺いました。
その内容をご紹介します。

目次

  1. はじめに:なぜ「長くはたらく」が難しく感じるのか
  2. 結論:長くはたらくカギは「自己理解×小さな工夫×合理的配慮」
  3. 【データで理解】精神障害の就労が続きにくい「よくある理由」
    1. (1)企業側:ノウハウが追いつかず「手探り」になりやすい
    2. (2)本人側:困りごとが「体調」「コミュニケーション」「成長機会」に集まりやすい
  4. 長くはたらく人がやっている「4つの成功事例」
    1. 成功事例1:気持ちを「外に出す」——頭の中を整理して回復を早める
    2. 成功事例2:「やらないこと」を決める——無理の再発を防ぐ
    3. 成功事例3:ネガティブを言い換える——自己肯定感を「行動で」守る
    4. 成功事例4:未来を描いて「逆算」する——不調時の視野狭窄を突破する
  5. 精神障害の「はたらき方の工夫」を仕組みに落とす5ステップ
    1. ステップ1:自分の「体調メーター」を言語化
    2. ステップ2:業務の「崩れるポイント」を特定
    3. ステップ3:対処行動を短い手順に落とす
    4. ステップ4:相談ルートを2本持つことを心掛ける
    5. ステップ5:定期面談を「最初から」提案
  6. 合理的配慮は「お願い」ではなく、対話で決める調整
    1. 精神障害で「伝わりやすい」配慮の伝え方(テンプレート)
    2. よくある「合理的配慮(精神障害)」の例(就労継続に効果的)
  7. 企業側の工夫も「成功事例」になる:続く職場の共通装備
    1. (1)業務の標準化(マニュアル・フロー整備)
    2. (2)支援の「二軸」(現場上司+定着支援)
    3. (3)キャリアアップ制度
    4. (4)異動による再適合(新しい自分に出会う)
  8. 支援者・担当者向け:定着を伸ばす「伴走の型」
    1. (1)配慮シートを「支障ベース」で作る
    2. (2)初期3か月は「面談頻度を上げる」
    3. (3)企業側に「過重負担にならない選択肢」を複数提示する
    4. (4)「成長機会」の設計を忘れない
  9. まとめ:障害者が長くはたらくために、今日からできること
    1. 付録:面接・入社前に使える「配慮の棚卸しチェック(簡易)」

はじめに:なぜ「長くはたらく」が難しく感じるのか

「就職できても、続けられるか不安」。障害のある求職者の多くが、ここでつまずきます。特に精神障害や発達障害では、体調の波や環境ストレスが「見えにくい」ため、周囲に理解されにくく、結果として離職につながりやすい現実があります。
実際、調査では障害種別の平均勤続年数に差があり、精神障害は身体障害より短い傾向が示されています。

※出典:厚生労働省「障害者雇用実態調査」(各年)

また、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センターが2017年に発表した調査によると、入社1年後の職場定着率が49.3%というデータもあり、「最初の1年」が大きな壁になりやすいことがわかります。

ただし、ここで大事なのは「あなたの努力不足」ではないということ。「続けられる設計」が、最初から職場側と一緒にできているか——つまり、障害者が長くはたらくための条件が揃っているかどうかが、継続の分かれ目になります。

この記事では、現場の支援視点で整理された内容をもとに、求職者のあなたが今日からできる「続ける工夫」と、支援者・担当者が押さえるべきポイントを、障害者雇用の成功事例も交えて具体的にまとめます。

結論:長くはたらくカギは「自己理解×小さな工夫×合理的配慮」

障害者が長くはたらくためには、次の3つが揃うことが重要です。

  1. 自己理解(調子の波、苦手・得意、限界のサインを言語化する)
  2. はたらき方の工夫(波を前提にした「崩れにくい運用」をつくる)
  3. 合理的配慮(対話で決める「必要で過重でない調整」)

合理的配慮は「特別扱い」ではなく、就労上の支障を取り除き、能力を発揮しやすくするための措置です。また、合理的配慮は個別事情に応じて、本人と事業主が話し合いながら決める性質のものだと整理されています。


パーソルダイバースの調査によると、精神障害者に対する合理的配慮の実施内容として「障害特性に合わせた業務の創出、業務量の調整」が83.3%、「上司、同僚からのサポート」が76.7%、「労働時間の配慮」が70.5%となっており、いずれも身体障害者よりも多く実施しています。
(上記3項目はいずれも)身体障害の場合より、精神障害の場合の実施率が高い結果でした。

※出典:パーソルダイバース「企業の障害者雇用における合理的配慮に関する調査」(2025年1月発表)

【データで理解】精神障害の就労が続きにくい「よくある理由」

精神障害のある人が「仕事が続かない」と感じやすい背景は、大きく分けて2つです。

(1)企業側:ノウハウが追いつかず「手探り」になりやすい

精神障害者雇用は増えている一方で、雇用・マネジメントのノウハウが十分に蓄積できていない企業も少なくありません。
その結果、本人の困りごとが表面化してから対応が始まり、遅れてしまうケースが起きがちです。
精神障害者に対する雇用ノウハウについて「蓄積途上の段階にある」「雇用経験が乏しく手探り状態だ」とする企業が57.0%と過半数を占めており、特に「手探り状態」は25.5%と、他の障害種と比べても最も多くなっています。

※出典:パーソル総合研究所 「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査[障害者個人調査]」(2023年7月発表)

(2)本人側:困りごとが「体調」「コミュニケーション」「成長機会」に集まりやすい

パーソル総合研究所の調査によると、精神障害のある就業者のはたらく上での困りごとや不満について、障害者枠ではたらいている人では「教育・研修機会が少ない」「仕事が簡単・単調すぎる」といった『成長機会のなさ』が多く、一般枠ではたらいている人では、「障害をうち明けられない」「人間関係に馴染めない」などの『コミュニケーション』に関する困りごと・不満が多い傾向が見られました。

※出典:パーソル総合研究所 「精神障害者雇用の現場マネジメントについての定量調査[障害者個人調査]」(2023年7月発表)
(パーソルダイバースが運営する『dodaチャレンジ』に登録している精神障害者205名に対して調査)

また、パーソルダイバースが実施した「障害者のはたらく幸せ」に関する調査では、”はたらく幸せ”を感じられない要因として、精神障害者は「休息が取れず、体力的・精神的に不安定になったとき」(67.3%)「障害や特性に対する周囲の理解が得られないとき」(51.0%)、「会社から必要な配慮が得られないとき」(50.0%)と回答しています。

※出典:パーソルダイバース「障害者のはたらく幸せに関する調査」(2021年9月発表)

つまり、企業は精神障害者の長期就業を目指して雇用に取り組んでいるものの、ノウハウ不足から手探りのまま運用が進みやすい状況があります。その結果、本人の課題や強み・弱みに十分対応できず、長期就業が難しくなるケースがあると言えるでしょう。

長くはたらく人がやっている「4つの成功事例」

ここからは、実際に長期就業している精神障害のある社員の工夫(事例)を、再現性の高い形でまとめます。
※本稿は医療的助言ではなく、就労上の工夫を紹介するものです。

成功事例1:気持ちを「外に出す」——頭の中を整理して回復を早める

ある社員は、何かが起きて気分が揺らいだとき、まず「何が起きたか」「どんな行動を取ったか」「どんな感情だったか」を紙に書き出すそうです。そして書き出したものを客観的に眺め、前向きに捉えたうえで、行動するためのアドバイスを書き加えていきます。
※社内ヒアリングに基づく

ポイント

  • 自分自身にではなく「友人に対して書く」ように意識する
  • 相手に、疑問に思ったことをストレートに聞く

これはまさに、精神障害のある方が仕事を続けるコツの王道で、「不調の芽」を小さいうちに摘む方法です。

成功事例2:「やらないこと」を決める——無理の再発を防ぐ

別の社員は、過去の激務で体調を崩した経験から「無理・無茶をしない」と決め、行動を3つに分類(今やる/求められたらやる/やらない)していました。
※社内ヒアリングに基づく

ポイント

  • 頑張りすぎる人ほど、継続の敵は「努力」になる
  • 「境界線(やらない基準)」があると、長期就労の確率が上がる

成功事例3:ネガティブを言い換える——自己肯定感を「行動で」守る

仕事中にネガティブに囚われやすい社員は、言葉をポジティブに変換する習慣で、比較癖を減らし、自己肯定感を上げていったといいます。

ポイント

  • 「気持ちを変えよう」ではなく、言葉から変える
  • 状態が落ちた日にこそ、回復の導線を作る

成功事例4:未来を描いて「逆算」する——不調時の視野狭窄を突破する

マネジャーとしてはたらく社員は、目の前だけでなく「少し先の未来」を描き、逆算して今の行動を整えることで、不調時のしんどさを乗り切る助けにしたといいます。

ポイント

  • 不調時は視野が狭くなりがち
  • だから平時に、「未来の地図(キャリアの方向性)」を用意しておく

精神障害の「はたらき方の工夫」を仕組みに落とす5ステップ

上記の成功事例を「今日から使える形」に変換します。精神障害の「はたらき方の工夫」は、設計が大切になります。各ステップを紹介します。

ステップ1:自分の「体調メーター」を言語化

  • 良い日:集中できる条件(睡眠・通勤・環境)
  • 注意日:兆候(焦り、希死念慮、過眠、イライラなど※個別)
  • 危険日:休むべきサイン(欠勤の前兆)

この「説明できる形」が、後述する精神障害に関する合理的配慮の土台になります。

ステップ2:業務の「崩れるポイント」を特定

例)

  • マルチタスクで混乱する
  • 曖昧指示で不安が上がる
  • 締切が重なると睡眠が崩れる

ここまでわかれば、配慮の提案が具体化します。

ステップ3:対処行動を短い手順に落とす

成功事例のように、

  • 書く(メモ・日誌)
  • 分類する(優先順位)
  • 言い換える(セルフトーク)
  • 未来に戻す(逆算する)

これらを「短い手順」に落とすのがコツです。

ステップ4:相談ルートを2本持つことを心掛ける

会社の上司だけだと、評価・業務が絡み話しづらいことがあります。職場外の支援機関やジョブコーチなどの第三者が入ると、継続が安定しやすいと整理されています。

ステップ5:定期面談を「最初から」提案

不調が出てからではなく、入社直後から「月1回」「隔週」などの頻度で面談を設定し、状況を棚卸しします。これが「続く人」の共通設計です。

合理的配慮は「お願い」ではなく、対話で決める調整

合理的配慮は、障害の特性に配慮した必要な措置を、過重な負担にならない範囲で行うものとされ、個々の事情をふまえた相互理解の中で提供される性質が強調されています。

(※商品・サービス提供等の一般分野では)障害者差別解消法の改正により、民間事業者の合理的配慮提供が義務化されました。
(※雇用分野は障害者雇用促進法等の枠組みで整理されます。)

精神障害で「伝わりやすい」配慮の伝え方(テンプレート)

配慮は「診断名」より、支障→条件→代替案の順で伝えると通りやすいです。

例)

  • 支障:急な割り込みと締切が重なると不安が上がり、ミスが増えます。
  • 条件:タスクの優先順位を朝一番に確認できると安定します。
  • 代替案:口頭指示に加え、チャットで要点を残していただけると助かります。

この形は、指針が示す「話し合い→確定」というプロセスとも整合的です。

よくある「合理的配慮(精神障害)」の例(就労継続に効果的)

※職場・職務により調整内容は異なります。重要なのは「対話で決める」ことです。

  • 業務量・締切の調整(繁閑差をならす)
  • 指示の明確化(曖昧さを減らし、混乱を防ぐ)
  • 定期面談(体調変化の早期キャッチ)
  • 休憩・通院配慮(体調悪化の連鎖を切る)

加えて、厚労省の事例集でも、本人との対話を重ね、職務の細分化や学習ツール、ジョブコーチなどの体制整備で活躍を支える取り組みが紹介されています。

企業側の工夫も「成功事例」になる:続く職場の共通装備

「障害者雇用の成功事例」は、本人の努力だけで成立しません。会社側の工夫として、パーソルダイバースが実施している長期就業のための取り組みを4点ご紹介します。

(1)業務の標準化(マニュアル・フロー整備)

業務が標準化されると、苦手に引っ張られにくく、不安が減ります。

(2)支援の「二軸」(現場上司+定着支援)

配属部署の支援と、部署を越えた支援担当の二軸で面談・フォローし、情報を管理する体制が示されています。

(3)キャリアアップ制度

「障害がある=昇進できない」ではなく、リーダー・管理職を目指せる制度があると、モチベーションと定着がつながります。

(4)異動による再適合(新しい自分に出会う)

「合わない環境で我慢」ではなく、「合う場所に調整する」発想が、長期就労を後押しします。

支援者・担当者向け:定着を伸ばす「伴走の型」

支援者・担当者が関わるなら、次の「型」を持つと支援がブレにくくなります。

(1)配慮シートを「支障ベース」で作る

診断名中心ではなく、支障・条件・代替案の形に。合理的配慮は個別性が高く、話し合いで決める性質があるため、整理の質が成果に直結します。

(2)初期3か月は「面談頻度を上げる」

職場定着が難しくなりやすい「最初の壁」に、前倒しで手当てします。

(3)企業側に「過重負担にならない選択肢」を複数提示する

指針でも、複数の措置がある場合は、話し合いの上で提供しやすい措置を選ぶことが示されています。

(4)「成長機会」の設計を忘れない

精神障害のある就業者の困りごとに「成長機会の少なさ」が挙がることがあるため、定着支援と同時に「伸びる道」も用意すると離職予防になります。

まとめ:障害者が長くはたらくために、今日からできること

以下が要点となります。

  • 障害者が長くはたらくには、「自己理解」「はたらき方の工夫」「合理的配慮」が揃うことが重要。
  • 精神障害のある方が仕事を続けるコツは、感情の見える化/やらない基準/言葉の言い換え/未来の逆算など、再現性の高い工夫に落とし込める。
  • 精神障害に関する合理的配慮は「お願い」ではなく、支障を改善し能力発揮を支える「調整」をする。対話で具体化するほど成功確率が上がる。
  • 企業側の標準化・面談体制・キャリア制度は、障害者雇用の成功事例を生む「装備」になる。

付録:面接・入社前に使える「配慮の棚卸しチェック(簡易)」

  • 体調が崩れるトリガーはありますか?(時間帯/音/対人/締切など)
  • あると安定する条件はありますか?(指示の形/休憩/在宅/面談頻度)
  • 代替案は出せますか?(Aが無理ならB)
  • 困った時の連絡手段はありますか?(誰に・いつ・どう)