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社員の悩みや課題に向き合う「田町のジョブコーチ」が、障害者雇用の日常やちょっと役立つノウハウを紹介する当コラム。今回は、入社3年で劇的な成長を遂げた、ある社員のエピソードをご紹介します。

入社当初は感情のコントロールに苦労することも

私は普段、基本的に目白か田町のオフィスにいます。コロナ前は月に何回か、池袋や大宮のオフィスにも顔を出していました。すると会うたびに、いつも「○○さん(ワタクシの名前)のおかげでここまで成長できました」とお礼を言ってくれる社員がいます。その人の名はBさん。就労移行支援事業所の通所を経て2018年に当社に入社し、目白オフィスから池袋オフィスに異動した社員です。

Bさんはとにかく真面目。でも、非定型の業務やあいまいな会話のやり取りが苦手です。社会人になりたてのころ、あいまいな指示への対応が分からず、なかなか業務を円滑に進めることができなかったそうです。最初は当社でも、慣れることに苦労したと言います。

さらにBさんには、少し考え方がひとりよがりな部分がありました。自分の気持ちに正直というか、自分がやっていることに間違いはないと信じ、思うがままの言動が目立ったのです。

入社直後の研修では「研修内容が分からない」と一方的に強い口調で質問を繰り返し、講師を困らせることもありました。感情のコントロールに苦労することもあり、気持ちがたかぶって声が大きくなることも一度や二度でありません。支援担当側も「これはがんばらないといけないな」と思ったメンバーでした。

異動を機に強みが開花! 自信と余裕が生まれた

そんなBさんですが、課題がある一方、得意なこともたくさんありました。

まず理解力が高い。ちゃんと筋道を立てて説明すれば、すぐに理解してくれます。また、自分なりの業務マニュアルを作るなど、仕事において工夫をする能力もあります。

非定型の業務は苦手でストレスが溜まってしまいますが、定例反復業務なら見事な正確性を見せる。それが分かったのは、非定型の判断を伴う業務がある部署から、定例反復業務がメインの部署に異動したときのことです。定例反復業務を担当し始めた途端、彼の能力が開花したのです。

あるとき上長に話を聞いたら「エースクラスのパフォーマンスを見せています」とのことで、いやはやびっくりしました。オフィスを訪ねてBさんと話してみたら、それまでの緊張感やピリピリした雰囲気が一切なく、余裕を感じさせる笑顔! 業務で高いパフォーマンスを発揮できたことが自信につながり、焦りや不安がなくなって、ゆとりを持って仕事や人と向きあえるようになったようです。

異動前までは、定着面談のたびに言葉遣いや業務態度などを支援機関の方と細かく指摘していましたが、異動後は一切そんな必要がなく、面談時間があまるほどになりました。業務が人を変える・成長させるという典型的な例だなと思うと同時に、本来持っている能力が発揮できる場所が見つかって良かったなと、しみじみ思いました。

がんばったのは、ほかの誰でもなくBさん自身

Bさんは評価が高くなったいまの状況を「○○さんが僕のことを嫌にならずにアドバイスし続けてくれたおかげです」と毎回言ってくれます。でもそれは、心の底から本人の努力の賜物だなあと思います。

「僕はどこがいけないのでしょうか、どうすればよいのでしょうか」と自分自身に真正面から向き合い、できる工夫は残らずやる。苦手な業務でもあきらめずにチャレンジし、指摘を受けても凹まず(たまにはイラっとしたと思うけど)がんばり続けた。その根本にあったのは「今度こそここで長くはたらきたい」という思いだったのでしょう。

「今期は評価も高かったです! ありがとうございます」と、この春うれしそうに報告してくれたBさん。いつもお礼を言ってくれてありがとう。でも、もう言わなくてもOKですよ。私だけでなく周囲のみんなも、いまのBさんの安定は本人の努力の結果だと分かっているので。これからもたまには池袋に顔を出すので、気軽に雑談でもしましょう。