さまざまな障害のある社員が、合理的配慮のもとで得意な能力を活かし、自分らしく活躍するパーソルダイバース。同社には、特に活躍が目立った社員を社内MVPとして表彰する制度があります。「吃音(きつおん)」という障害に向き合いながら2021年度下期MVPに輝いたMさんに、障害との向き合い方や仕事上の工夫、今後のキャリアへの考え方などをお聞きしました。

サブリーダー N.M

パーソルダイバース株式会社 受託サービス第1本部
Staffing受託第2事業部 オーダーサポート第3グループ 第1チーム

Mさんが向き合う「吃音」の症状とは。

吃音とは、会話でのコミュニケーションに困難さがある発話障害の一つです。症状は主に3つに分かれていて、「おは、おは、おは、おはよう」にように同じ言葉を繰り返す連発(繰り返し)、「じーぶーんーは」と言葉を伸ばす伸発(引き伸ばし)、「………こんにちは」と言葉を出すまでに間が空いてしまう難発(ブロック)があります。

吃音症状のある方の9割は先天性の発達性吃音で、残り1割はストレスやケガなどが原因で後天的に発症する獲得性吃音です。

今回登場するMさんには、連発(繰り返し)の症状があります。吃音のほかに注意欠陥多動性障害(ADHD)も診断されていますが、そちらは薬の効果で比較的症状が落ち着いているそう。一方吃音は、緊張したときに発症する傾向があり、例えばこの日のインタビューでも何度か連発の症状が出ていました。

しかし仕事においては、障害による困難さを感じさせない活躍ぶり。 現在はグループ内の業務を受託するチームのサブリーダーとして、配下のメンバーに指示を出したり、相談に乗ったりするほか、受託業務のマニュアル作成や業務指導の台本作成も行っています。コミュニケーションの困難さをなくすために、Mさんは一体どんな工夫をしてきたのでしょうか。

工場勤務でミスを多発。診断を受け、環境を変えることに。

編集部 Mさんがパーソルダイバースに入社したのは2020年1月ですね。それまではどんなことをしていましたか?

M 音楽系の専門学校に通っていて、卒業後も24歳まではバンド活動をしていました。担当はギターとボーカル。不思議なことに歌うときは吃音が出ないんです。決まった歌詞を口に出すなら問題ないのかもしれません。25歳になったとき「しっかりはたらこう」と思い、バンドを辞めて建築材料を作る会社で加工作業や塗装作業の仕事に就きました。

編集部 そのときはすでに障害を自覚していたのですか?

M 吃音に関しては、昔から気づいていました。でも作業中にけがをしたり、単純作業でミスをしたりすることが多いので、何か他にも障害があるかもしれないと思い病院を受診しました。そこで初めて、ADHDの診断を受けました。そのとき、吃音やADHDといった自分の特性が、はたらきづらさを生み出す要因になっていたことを自覚しました。

先天性の特性は変えられませんから、自分を取り巻く環境を変えるしかありません。もともと工場勤務は自分には合わないなと感じていたこともあり、自分の特性を受け入れてくれる障害者雇用というかたちではたらくことを決めました。そして、就労移行支援事業所での訓練を経由してパーソルダイバースに入社しました。現在は派遣の求人内容を専用のシステムに入力する業務を担当していて、メンバーにその日行う業務を割り振ること、質問・相談に答えながら納期を守るように導くことが私の主な役割です。

自己開示したことで、はたらくことがラクになった。

編集部 障害者雇用としてはたらくことに対して、当初はどんな気持ちがありましたか?

M それまでは、吃音があることで臆病になったり、落ち込んだりすることがたくさんありました。でもこれでは先に進まないと思って、入社したらまず吃音について周囲に伝えようと決めました。障害者雇用ではたらくということは、障害を開示することだとも思いましたし。最初はビクビクでしたが、言ってしまったほうが気持ちのうえでもラクだと気付きました。ですから今でも、初対面の方にはまずは自分の特性を知ってもらうようにしています。

編集部 自己開示することが、活躍に向けての第一歩になったんですね。

M そうかもしれません。以前はプライドのようなものがあって、周囲の人と比べて話し方が明らかに違うことを気にしすぎていました。でも、いろんな人がはたらくパーソルダイバースの中にいると「比べたり隠したりしても仕方がない。むしろこんな自分が活躍することに意味があるのでは」と思うようになりました。

そこからはたらく姿勢が変わりましたね。自分と同じように障害に苦しむ人のためになりたい、はたらく道を作りたいと思うようになり、自分にできることを探したら結構たくさん出てきたんです。例えば業務マニュアルの整備や、後から入った人にレクチャーするための台本作成など。それらに取り組むうちに会社からも評価され、サブリーダーに昇格。MVPの受賞につながりました。

メンバーに指示を出す側になるのでそれまで以上に言葉のコミュニケーションが必要になり、吃音を持つ自分には難しいことかなとも思いましたが、心配するほどではありませんでしたね。苦労しなかったといえば嘘になりますが。

活躍する自分の姿が、誰かのお手本になれたら。

編集部 業務において、具体的に行っている工夫を教えてください。

M 普段の業務ではチャットを活用し、直接話していて言葉が出ない場面では指し棒を使うこともあります。会議など人前で喋る場合には、事前に自分が話すことをイメージして資料を作ります。苦手な言葉を避け、言いやすい言葉を使うようにもしています。また、改めてメンバーに自己開示をするなど、相互理解につながる工夫も重ねていますね。

サブリーダーになってからは、以前より「なりたい自分」を考えるようになりました。先ほども話したように、私は自分のように悩んでいる方の背中を押せる存在になりたい。何も分からないところからスタートして、考えもしなかったサブリーダーになれましたが、まだまだ自分には可能性が広がっているんじゃないかなと思うんです。これは自分だけじゃなくみんなにも言えることですから、自分がキャリアモデルになって道筋を作っていけたらと思っています。

編集部 仕事で活躍するようになって、私生活でも変化はありましたか?

M それこそつい最近のことなのですが、吃音を両親に開示できました。実は吃音って意外とごまかすことができて、言葉に詰まりそうになったら黙ったり、別の言葉を選んだり、人前で話す必要があると事前に分かっていたら欠席したり……そんな工夫をしていたので、両親は今まで知らなかったと思います。ひょっとしたら知らないふりをしてくれたのかもしれませんが。

自分に自信がついた今、気持ちも素直に伝えられる。

編集部 なぜご両親に吃音のことを伝えようと思われたのですか?

M それは自分に自信が持てたからです。会社でMVPを獲ることができた。それは言い換えれば「吃音という特性のある自分を、会社が認めてくれた・評価してくれた」ということです。両親は「たいへんだったね、あなたはあなたのままでいいんだよ」と言ってくれました。それを聞いたとき、吃音はそこまで気にすることじゃなかったのかなとも思うと同時に、自分に自信がついたからそうやって前向きに捉えられたのだとも思いました。

かつては自分に親切にしてくれた人に「ありがとう」や「ごめんなさい」すら言えず、伝えたい気持ちを伝えきれていませんでした。でも、自分を見つめ、行動し、仕事で成果を残すことで変わることができました。この会社に入って良かったと、素直に思えます。

インタビューに先駆けて、Mさんは質問に対する答えをデータと紙に書き、しっかり準備していました。それはMさんにとって欠かせない「対応策」。自分の特性を把握しているからこそ、適切な対応策が分かり、持っている力を十二分に発揮させることができるんだと教えてくれたようでした。 口ごもり、同じ単語を何度も繰り返しながら、一所懸命自分の言葉で話してくれたMさん。彼の口から出る言葉の一つ一つには、力強い意思が宿っていました。