先日、このコラムを書いている著者(当社ジョブコーチ)の元に、横須賀のオフィスから「精神・発達障害の社員と一緒にはたらくためのヒントを教えてほしい」という依頼がありました。これから精神・発達障害がある方の採用を増やすということで、「どうやって接すればいいのか」「迎える側も不安払しょくしたい」という要望があり、研修を実施しました。研修を実施しながら思いました。迎え入れる会社の努力、また長期就労のため、当事者が自発的にする努力、どちらも欠かせないな、と。具体的なお話をこれから紹介します。

迎え入れる現場のスタッフも不安を抱えている

某日、横須賀のオフィスに当事者とともにはたらくスタッフ、約15人が集まり、2時間半の研修がありました。横須賀エリアではこれまで、知的障害の社員の採用が多く、精神・発達障害がある社員の採用はほとんどなかったそうです。

また、福祉経験より農業経験があるスタッフがほとんど。はたらく当事者社員も知的障害の方がほとんどで、「迎え入れるスタッフも精神・発達障害の方と一緒にはたらくことに不安を抱えているから、はたらくヒントをインプットしたい」「安心して社員を迎え入れたい」「長くはたらけるためのサポートをしたい」ということが、研修実施のきっかけでした。

研修では基礎的な障害・症状の紹介や、コミュニケーションの取り方などを伝えました。
最後の質問コーナーで次々と現場の悩みが飛んできたのが印象的であるとともに、「しっかり迎え入れたい」という本気度を感じました。

【当日の主な質問内容】

他責傾向が強い、自分の課題に向き合えないメンバーへのアプローチはどうすればいいのか
→勤怠日数、業務実績など数字で表せる客観的事実をベースに、改善を促しましょう

農作業でその日のノルマがある。急がないといけない場面でどう伝えたらよいか
→急がなくていい仕組みを作ることが大事。適性を見て業務の切り出しや、任せる業務をきめるのはどうか

・障害者と農家さんがコミュニケーション取られるうえで気を付けた方が良いことは
→社員の許可をとったうえで、病名ではなく「この社員はこういうことが苦手」とあらかじめ伝えるといい

・合理的配慮とよく聞くが、どこまで配慮すればいいのか
→当事者からの要望を受けて、会社として負担が過剰にならない範囲で対応すること。全部を心配することではない

・そもそもどこまで心配すればいいのか
→基本的には同じはたらく仲間。給料をもらっている社員でもあるので、「やるべきこと」「やってはいけないこと」など適切な指導を行ったうえで、言い方や指示の出し方に問題があれば当事者と話し合いながら最適な方法を模索する。

などなど、質問が飛び出し、通常1時間半の研修が2時間にもおよびました。「学ぶ姿勢」は企業側にもしっかりとある、ということをここで改めてお伝えできればと思いました。同時に思い出したのは、当社で長くはたらく社員の努力です。著者が社員の定着支援を行っていた際、長くはたらく社員から、そのコツをいろいろと聞いたので、お伝えしたいと思います。

入社する社員も自己認知など努力を行っている

精神・発達障害の社員が長く、安定就労を行うコツ。実際にはたらく社員から、さまざまな声・工夫を聞きました。最初に断っておきますと、これは「正解」ではありません。障害や障害特性、またその人の個性によって、症状の出方と対策方法はそれぞれ違います。ですので、あくまでも「成功例」を紹介したいと思います。

・自分の症状について自作の「カルテ」を準備する
→自分の性格、スキル、障害特性、配慮事項をパワーポイントに記して提出した社員がいました。文字化することで会社が行う配慮、やってもらう仕事が明確になり、今年で入社10年と、長期就労を実現しています。

・「安定して仕事を続けること」を最優先にする
→「仕事も家のことも完璧に」ではなく、仕事に慣れるまでは家事は最低限。ゆっくり眠れるように寝具やアロマを焚く、土日のどちらかは静養に努めるなど、長くはたらくための工夫を最優先にする。

・SNSなどスマートフォンを見るのをほどほどにする
→SNSを見始めると、深夜まで続いてしまう社員がいました。一念発起し、Facebookやインスタグラムは最大10個ずつしか見ない、とルールを決めて生活にメリハリをつけました。

・職場で他者と比べない。自分の成長に目を向ける
→どうしても周囲とは仕事の進め方や習熟度を比べがち。そして自己肯定感が下がることも。ある社員は他者ではなく、前日の自分といまの自分を比べていました。「少しずつ覚えること、出来ることが増えている」とより仕事に集中できるようになったそうです。

まだほかにもいくつかありますが、「自分にできる努力・工夫」を重ねて、会社の戦力となって活躍しています。

お互いの努力が安定就労できる環境を生み出す

現場にいて感じていることは、会社と社員、お互いを理解するために歩み寄ることが必要だなと痛感します。
特例子会社・障害者雇用と言っても、「はたらいた対価に対して給料を払う」ということが大前提。当事者社員もお客様に対して正しい質、正しい納期でサービスを提供する義務があり、そのための努力が必要だと思います。

当然ながら企業は、その努力を支える環境や、当事者がスキルを発揮できる環境・仕組みづくりなどの配慮が必要です。会社に求めすぎるのではなく、また会社は心配しすぎるのではなく、適切な距離、努力を双方が続けることで、それぞれにとって、居心地が良い場所ができるのではないかと感じました。