障害のある人の雇用に関して、日本には国が定めたいくつかの法律や制度があります。これから初めて障害者雇用に取り組む企業や採用担当者の方に向け、最低限知っておきたい基本的な義務やルールをご紹介します。

障害者基本法とは

障害者基本法は、障害のある人に関する国の施策の基本理念を定めた法律です。地域社会における共生や、差別の禁止、医療・介護・教育・雇用の促進、障害の原因となる傷病の予防に関する基本的施策などが定められています。

第1章総則・第18条では「職業相談」についての記述があり、国および地方公共団体は、障害のある人が多様な就業の機会を確保するよう努めるとともに、障害のある人一人ひとりの特性に配慮した職業相談、職業訓練などの施策をしなければならないとされています。

また、 同19条では「雇用の促進」について定められており、国および地方公共団体は、事業者における雇用を促進するため、障害のある人の優先雇用や、そのための法律や制度を作らなければならないとしています。

さらに企業に対しては、障害のある人に適切な雇用の機会を確保するとともに、障害のある人一人ひとりが継続的に仕事に従事できるよう必要な支援を行わなければならないとしています。

障害者差別解消法とは

障害者差別解消法は、国や都道府県、市町村、事業者などに対し、障害を理由に障害のある人を差別することを禁止する法律です。

事業者に対しては、雇用以外のすべての場面において(※1)、障害のある人に対する合理的配慮を行う義務を定めています。この合理的配慮の提供は、2021年5月末の改正により、努力義務から法的義務へと変わりました。

※1 雇用に関しては、次に紹介する「障害者雇用促進法」の規定が適用されます。

障害者雇用促進法とは

障害者雇用促進法は、障害のある人の職業の安定を図ることを目的とする法律です。事業主が障害のある人を雇用する義務や、職業生活における自立を実現するための職業リハビリテーションの実施、雇用促進に対する措置などについて定めています。

事業主に対しては、具体的には次のような義務が定められています。

義務1:障害者の雇用義務

事業主には、法定雇用率(障害者雇用率)に相当する人数の、障害のある人の雇用が義務付けられています。2022年6月時点での法定雇用率は2.3%で、従業員規模43.5人以上の事業主が適用対象となります。

なお、法定雇用率は今後も段階的に引き上げられることになっており、対象となる従業員規模も変わる可能性があります。

義務2:納付金の支払い

障害者雇用に伴う、事業主の経済的負担の調整を図るための制度です。

前述の障害者雇用率未達成の事業主は、不足1人につき月額50,000円の納付金を納める必要があります(※1)。逆に、雇用率を超えて雇用している場合は、超過1人につき月額27,000円が支給されます(※2)

※1 適用対象は常用労働者100人超の事業主。ただし、常用労働者100人超200人以下の場合は月額40,000円。
※2 適用対象は常用労働者100人超の事業主。100人以下の事業主は、別途報奨金制度として、障害のある人を4%または6人のいずれか多い人数を超えて雇用していた場合、超過1人につき月額21,000円支給。

義務3:差別の禁止と、合理的配慮の提供

事業者が、採用や賃金、人事評価などにおいて、障害者であることや、障害を理由に適切に評価しないのは「差別」にあたるとして禁止しています。事業者は、労働能力などを適性に評価していることを具体的に説明できるようにしておく必要があります。

また、就業において必要とする配慮を、「荷重な負担」とならない範囲で提供し、実現が難しい場合には代替案を提示するなど、対応を協議する「合理的配慮の提供」も、義務として定められています。

この差別の禁止や合理的配慮の提供に関して、相談窓口の設置など、障害者からの相談に適切に対応するために必要な体制を整備しなければならないことや、雇用している障害のある人から苦情が出た場合に、その苦情に対して自主的に解決する努力義務を定めています。

障害者総合支援法とは ~就労移行支援事業と継続支援事業(A型/B型)~

障害者総合支援法は、障害のある人の日常生活および社会生活を支援するための福祉サービスなどについて総合的に定めた法律です。この法律に基づく就労関連の事業として、大きく「就労移行支援事業」と「就労継続支援事業」があり、就労継続支援事業は、さらにA型とB型に分類されます。

以下に、これら3つの事業の概要と違いを簡単にまとめます。

就労移行支援事業とは

就労を目指す65歳未満(※1)の障害のある人を対象に、就労に必要なスキルの習得や求職活動をサポートする事業です。利用期間は最大2年間で、最終的には一般企業への就職を目標としています。

※1  65歳に達する前の5年間、障害福祉サービスの支給決定を受けていた方で、65歳に達する前日までに就労継続支援の支給決定を受けていた方は、引き続き利用することが可能です。

就労継続支援A型事業とは

就労継続支援事業とは、65歳未満(※1)の障害のある人で、障害や病気のために一般企業ではたらくのが難しい方に対し、雇用契約を結び、はたらく場やスキル向上の訓練を提供する事業です。

A型事業では、障害のある人が、企業や個人から事業所に依頼された仕事を行い、給与を受け取ります。就労経験があるが現在ははたらいていない方、特別支援学校や就労移行支援サービスで求職活動をしたが就労に結び付かなかった方などが利用できます。

※1  65歳に達する前の5年間、障害福祉サービスの支給決定を受けていた方で、65歳に達する前日までに就労継続支援A型の 支給決定を受けていた方は、引き続き利用することが可能です。

就労継続支援B型事業とは

A型と異なり、事業所と利用者が雇用契約を結ばないものは「就労継続支援B型」に分類されます。利用者が受け取るのは賃金ではなく「工賃」となり、最低賃金の規定は適用されません。

B型の対象となるのは、就労経験はあるが年齢や体力の面から一般企業での就業が難しくなった方や、就労移行支援サービスを利用した結果、B型事業の利用が適切とされた方です。上記2つにあてはまらなくても、50歳に達している方または障害基礎年金1級を受給している方も利用できます。

障害者雇用に関する5つの主なルール

以上の法律や制度から、障害者雇用に直接関わる企業が守るべきルールをまとめると主に下記の5つになります。果たすべき義務や責任をきちんと理解できているか、障害者雇用に取り組む前に今一度確認してみてください。

  1. 障害を理由とする差別の禁止
  2. 法定雇用率に則った障害者の雇用
  3. 納付金の納入義務(所定の法定雇用率を満たせなかった場合)
  4. 合理的配慮の提供(採用段階、雇用期間)
  5. 継続的に仕事に従事できるうえで必要な支援の実施