日本の障害者雇用に関する法律は、戦後になって本格的に整備され始めました。現在ではどういった方がその対象となっているのか、障害者雇用を取り巻く環境はどう変化しているのか、そしてどのような流れで障害者雇用に取り組むのか、概要を簡単に紹介します。

障害者雇用の歴史

第二次世界大戦後の日本では、帰国兵士を中心とした身体障害者(傷痍軍人)の雇用のために、法制度の整備が急務の課題となっていました。そこで、ヨーロッパにおいて主流であった法定雇用率方式を参考として、1960年に「身体障害者雇用促進法」が制定されました。これが、後の「障害者雇用促進法」の基となります。

1976年の改正により身体障害者の雇用が努力目標から“義務雇用”になり、雇用率制度が創設されました。その後、法定雇用率の算定基礎の対象となる障害は順次拡大され、1998年には知的障害者が、2018年からは精神障害者が新たに加えられました。

ちなみに雇用義務対象とは、「該当する障害者を必ず雇用しなければならない」というものではなく、「雇用対象となる障害者の範囲に、その障害も含まれている」という意味です。2022年7月時点では、「身体障害」「知的障害」「精神障害(発達障害を含む)」の3つが対象となっています。

障害者雇用の現状

下記の図は、厚生労働省が2021年12月に発表した『障害者雇用状況の集計結果』です。

出典:厚生労働省発表 「令和3年 障害者雇用状況の集計結果」

日本の雇用対策が身体障害者から進められてきたという経緯もあり、身体障害者の雇用数が最も高くなっています。しかし、雇用市場全体における身体障害者の割合は減少しつつあり、採用する側は人材獲得が難しくなっているともいえます。

一方で、発達障害者を含む精神障害者の雇用数は急増。精神・発達障害者を受け入れるための体制構築や業務創出、定着・活躍に向けたマネジメント方法を、さまざまな企業が模索しています。

「障害者」とは誰のことか

障害者雇用促進法では、障害者雇用における「障害者」を、「身体障害や知的障害、発達障害を含む精神障害、その他の心身の機能の障害により、長期にわたり職業生活に相当の制限を受ける者、あるいは職業生活を営むのが著しく困難な者」と定義しています。

このうち、企業の法的義務である「法定雇用率(障害者雇用率)」の算定においては、障害者手帳を保持している人が対象となります。つまり、障害者としてはたらくということは、「障害者手帳を開示してはたらく」ということです。

障害者手帳について

取得する手帳の種類は、障害によって分かれています。

身体障害のある人・・・「身体障害者手帳」

肢体、視覚、聴覚、音声機能や言語機能、内部障害(心肺機能、免疫、腎機能、小腸、ぼうこうまたは直腸、呼吸器障害など)が該当します。

知的障害のある人・・・「療育手帳」

地域によって名称が異なりますが、主に「軽度・中度・重度・最重度」の4区分に分類されています。

精神障害/発達障害のある人・・・「精神障害者保健福祉手帳」

気分障害(後天性。うつ病や双極性障害)、統合失調症、てんかん、高次脳機能障害、発達障害(ASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)、LD(学習障害)、ADHD(注意欠如多動性障害))などが該当します。

手帳を取得するきっかけや、開示すべきかどうかの判断は、人によりさまざまです。手帳の種類や障害名だけでは、その人の特性を判断することはできません。一人ひとりの職務能力や特性、そしてはたらくことについての意思を理解し、その人にあった就業機会や配慮を提供することが大切です。

障害者雇用を取り巻く環境

近年、障害者雇用を取り巻く環境が大きく変化しています。ここでは3つの観点から、主な動きを紹介します。

制度の変更

2016年4月に障害者雇用促進法が改正され、法定雇用率の上昇とあわせて
「雇用分野での採用・賃金・配置などの差別的取り扱いを禁止」
「合理的配慮の提供を義務化」
「相談体制・苦情紛争処理課題解決支援の構築・整備」
の3点が盛り込まれました。

さらに2020年4月からは、週20時間未満の労働者を雇用する企業への給付と、中小企業を対象とした認定制度の2つの制度が新設されました。また、1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者に対しては、一人あたり0.5から1カウントとして雇用率に算定するという特例措置が実施されています(2023年5月まで)。

新型コロナウイルス感染拡大による影響

感染予防に伴うテレワークの増加は、障害のある人の就職活動やはたらき方にも影響を与えています。オフィス勤務から在宅勤務に移行するケースが多く見られ、その結果、通勤が困難な方や就業機会が限られている地方在住の方の雇用が進んだという予期せぬ効果が生まれました。その一方で、テレワークでも従事できる業務の創出やオンライン主体でのマネジメント、社員同士のコミュニケーションや健康管理といった新たな課題も浮き彫りになりました。

ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の観点

企業は今、人材の多様な能力や価値観を尊重し、組織の力に変えるための取り組みが求められています。障害者雇用においても同様に、法的義務を果たすためだけでなく、多様な個性を”企業の戦力”として受け入れ、一人ひとりのはたらく意向や能力に向き合い、定着・活躍を図ることが求められています。

企業における障害者雇用の主な流れ

最後に、障害者雇用の大まかな流れについても簡単に紹介します。雇用方針や現在の雇用状況、社内体制や制度、環境など、障害者雇用において取り組むべき対策は企業により異なります。自社の状況を鑑みて、以下のような流れとポイントを踏まえて取り組んでいくとよいでしょう。

雇用の計画

  • 雇用の目的と自社の理念の確認
  • 雇用計画の策定(雇用人数、雇用形態、業務、コスト試算、制度)

雇用準備

  • 業務の創出、切り出し
  • 人材要件の策定
  • 給与や雇用形態、就業時間などを踏まえた募集条件の策定
  • 社内理解の獲得

採用~雇用後

  • 会社説明会の実施
  • 募集開始、採用母集団の構築
  • 採用選考、実習
  • 受け入れ時のサポート体制、配属部署へのフォロー
  • 入社時研修
  • 教育、育成
  • 健康管理、マネジメント