パーソルグループの特例子会社のひとつ、パーソルエクセルアソシエイツ。主要事業のひとつとしてアグリ事業を展開しており、露地栽培やハウス栽培を行う富田林事業所と水耕栽培を行う岸和田事業所の2つの農園があります。農業は日照時間、気温、雨、台風など天候条件に大きく左右されるため前年と同じ作業をしても、必ずしも同じものができるとは限りません。

そう聞くと、障害がある社員にとっては難しい仕事に思えるかもしれませんが、パーソルエクセルアソシエイツのアグリ事業部では、一年を通じて野菜の生産から収穫、販売までを一貫して自社で行い、出荷した野菜は、地元のスーパーや学校給食、料亭など幅広く利用されています。

富田林事業所では地元の特産品で、栽培が難しいとされる海老芋栽培にも挑戦しています。その成功の秘訣を現地で取材しました。

中山 侑紀 

パーソルエクセルアソシエイツ株式会社
アグリ事業部 富田林事業所 第二チーム

大西 純人 

パーソルエクセルアソシエイツ株式会社
アグリ事業部 富田林事業所 第二チーム

特性や制約があっても、ここで頑張れば夢が叶うかも

富田林事業所は 近鉄線富田林駅から車で約10分。農園は約2万平方メートルの広さで、サッカーコート約3面分に相当します。ここでは、露地栽培とビニールハウスを用いた土壌栽培が行われています。

約50名の知的障害や発達障害のある社員が、十数名の指導員のもと「米、ナス、イチゴやオクラ、海老芋など」を含む主要品目20種類の作物と、地元農家さんの指導を受けながら、合計で約50種類の作物を栽培しています。

午前中の作業が終わり、畑から近くの事務所に笑顔で戻ってきた、入社6年目の大西さんに話を伺いました。

ナス栽培の作業をする大西さん(右)と指導する中山さん(左)

編集部 サングラスをかけていらっしゃいますね。農作業の際はいつもかけているのですか?

大西 はい、そうです。私は、光に対する感覚過敏があるので野外作業時には必ずサングラスをかけています。また精神障害者保健福祉手帳を保有しており、知的障害もあります。3~4歳のときから周囲との会話がかみ合わないなどの症状や特性がありました。

編集部 入社したきっかけを教えてください。

大西 農業がやりたくて地域の支援センターに相談して紹介を受けました。祖父が農業を営んでいて、その影響を受けて自分も農業に興味を持ち、大学は農学部に入学しました。人とのコミュニケーションが得意ではないため、黙々と作業に集中できる農業が自分にあっていると思いました。

この仕事は楽しく、休憩時間にお茶を飲みながら空を眺めたり、植物を観察したりすると、心が落ち着きます。

編集部 仕事内容を教えてください。

大西 指導員の指示に従い、種を蒔いたり雑草を取ったり、野菜や果実を栽培する農業全般です。また、指導員と連携して農薬の管理なども担当しています。その中でも、大学で学んだ知識と経験を活かし、他のメンバーに少しだけ教える機会もあります。

コミュニケーションが得意ではありませんが、ゆっくりと丁寧に伝えたときに、相手が理解してくれることがとても嬉しいです。ここで様々な仕事を学び、将来的には祖父のように自分の農園で野菜を育てることを考えています。

編集部 素敵な夢があるんですね。

大西 自分には様々な特性や制約がありますが、無理をせずに自分のペースで健康的に過ごし、仕事を通じて様々なことを学べば夢が叶う可能性があると思えるようになってきました。もっと頑張りたいです。

農業後継者を育てる気持ちで、メンバーと向き合う

2021年10月に入社し、指導員を務める中山さん。

前職は大阪府の農林水産研究所のスタッフでした。現在はメンバーの指導や育成に主に取り組み、台風や大雨など突発的な状況の際には農園の管理や保守も行います。

「5年後、10年後、私たち指導員なしで彼らだけで作業できるようにしていきたいと考えています。まさに農業の後継者育成という気持ちです」と笑顔で話す中山さん。その転職理由から聞いてみました。

中山 実は特別な転職理由はありません。知り合いの紹介で入社しました。前職の時から障害のある人たちと一緒にはたらいていたので特に抵抗はありませんでした。むしろ、「何か面白そうなことができそうだな」と、思ったことが、転職の理由の一つです

編集部 入社して、実際に面白そうなことはありましたか?

中山 前職は研究職でプロフェッショナルたちの集まりでした。段取りが早く、コミュニケーションも迅速です。それと比べると、今の環境は真逆ですね。思い通りに進まないこともあり、昨日と同じことができない社員がいます。しかし、こういった違いがむしろ面白いと思うのかもしれません。みんなの「できること」を増やすのが楽しいです。

半年、1年と時間をかけて、それまでできなかったことをできるように導く。これは大きなやりがいで、入社してから気づいた「面白いこと」でした

編集部 農作業の指導はどのようなところが難しいと感じますか?

中山 例えばナスを栽培する場合、言葉で表現すると毎年同じ作業に思えるかもしれませんが、実際の作業を詳しく観察すると、毎年異なる要素が影響します。

日照時間、降水量、害虫の発生など…が影響し、それに応じて与える肥料、実の付き方、収穫時期などが変わり、「昨年と同じこと」ではありません。「十分育ったら収穫していいよ」と言っても、実は明確な基準があるわけではないです。その年ごとに微妙に異なるため、みんなからは「前と言ったことが違うやん」と言われます(笑)。「いやいや気候が変わるだけで、やることがいろいろと変わるんだよ」と説明しています。

編集部 それは確かに難しい!大変ですね…

中山 でもこのような人たちと仕事をすることは、「悪くないな」って思うんです。先ほど言った、メンバーの成長を感じることもそうなのですが、まず、みんな真面目で仕事熱心です。伝えたことは確実に実行してくれます。知識と経験が蓄積されると、いつのまにか一通りの作業を覚えて実践できるようになります。

編集部 栽培した農作物は、しっかりと流通しているのもこちらの特徴的ですよね。

中山 質の高いものを作り、それを売り、完売することが目標です。幸い評判は上々。地域社会との繋がりを大切にして、富田林の名にふさわしい作物を生産し、事業として自立していくことを目指しています。

「スキルは身につくし、アットホームな雰囲気ではたらきやすいですよ。まだまだメンバー募集中なので、気になる方はぜひ入社してください!」と笑顔でアピールした中山さんでした。

障害者の自立を支える農業の可能性を探る

最後に、富田林事業所の所長 宮井さんに話を伺いました。

宮井 私はここ、富田林が地元です。親戚も農業を営んでおり、子どもの頃から身近な存在でした。父親の世代に発達障害と思える特性のある人がいました。その方は周囲のサポートを受けながら農業で自立し、生計を立てていました。

ちゃんとはたらいて収入を得るということは、障害の有無に関わらず、平等な機会です。それをどうサポートしていくかが大切です。障害があっても生計を立てるための職業として、農業の存在を高めていきたいと思います。

元々、ITエンジニアだった経験を活かし、ITを活用したサポートも有益だと考えており、農業アプリの開発も検討中です。

障害のある社員の自立を実現する手段としての農業は、難しくもやりがいに満ちた挑戦です。まさに現在進行形で行っている富田林の将来に期待が高まります。