パーソルテンプスタッフ株式会社が採用した、パラアスリート3名のインタビュー。今回は後編として、パリ・パラリンピック、ゴールボール男子で活躍する、行弘敬佑さんのインタビューをお届けします。障害への向き合い方、アスリートとして競技に対する思い、そして競技支援をする会社への感謝の気持ちをお伝えします。

パラアスリートやゴールボールの競技については、前編をご覧ください。

自己認知を高め、できること、できないことを認識する。できることで恩返しをすることが大事

※パーソルテンプスタッフに入社したパラアスリート3名。行弘さんは右から2人目。右端は木村社長

編集部:まず、行弘さんの経歴や入社経緯などを教えてください。

行弘さん:大学を卒業して、新卒で大手化粧品メーカーの営業をしていました。当社は2社目です。大学時代に病気を発症して、リハビリの一環として競技を始めたのですが、社会人になってからは競技と仕事の両立が難しく、もっと競技に集中できる環境を探していたときに当社のことを聞き、縁あって入社しました。

代表になると2週間の遠征などがあります。前職では有給休暇を利用していました。なかなか、取りづらい雰囲気もあったのですが、いまは練習、合宿、遠征などに参加し、結果をだすことが自分の仕事です。競技にどっぷり向き合える環境をいただき、本当に感謝しています。

編集部:大学の時に病気を発症したとのことですが、どのような症状なのでしょうか

行弘さん:病名はレーベル遺伝性視神経症という国の指定難病です。視野の中心部分の欠損で、真ん中が見えていない状態です。大学1年の夏休みに目の痛みを感じ、1週間経っても痛みが消えなかったので、通院を開始。検査などを行い、半年後に診断を受けました。なかなか治りにくい難病だと聞きましたが、不思議と悲観的にはなりませんでした。楽観的とまでは言い過ぎかもしれませんが、「なるほど、いまの状態でできることを見つけて行けばいいんだ」と思ったことを覚えています。

仕事をするうえでは、もちろん全部が見えている人に比べると、作業スピードは遅いです。書類の読み取りにも時間がかかるので、どうしても判断が遅くなります。迷惑をかけることも当然あります。

そこで、考え方を変えました。自分はできないことがある。できないことはどうやってもできない。できないことは周囲を頼る。その代わりに自分が得意なことは率先してやる、と決めました。具体的には、私は大学でシステム開発を勉強していたのでパソコンに強い。プログラミングを強みにして、業務で成果を出すこと心がけました。これは、生活においても、また競技においても一緒で、できないことを認識すること、周囲に頼ること、頼りっぱなしではなく、できることでお返しをすることは自己肯定感を高めるうえでも必要なことだと思います。

できないことよりもできることを数えていくうちに、心はポジティブになっていく

編集部:行弘さんは新卒で入社した会社は一般枠だと伺いました。何か理由はあったんですか?

行弘さん:大きな理由は、病気があっても、制約とか制限がないなかで、周囲と同じ条件の中で、自分がどこまでできるかチャレンジしたかったからです。私は大学まで福岡にいました。システム系の勉強をしていたのですが、いろいろと会社を探す中で、会社の理念に魅力を感じて東京の化粧品メーカーに入社しました。初めは営業サポートをしていましたが、「営業の本質を分からないとサポートなどできない」と思い、志願して営業職に異動しました。

編集部:さきほど楽観的だというお話もされましたし、営業にもチャレンジするなど、とてもポジティブな性格だと感じましたが、実際はいかがでしょうか。

行弘さん:そうですね、確かにポジティブかもしれません。大学時代に発症したときは、目の見え方がかなり変わってしまったので、文字が書けなくなりました。でも、そこから「文字が書けるようになった」「それまでできなかったパソコンのブラインドタッチができるようになった」と、自立訓練の中で、できないことよりできることを数えていくようになりました。

「ポジティブに考える」ことが難しい、という声はとてもよく分かります。障害があると、どうしてもできないことに思いがいきがちになります。できないことを数えてしまうことはある意味自然なことです。

それでもできることを数えることを続けたら、「次はこれができるんじゃないか?今度はここにチャレンジしてみよう」と自然と考え方が変わってきます。そして、できることの中で、ステップアップをしよう!という気持ちが湧いてくると思います。この心の流れというか、気持ちの持っていき方はおすすめです。

何かしらの障害・障壁がある人にとってのエネルギーになりたい

編集部:競技についてお尋ねします。ゴールボール男子はパリのパラリンピックで金メダルを獲得したんですよね。

行弘さん:はい、そうですね。確かに嬉しかったですが、私は出場したわけではなく、たまたまチームの一員だっただけです。自分自身ではまだまだ第一線のレベルではないと実感しています。さらに、昨年は疲労骨折したこともあり、代表選考から漏れました。

今年1月のフィンランド大会で結果を出すことができて、ようやく代表に選考された、という感じです。いまはメンタルの向上をメインに自分の能力を向上させて、2026年の世界選手権に向けて、予選を勝ち進んでいきたいと思っています。

編集部:いまはどのような練習をされているのでしょうか。

行弘さん:チーム練習と個人練習をみっちり週5日やっています。個人練習は特にスピード向上、筋肥大のパワー系のトレーニングをやっています。個人の能力を上げてチームに貢献していきたいと考えています。メンタルとフィジカル。この2つの能力をしっかりと向上させていきたいです。前職は週に2回ほどの練習しかできませんでしたが、いまは平日でも8時間みっちり練習できます。このような環境を準備してくれて、かつ遠征などにも「頑張ってきてね」と応援してくれる、理解あるいまの職場に出会えたのは本当に幸せなことだと思っています。結果を出して、期待に応えます!

編集部:常にポジティブで強い思いを持つ行弘さんを支えるモチベーションはどこにあるのでしょうか

行弘さん:視覚障害がある人たちによるSNSの発信があり、私もたまに見ることがあります。すると、仕方がないことかもしれませんが、ネガティブな考え方やコメントをする人が多いことに気づきました。

競技の世界や自分がこれまで出会った視覚障害がある人は、ポジティブで障害を受容できた人ばかりです。自分のSNSでは「あなたの活動を見て、私も前を向けるようになった」というメッセージをもらったこともあります。自分が活動することによって、何かしらの障害・障壁がある人にとってのエネルギーになりたいと強く思っています。

障害に関わらず、「壁を乗り越えること」を知ってほしいんです。そのためには、競技だけでなく、このような人材サービスの会社に入ったので、はたらくことなどを通じて、「壁を乗り越えた人、乗り越えようとした人」を一人でも増やしたいと考えていますし、同じような仲間が今回私を入れて3人います。世の中に、競技のこと、パーソルのこと、何かにチャレンジしていくことを発信していきます。

終わりに:障害がある方が、はたらくことにチャレンジする気持ちになってほしい

今回3人のインタビューを通じて感じたのは、何かにチャレンジすることで、心の強さや自信が得られることがあるかもしれない、ということでした。それははたらくこと、も同じだと思います。障害がある方が社会に出て、はたらくことを、このインタビュー記事を見て、少しでもチャレンジする気持ちになっていただければ幸いです。そして、機会があれば、ぜひ3人の応援をよろしくお願いします!最後に今後の試合予定をご案内します。

  • MONEY DOCTOR 2025 日本ゴールボール選手権大会
    男子予選大会 所沢市民体育館(行弘 敬祐さん)

    2025年9月13日(土)14日(日)15日(月祝)
    ※詳細は日本ゴールボール協会のWebサイトをご覧ください
  • 第17回全日本パラ卓球選手権大会 赤羽体育館(シングルス:小杉 昌也さん)
    2025年9月26日(金)11:00 混合ダブルス
    2025年9月27日(土)9:00 シングルス予選リーグ
    2025年9月28日(日)9:00 決勝トーナメント