job coach

社員の悩みや課題に向き合う「田町のジョブコーチ」が、障害者雇用の日常やちょっと役立つノウハウを紹介する当コラム。今回は、障害者雇用において急増している精神障害のある方々の採用についてお話します。

精神障害は、支援が大変だと思われている

2018年4月1日から、障害者雇用義務の対象として精神障害者が加わりました。それから4年以上が経ち、これは個人的感覚なのですが、勉強会などの席で「どう採用していいか分からない」「そもそも精神障害って何?」という声が以前に比べて減ってきたように思えます。
それでもたまに、「(精神障害のある方の)支援が毎日たいへんじゃないですか?」と聞かれることも。正直に答えると、実はそんなにたいへんじゃないと思っています。

入社してくるのは、“はたらくフェーズ”にいる方たち

当社の首都圏オフィスは、田町、目白、横浜にあります。こんな都会のオフィスに、通勤電車に揺られて月曜から金曜まで毎日通うことができる。当社ではたらく精神障害のある方々は、そういう人たちなのです。それだけでも大丈夫かもしれない、と思いませんか?

実際に、田町のジョブコーチがこの会社に異動してきた2015年秋から今まで、社内外で大きなトラブルは起きていません。「連絡が取れず行方不明になった人とか、社内や社外で暴れて他者を傷つけた人が多いんじゃないですか?」と何度か聞かれたことがありますが、そのようなことは一切ありません。

精神障害のある方々は、治療中の方、就労訓練をしている方、はたらいている方など、さまざまなフェーズの方がいらっしゃいます。そして当社には(当社じゃなくてもですが)、はたらくフェーズにいる方が入社しています。「世間で言われるほど、心配するような出来事はそんなにありません」というのが実情だと思っています。

「精神障害があるから……」にとらわれず試行錯誤を

精神障害のある方々への支援については、もちろん当社も最初は手さぐりでした。支援方針や方法を変えたことも何度もあります。

例えば、田町のジョブコーチは社員の支援と教育・研修を行う「人材支援グループ」に所属していますが、かつて研修では、障害のある社員からのリクエストにすべて応えていました。「突然質問を投げかけられると頭が真っ白になる」ので、急に指名しない。「周囲とコミュニケーションが取るのが苦手だからグループワークができない」ので、ワークはやらない等々……。でもそうした配慮をし過ぎた結果、“研修”ではなく単なる“座学講座”になっていると気づいたのです。

研修の目的は「社員の成長を促す・手助けすること」なのに、これでは本来の目的が果たせません。そこであるときから、必要な配慮はしたうえで、「○○さんはどう思います?」など双方向性のある質問をするようしました。やるのを控えていたワークもにも挑戦するなど、ダメもとでいろいろな工夫をしたら、結果どうなったか? メンタルダウンした社員が続出……なんてことはなく、むしろ「グループワークが学びになった」という意見すらあがったのです。

つまり何が言いたいのか。「精神障害と聞くといろいろ心配してしまうけれど、意外と大丈夫なこともあるんですよ」ということです。

配慮のあり方を慎重に考えることは大切ですが、失敗を恐れずチャレンジをすることも同じくらい重要です。管理者・支援者が配慮しすぎた線引きをするのではなく、相手の反応やフィードバックに柔軟に対応しながら、「どこまで大丈夫か」のラインを日々試行錯誤することが、障害者雇用の現場では大切なのかなあと思います。

その「絶妙なライン」を探し当て、社員の笑顔を見られた瞬間は結構うれしい。それがこの仕事のやりがいだったりするのです。