パーソルグループが進める障害者就労モデルの多様化について、3回にわたりご紹介してきた今回のインタビュー。最終回となる第3回は、多様化において重要な3つめの軸について、引き続き大濱がお話します。採用範囲を拡大し、採用対象となる層を増やす。そのうえで、さらにパーソルグループはどんな点を考慮して障害者採用を進めているのでしょうか。

大濱 徹

パーソルホールディングス株式会社 グループ人事本部 障害者雇用推進部 室長

パーソルキャリアへ入社後、障害者の人材紹介サービス「dodaチャレンジ」に参画。2013年より、同サービスの責任者を務め、数多くの組織の採用支援と雇用アドバイザリー業務に携わる。現在はパーソルダイバースの経営企画や新規事業開発に従事するほか、パーソルグループ全体の障害者雇用の取り組みをPRし、グループ内外の障害者雇用・活躍を推進。
共著に「障害者雇用は経営課題だった!」シリーズなど。

場所や層に合わせて、雇用施策もチューニングを。

「広域化」と「多層化」によって障害者採用を拡大する際、パーソルグループが考えるのはその「構造化」です。この構造化こそが、多様化において抑えるべき3つ目のポイントなのですが、概念を分かりやすくするために右の図を使って説明しますね。広域化が示すエリアの広がり(横)と多層化が示す層の拡大(縦)に、新たに「雇用施策」という“奥行き”という軸を加えるイメージです。
雇用施策とは、例えば「事業(業務)」「人材」「採用」「マネジメント」「組織」などを指します。このブロック図はあくまで奥行きの“概念”と雇用政策の具体例を説明するためのものなので、縦が3つで奥行きが5つとか、数は重要ではありません。

つまりエリアや層を細分化したら、それに合わせて『業務内容や採用方法、マネジメントなどの雇用施策も個別に最適化する必要がある』というのがパーソルグループの考え方です。これを読んでいる方の中にも、会社で採用やマネジメントを担当されている方がいらっしゃると思いますが、今の自分が担当する施策内容で考えてみてください。例えばエリアが都心から郊外に変わったら、あるいは採用する人の職務能力が変わったら、今のやり方をどう変えるべきか。それをしっかりと理解しチューニングするのが、多様化の最後のキーです。

パーソルチャレンジ(当時)では、施策をどう変えたのか?

具体例として、グループの特例子会社「パーソルチャレンジ(当時)」が行った施策のチューニングをご紹介します。パーソルチャレンジ(当時)は500名以上(2021年4月時点)の障害のある社員を雇用しており、そのうち約3分の2が精神・発達障害者です。今でこそ多くの障害のある社員がはたらいていますが、最初から上手く多様化できていたわけではありません。私たちが最初に取り組んだのは、業務内容の見直しと、それに合わせた人材要件の再設定です。

まず、業務の徹底的な見える化と細分化を行いました。例えば「名刺を管理システムに取り込む」という業務の場合、名刺を整理してスキャンする、スキャンされたデータをシステムにアップロードする、アップロードされた内容を確認する、と作業を分けて担当者を決めます。高い業務レベルを求められたとしても、業務自体を徹底的に細分化することで、作業一つひとつの難易度を下げることができます。

こうして業務を再分化すると、採用すべき人材要件も明確化されます。以前は人材要件をきちんと定めていなかったため、必然的に高学歴や大企業および職務経験豊富な方を採用する傾向にあり、なかなか定着しませんでした。しかし、業務の細分化によって必要な職務能力を明確にし、職業準備性※とパーソナリティ重視に変えたことで、一人ひとりの能力にあわせた業務配分が可能になり、定着率が改善されました。「担当業務に対してコツコツと丁寧に作業が行える方」を人材要件に設定なおし、支援機関やハローワーク経由の採用も増やすことで、採用者の幅が拡大できました。

※職種や障害を問わず、働く上で必要とされる基礎的な能力、体力、労働習慣を身につけ、準備すること。
(参照:https://persol-diverse.co.jp/lab/glossary/sa/020/)

これらの取り組みによって、結果として業務量が確保でき、社員の安定した定着化にも成功しました。細分化した分マネジメントや管理が大変になると思われることもありますが、一人ひとりのやるべきこと目標が明確になるので、はたらく本人の不安が減り、その結果マネジメントの負担はかなり低減されました。

目的をもって、整合性のある障害者雇用を。

ここまで3つの軸からたっぷりと障害者雇用の拡大方法について話してきましたが、ではその軸のどこを狙って多様化していけばいいのか、悩まれるかもしれません。そうなったときは、障害者雇用の目的を振り返ってみてください。
法定雇用率の順守は、障害のある方を多く採用する出発点ではありますが、第1回でお話した通り雇用市場は伸び悩み、それだけを目標していては拡大が望めません。障害のある方に活躍していただくことで本業への貢献を期待するのか、一般雇用と変わらぬ収益を生み出せるよう利潤を追求するのか、あるいは自社のためだけでなく、地域や社会に役立つことを目的とするのか。それによって、拡大を狙うべきポジションも変わって来るでしょう。

障害者雇用「4つの目的」

障害者雇用は、遵法から目的志向へとシフトが求められるフェーズに来ています。何のための障害者雇用なのかを明確にし、縦・横・奥行きに一貫性・整合性の取れた就労モデルを整備することで、多様な方が持続的にはたらけるようになる。パーソルグループでも、引き続きこうした視点から、障害のある方とともにはたらく仕組みを広げていきたいと思います。