パーソルグループの特例子会社であるパーソルダイバース東北オフィスで、障害のある社員の支援担当としてはたらく鈴木保男さん。社員からは親しみを込めて「やすおさん」と呼ばれています。

グループ内の特例子会社立上げから現在までの15年を振り返り、将来の障害者雇用に対する希望を語ってもらいました。

鈴木 保男 

パーソルダイバース株式会社 受託サービス第1本部
企画推進部 受託第1人財開発グループ 定着支援チーム 

知識も経験もなく、手探りでスタートした15年前

編集部 障害者雇用に関わるきっかけを教えてください。

鈴木 学生援護会という会社で部長職として会社全体の管理業務を行っていました。2006年にインテリジェンス(現:パーソルキャリア)と統合後は、アルバイト向け求人広告・サイトの営業企画やキャンペーンを行っていました。
2008年11月に、パーソルグループの特例子会社・インテリジェンス・ベネフィクス(旧パーソルチャレンジの前身)の設立後、2009年1月から障害者雇用に携わることになりました。

編集部 着任当初の会社の様子や苦労したことなどを教えてください。

鈴木 最初は東京都内、四谷にあったビルにオフィスを借りて、管理者や事務、当事者社員含めて20名でのスタートでした。当時は、障害者雇用や、障害のある方が仕事をすること、障害そのものに関して理解が進んでいない状態でした。その年はリーマンショックにより、採用計画は一時停止。設立当初の20名を育成することが主な業務になりました。

精神障害のマネジメント方法については、障害知識や対処方法に関して情報がなく、言葉選びに悩むなど、適切なサポート方法を見つけるのに苦労しました。社員とのコミュニケーションを通して、「そうだったのか」と実感しながら、経験と知識を積み重ねる日々でした。
それこそ当時は「頑張って」と言ってはいけないんだと、無条件に信じていました。いまは社員の性格や状況によっては「頑張って」という言葉も効果的だということが分かるようになりました。

編集部 採用活動が再スタート後は、精神・発達障害の方を積極的に採用されたのはなぜですか。

鈴木 ハローワークに求人を出しても採用スピードが追いつかない状況がありました。
当時は、身体障害や知的障害の方を採用する企業がほとんど。他社と比べて設立が遅い私たちは知名度も低かったので、身体・知的の方の採用に苦戦していました。

結果として、免疫障害の方や精神・発達障害の方の採用が自然と多くなったという背景も大きいです。
また実際に業務をしてもらうと、精神・発達の方はパソコンを使った事務作業との親和性が高いことが分かりました。「一定のルールに基づいて正確に入力すること」ができる人が多く、一定の戦力になることが分かりました。
パーソルダイバースの大きな特徴である、精神・発達障害の社員が圧倒的に多いというのは、このときの決定が源泉ではないかと思います。

編集部 当時、障害のある社員はどういった業務を担当していたのでしょうか。

鈴木 グループ内の仕事はほとんどなく、外部企業からの単発の案件が中心でした。
時間の経過とともに、グループの総務や人事部門から少しずつ仕事が舞い込むようになり2012年の1月には80人の体制になりました。

コツコツと真面目に3年経ったころから、グループ内からの仕事依頼が増加

編集部 設立当初は業務と人の確保、大変なことが続いたんですね。転機が訪れたのはいつ頃でしょうか?

鈴木 正直、2008年設立から5年間は「これで食べていけるのだろうか」と不安でした。
ただ、振り返ってみると、設立から3年目から少しずつ空気というか潮目が変わってきたような気がします。

グループ企業から依頼された業務を、コツコツと正確性や納期を守ることを重視して続けるうちに、業務への評価をもらうようになり、仕事も増えてきました。
求人票の作成、求人原稿のチェック、各種入力作業など依頼業務が増え、人員も急速に増加した実感があります。
同時に、障害者雇用という言葉が社会に浸透しはじめ、民間の就労移行支援が増加しました。さらに、大人の発達障害などを含む精神・発達に関する情報がメディアで取り上げられる機会が増え、社会の理解も広がってきたような気がします。
「理解」が広がるにつれて仕事が増えてきた、という実感があります。

「気持ちが後ろ向きになると見えるものも見えなくなる。前を向いていこう!」

編集部 そして、2013年4月からは、地元に近い仙台オフィスに異動し、定着支援の仕事を続けていらっしゃるんですね。障害のある社員の定着支援をする中で、大切にしていることはありますか。

鈴木 障害特性により「この業務はできない」と感じる社員には、「一緒にできる業務を探そう」と提案しています。ほかの人と比べるのではなく、自分自身と比べ続けて成長する努力をしようと伝えています。

そのために重要なことは、やる気を引き出すことです。やる気を引き出すためには信頼関係を作ることが必要で、信頼関係を作るには、コミュニケーションを取ることが何よりも大切です。

また、精神・発達障害は脳の機能と密接に関係があるので、昨日できたことが今日できないことや、体調や感情も日によって違います。何度同じことを伝えてもできないこともあります。それでも、仕事を通じて自立を支援し、寄り添いながら、何度も挑戦して冷静に向き合うことが重要だと考えています。

ある時、急にできないことができるようになる、そんなこともあるんです。当たり前のようなことですが「根気強く待つこと」が15年やってみて得られたことだと思います。

もう一つ大切にしていることは「自分たちで仕事を作ろう」という意識です。特例子会社設立当初ははたらくメンバーの意識も醸成されていなくて「自分たちは数合わせだから」と半ば、社会に背を向けているようなメンバーもいました。そういったメンバーにはひざを突き合わせて「世の中に認めて貰えるように自分たちで仕事ができることを証明しよう。そして自分たちで仕事を見つけてこよう。みんなに認めて貰うように頑張ろう」と語りました。

まず、意識を変えること。自分も身体障害者の当事者だから、当事者の気持ちはよく分かります。だからこそ伝えたいのは「自分たちの価値は絶対見つかるんだ」ということです。

今後は、障害者もキャリアが構築できるはたらき方を作っていきたい

編集部 今後の障害者雇用の在り方として、こうなってほしいという願うことはありますか?

鈴木 なかなか難しいことかもしれませんが、役職や給料など含むキャリアを構築できるはたらき方が実現すればいいなと願っています。

そして、多様な個性・特性のある社員が安心して長くはたらける会社や社会が実現できればいいなと思います。
今までの経験から、個人的な意見となりますが、障害のある社員は、自分を認めてもらいたいという気持ちが特に強いのではないかと感じています。

会社において「認められる」ということは、給与であったり役職だったりと、キャリアを重ねることではないでしょうか。私の社会人としての人生の中で、自分が取り組みたいテーマでもあります。
そういうことができる社会・良い世の中になってきたのでは、と実感しています。