パーソルグループの特例子会社であるパーソルダイバースの東北オフィスではたらく、M.Mさんは2017年3月入社。人と接することが苦手で、最初は同僚とも関われず、体調を上司に報告することもできずに、入社4カ月後に休職してしまったことも。
それが少しずつできることを広げること、自分を見つめなおし特性に合った対応方法を見つけることで、いまではすっかり体調も安定。
同僚と食事に行ったり、業務マニュアルを新人に教えたりと、以前は難しかった人間関係の構築がうまくいき、安定してはたらけるようになりました。
入社から6年かけて得た安定感と長くはたらける自信はどのように得たのか、その方法を聞いてみました。

M.M 

パーソルダイバース株式会社 受託サービス第1本部
PRO受託事業部 仙台グループ エージェンシービジネスチーム 

やりたかった接客業は、特性からできなかった

編集部 現在の業務内容を詳しく教えてください。

M 転職活動を行っている方や転職担当者へのメールサポート対応です。お客様(候補者様)から提出いただいた書類の内容確認、システムへのアップロードなどの業務対応などを担当しています。

イレギュラーな事も多いですが、お客様の転職のサポートができればと思い日々対応をしています。

編集部 最初に障害について質問します。ご自身の障害の診断を受けるまでの経緯をお話しいただけますか。

M 2010年頃新卒で入社した会社で発症しました。実家が接客業を営んでいたこともあり私もやってみたいと思い、専門学校を経て、アミューズメント系の店舗で接客の仕事を始めました。

人間関係は先輩たちがとても親切で良好でしたが、昼勤・夜勤の勤務体制に慣れず、原因不明のメンタル面の不調が続きました。

そのため、クリニックを受診し、その時初めてうつと診断され、数カ月の休職を経てその会社を退職することになりました。

編集部 診断後は、すぐに休職したのでしょうか?

M はいそうです。当時は気づかなかったのですが、特性の一つとして、大きな音が苦手です。でも、はたらいていたアミューズメント施設はずっと大音量。家に帰っても頭の中に音が響いている状態で。どんどん眠れなくなっていきました。体は疲れているけれど眠れない。眠れないまま会社に行く日々が続いていました。

そして、突然会社に行けなくなりました。通勤途中自転車を押して信号待ちをしているとき、突然「もう無理かもしれない!」と思い、その足で通院して、そのまま休職。そこから3~4カ月休職しましたが、体調は元には戻らず退職しました。睡眠障害はいまも続いていて服薬しています。

編集部 その後、体調が戻られてパーソルダイバースに入社したんですか?

M いえ、家族と「いったん、地元に帰って仕事を探したほうが良い」ということになり、2010年の冬に岩手にある実家に戻りました。

そして、アルバイト先を探しているときに震災が起き、私も震災うつのような状態になりました。そこから1年間の療養を経て、地元の役場の臨時職員になりました。

2年くらいの間、事務業務がメインだったので、やりたかった接客業より向いているかなと思うこともあったほど安定していました。接客業をやりたかった理由は、祖母の代から続く手芸店の存在です。祖母もお客様も楽しそうな笑顔だったので、自分もやりたいなと思ったんです。

編集部 実家の岩手から、仕事を探しに仙台に移住した経緯を教えてください。 

M 2014年ごろ、少しずつ安定するうちに、臨時職員ではなく「もっと長くはたらきたい」と思うようになりました。ただ、地元の岩手ではなかなか仕事が見つかりませんでした。

そのころ、仙台の大学に進学していた妹が、2年生からは一人暮らしをすることを聞いて、家事を私がやることを交換条件に一緒に住んで仙台で仕事探しを始めました。

どうしても接客業がやりたくて、アウトレットにある子供服売り場ではたらくことになりました。でも、はたらいた初日にうつの症状がひどく出てしまいました。お客様と接することの緊張感が大きく、緊張・不安・焦りが強く出て眠れなくなり、はたらけなくなりました。結局、すぐに退職することになりました。そして、そこから数カ月動けないような状態に。自信が一気になくなりました。はたらく勇気が湧いてきませんでした。

編集部 障害者手帳を取得し、就労移行支援での訓練を受ける決断を下すまでの経緯について教えてください。どのような出来事や考えが、この決断に至る要因となりましたか?

M「自分は無理だ。うつの人はどうやってはたらくのだろうか」そんな疑問がわいてきました。それでネットで調べたら、障害者手帳を取って、就労移行支援で訓練して、障害者枠ではたらくことができることを知りました。

障害者手帳の障害という部分には正直、戸惑いはありました。でも、自分が自分らしくいるためには、そして、はたらくことためには手帳も必要なんだと覚悟を決めました。これからの人生の助けになると信じて、2015年に取得して就労移行支援に約1年間通い、2017年に当社に入社しました。

社会人として、もう一度社会ではたらきたかった

編集部 はたらくことに強い思いがあったんですね。

M 家から離れて一人でちゃんと生活を送ることが理想だったんです。社会人として生きていきたい。祖母や家族はみんなはたらいていて、同じように人生や趣味を楽しみたかったんです。

編集部 就労移行支援で改めて自己認知をして、そのあと入社したんですね。

M そうですね。就労移行支援に通所して、自分の特性と向き合う中で分かったのが、先ほどもいった、音に弱いこと。自分は音に敏感で、大きな音を聞くと不安になるんです。それと憧れていた接客が、実はストレスを伴うことも自覚しました。不意の会話が苦手というか、人と接することに実は緊張を覚えるんです。対人恐怖症だともいわれました。

ただ、気づいたのは訓練の中で仕事を通じて人と接することができるということ。

これはいまの仕事に繋がるのですが、例えば事務仕事も依頼する人がいて、その依頼に応えるとお客様は満足して喜んでくれる。これならできるかもと思って、事務業務を中心に探すうちに当社に入社することになりました。

編集部 パーソルダイバースに入社してみて、最初はどんな様子でしたか?

M 入社前後はとても緊張していました。1年以上就労が継続したことがなかったので、また調子が悪くなってすぐ辞めてしまうのでは、と常に不安でした。入社して4カ月ぐらいのときに、やっぱり体調が悪くなって数カ月休職してしまいました。誰にも調子が悪くなったことを言えずに、どんどん悪くなって休んでしまったんです。体調を会社の人に伝えることが怖かったです。辞めさせられるのではと思って。

編集部 休職中に何か心境の変化はありました?

M ありました。休職中にかけてもらった上司の一言がきっかけです。「休んで体調を整えるのもあなたの仕事です」と言われたことです。それまでは休むことは甘えだと思っていました。そして「待っているよ」とも言われて勇気づけられました。「ここなら続けられる」と。安心して休んでいるときに「この会社で何を頑張ればいいんだろうか」と考えるようになりました。それがいまの安定に繋がっていると思います。

仕事を通じて人と接することが、自分の仕事のよろこびだとわかった

編集部 ぜひ、就労が安定するまでの経緯を教えてください。

M まず、会社に行ったら自分の仕事だけに集中することにしました。帰ったら好きな事をやる。ネガティブな言葉をポジティブな感想に変換する。例えば「疲れた~」じゃなくて、「今日は良く頑張ったなー」と。それをするうちに、他者との比較もしないからか、自己肯定感が上がりました。

「自分は頑張っているんだから、自信を持ってもいいんだ」と思えるようになりました。

入社して4年間は時短勤務でした。その間に少しずついろんな仕事を任せてもらうようになりました。すると、自信がもっともっとついてきて、少しずつ顔が上がってきたというんでしょうか、周りが見えてくるようになりました。構築、マニュアル、チェックリストを作ることに入れてもらうようになった。それも楽しいと思うようになった。仕事って面白いなと思うようになったのは、これまでなかったので自分でも驚きです。

編集部 入社してMさん自身が変化していったんですね。

M あれだけ苦手だった人と接することができるようになったんです。人に教えたりする機会も増えた。どうやったらこの人に伝わるのかなとか、この人だったらざっくりでもいいかなとか、その人の考え方に寄り添うというか、温度感をみるようになりました。いまは、はたらいているのが楽しいですね。これからも、自分自身ももっと強くなると思っています。

上司からチャレンジしてほしいと言われればいろんなことに挑戦したいです。案を出してほしいと言われたら積極的に応えたいです。自分の発言を出す機会を増やして、仕事の役に立ちたいと感じています。

編集部 素晴らしいですね。最後に長くはたらくコツみたいなものがあれば教えてください。

M 勤怠は安定してきましたが、心身の状態は自分では、まだまだだと思っています。だから、無理をしないこと。自分のできる範囲で頑張ることだと思います。

他人と話せるように、楽しめるようにはなりましたが、いまでも休憩は時間をずらして一人で取っています。これはチームで私だけです。静かな中でリフレッシュするのは自分にとって必要なことです。

あとは自分の「苦手」を知って、それを相談すること。休憩時間もそうですが、席も窓際に配置するなど配慮してもらっています。これも自分から「苦手」を言わないと実現しなかったこと。たくさんの苦手を相談したからこそ、いまがあると思っています。あとは粘り強く、仕事を探すことだと思います。就職までは大変なこともあると思います。でも、いい職場に出会えるように自分を信じて頑張って下さい。

人と接する仕事が好きだったけれど、実は苦手だったMさん。いまは形を変えて仕事を通じて人と接することで、日々のやりがいと安心を実感しているようです。充実できる日々を手にするには、いろんな方法があるんだな、そしてみなさん努力と工夫を惜しまないんだなと改めて実感しました。初対面のインタビューにも関わらず、よどみなく、笑い声を交えながら質問に答えてくれるMさん。今後もきっと、この笑顔が続くんだろうなと実感した取材になりました。