パーソルグループの特例子会社であるパーソルダイバースは、定年退職が60歳。その後も会社と本人の希望に応じて、65歳までの定年再雇用制度があります。A.Tさん(65歳)はその5年間を経て、さらに持ち前の業務スキルを引き続き発揮してほしいという会社の依頼に応え、個人事業主として2024年1月より業務委託契約で仕事を続けることを決めました。

「まさか、ここまではたらくとは思っていなかったですが、ぜひお願いしたい、という言葉を聞いて、喜んで仕事を続けることに決めました」と笑顔で話すTさん。

障害に向き合いながら長くはたらくことを実現させた、Tさんのモチベーションはどこにあるのか。長くはたらく工夫はあるのか。本人に直接聞いてみました。みなさんにとって、社会に関わり続けるヒントになれば幸いです。

A.T 

パーソルダイバース株式会社 コーポレート統括本部 
コーポレート本部 広報部

金融業界での経理業務やフリーのwebデザイナーやディレクターを経て、2012年8月にパーソルダイバースに入社。定年再雇用契約終了後も業務委託契約で業務継続中。広報部やマーケティング部の数値目標策定や実績管理・分析など重要な業務を担っている。  

自分の仕事が誰かの役に立っていることが、長くはたらけるために欠かせない

編集部 現在の業務内容を詳しく教えてください。

T 広報部やマーケティング部など、担当部署の数値目標の設定、実績の管理や実績をもとにマーケット分析し、その報告をメインに行っています。
売り上げ目標を達成するためにどんな数値目標を立てればいいのか、何をすればよいのかということを、マーケティング視点から提案しています。

編集部 最初に障害について質問します。話せる範囲で教えてください。

T 両脚の先天性変形性股関節症という障害です。先天性なので生まれながらの障害です。関節の変形によって、歩くことが困難で、少し歩いても痛み、あるいは痛みで歩けないときもあります。3歳から何回も手術をして、身体障害者手帳の取得は大学生の時。

25歳までは松葉杖を使って通勤、それ以降は治療などで1本杖を使って通勤・生活をしていました。6年前に人工股関節の置換手術をしてからは、ほとんど杖を使うことなく外出できるようになっています。


編集部 ありがとうございます。次にどんなキャリアを歩んできたか教えてください。

T 大学は経営学部にいて、就職は金融業界の経理職に一般枠で入社。会社の資金繰りを行っていました。数字を通じて会社の経営に携わるというか、会社全体を見る仕事がしたかったんです。会社の状況を常に把握することで、会社の方向性、社会情勢などを見ることができて、とてもやりがいがありました。その会社には17年間いました。

ただ17年目には足の痛みがひどく、退職することになりました。それまでは毎日通勤していましたが、時間とともに股関節の変形がひどくなり、骨がずれて毎日通勤するのが難しくなったんです。

退職後はハローワークの職業訓練校に通いwebの勉強をしました。友人のデザイナーからも技術を教わりながら仕事を紹介してもらいました。そしてその実績をもとに企業に売り込みをして仕事を増やしていったんです。フリーのwebディレクターとして約13年活動。企業のHP構築やシステム導入、広告運用などを行っていました。

当時はテレワークなどないので、家で仕事をするには、フリーしか選択肢がなかったといってもいい状態でした。フリーですので仕事を断るとその次の依頼がなかなか来なくなるので、結構な数の仕事を常に持っていましたね。作業自体は家でできるのですが、打ち合わせやインタビューなどは外出しないといけないので、13年間の後半はやっぱり足が痛くなり、辛いなと感じていました。

仕事は楽しかったですよ。webを通じてそれぞれの会社の業績に携われる。企業の個性・強みによって、何を発信するか。そんな楽しさが続いていました。自分がその仕事を楽しめるか、やりがいがあるか、と思えるか。そして、それがほかの人の役に立つことが、仕事の楽しさや続けられることに欠かせないことだと思います。

編集部 フリー後に当社に、パーソルダイバースに入社したんですか?

T そうですね。フリー終盤に福祉団体と仕事をする機会がありました。そこで初めて、障害がある人たちがはたらいている様子を目にしました。自分にも障害がありますが、配慮を受けながら一般枠ではたらいていたし、フリー時代も普通にはたらいていました。

たまたまオフ会に参加する機会があり、入院しながらはたらいている人、一つの仕事を分担してはたらいている人、短時間ではたらいている人……。いろいろなはたらき方を目の当たりにしました。みんな制約がある中で仕事をしていますが、はたらくことにとても前向きでした。

「普通にはたらくことが当たり前である」という価値観の自分にとっては新しい発見。そんなときにその福祉団体の方からフリーではなく配慮ある会社に就職してみてはと言われたんです。それで2012年に入社しました。ちょうどタイミングよく、在宅のweb制作チームの立上げメンバーを募集していて、企業ホームページから募集したんです。

障害は正直まだ、受け入れきれていない。向き合っているという感覚

編集部 入社した後の感想を教えてください。

T そもそもなかなかweb系の仕事がなくて、ほとんどが事務業務で、職種探しから難航して、ようやく見つけた感じでした。入社して初めて、知的障害の方、精神障害の方たちとはたらくことになりました。正直最初は過保護なのでは、と思うような配慮を感じました。

でもそれは自分の価値観で実際、しっかりとしたフォローが必要な人がいることが分かりました。私も周囲から「無理するようであればこれ以上はやらないでくださいね」と何度も言われました。

ああ、そうかあと思うことがあったんです。それまでも何度か「無理しないでくださいね」と言われながら、結局無理をしてきました。それでその結果、足の痛みが増して作業が滞ることがありました。自分の障害や体調の状態を客観的に自分を見て、そして周囲とコミュニケーションを取って、「一定のパフォーマンスではたらき続ける事」が大事なんだと改めて実感しました。

編集部 それは、障害を受容してはたらくことができたということなんでしょうか?

T いえ、正直、まだ障害を受け入れきれているとは断言できません。間違いなく自分には障害・病気があって、病気と向き合っている状態といえばいいのでしょうか。

中学高校と学校は送り迎え。松葉杖ですし、歩いていると振り返って見られていることもあり、自分は特別なんだなという負い目のような感情がありました。障害がなければ、はたき方もきっと変わっていたことでしょう。負い目に感じてほかの人と同じように、と無理をしてきたこともあります。

でも、自己満足で「もっとやれます」と無理して仕事をして調子を崩したりすると、結果的には周囲の人を傷つけることもわかりました。そういった経験をして、障害に関しては「無理をしない」ということを肝に銘じています。
「やるからにはやりきる」から「やれるところまでやる。体調が悪いときは休む」という当たり前のことを客観的視点を持つことできるようになりました。それが自分の障害の向き合い方かもしれません。

編集部 そういった考え方が長くはたらく秘訣なのでしょうか?

T 秘訣の一つ、なのかもしれません。長くはたらいている理由はさまざま。いまの時代、定年退職であとは悠々自適、ということはなかなか難しいですし、人生100年時代と言われている中では、仕事を続けることは当然という考えかたもあるでしょう。私は仕事を通じて社会に参加しているという実感があるので、はたらくのが前提でした。
前提のうえで、長くはたらくために必要なことは、ただ仕事をするのではなくて、仕事に何か意味を持たせることが大事だと思います。

私の場合は「自分が楽しめているか」「楽しめるための工夫をしているか」ということを求めています。仕事を単なる業務・作業にしたら続きません。誰かのために、困っている人のために、依頼してくれた人のために、情報収集し、勉強し、発見や提案をしています。再雇用を経て業務委託のいまでも勉強は続けています。

自分に刺激を与えて、誰かの役に立つような新しい自分を作り続けることで、新しい気持ちで仕事に向かうことができ、長続きできているんだなといまは実感しています。自分のできないこと、努力できること、興味があることを考え、見つけることで自然と自分が歩く道ができて、ぶれなくなると思います。

Tさんは業務委託になったいまも、事業部長曰く「欠かせない存在」と断言します。何歳になっても会社から求められる存在になるにはどうすればいいのか、どんな気持ちで仕事に向き合えばいいのか。Tさんの言葉から、そのヒントが見つかるのではないでしょうか。