
パーソルグループの特例子会社であるパーソルダイバース株式会社では、2024年から重度障害や難病のある方に向けて、フル在宅・短時間勤務による採用に取り組んでいます。北海道や長崎など全国各地で採用を行い、2,000人以上の方が説明会に参加。2025年3月までに22人が採用され、オンラインで業務を行っています。
今回の記事では、この取り組みによって入社して1年、都内の自宅からフルリモートで仕事を続けているSさんに、体調管理や仕事についての思いを教えていただきました。
パーソルダイバース株式会社
受託サービス統括本部 受託サービス第1本部
Staffing受託第2事業部
オーダーサポート第4グループ 業務サポート第2チーム
S.Y
はじめに 重度身体障害者の「はたらく」可能性が広がっている
企業ではたらく障害のある方の数が増加する中、コロナ禍を期に、テレワークによる在宅勤務が増え、これまで通勤が難しいなどの理由ではたらけない人の就業機会が増えてきました。
withでは上記募集に応募し、現在パーソルダイバースで活躍している、古郡 ひとみさんの記事を紹介しました。
今回は同じ部署ではたらく、S.Yさんから、仕事への思いや、必要な準備、就労で実現させたいことなどを聞きました。
重度障害者を抱えながら、はたらき続けられた理由
編集部:まずはSさんの障害について教えてください。
Sさん:私の障害は内臓の機能障害です。判明したのは約30年前、専門学校時代の健康診断で尿蛋白の数値が悪く、再検査を受けたのがきっかけでした。再検査でも原因が分からず、大きな病院で腎臓の生体検査を受けた結果、「IgA腎症」と診断されました。
IgA腎症は腎臓の機能が次第に低下し、進行すると人工透析が必要になる病気で、現在も画期的な治療薬がなく、完治が難しい「指定難病」です。診断名が確定するまで半年ほどかかりました。当時は完治する方法がなかったため、服薬しながら専門学校に通う日々を送っていました。

編集部:その後、就職されたのでしょうか?
Sさん:いえ、私の人生、なかなか一筋縄でいかなくて…。通っていた専門学校は旅行業界を目指す学校でしたが、通ううちに、「自分は旅行がそんなに好きじゃない」と気づいてしまい、「時間を無駄にできない!」と前向きな気持ちで辞めました。
その後、事務の仕事を見つけ始めたものの、20歳のときに結婚。すぐに妊娠が分かりました。
腎臓に疾患があるため、大きな病院で医師チームにサポートされながらの出産となりました。重度の妊娠中毒症の影響で、3カ月の絶対安静が必要で、会社は退職しました。
その後26歳で第二子を出産。子育てをしながらも、地元の区民プールではたらくなど、ずっと何らかの仕事は続けていました。
「家の近くで通えるところ」を条件に仕事を探し、職業訓練でパソコンスキルを身につけて事務職にも就きました。しかし2017年、腎臓の数値がさらに悪化し、2018年には人工透析が必要な状態になりました。透析を行うと一生続けなければいけません。治療も移植以外方法がない。幸い私は、母からの移植を受ける手術日まで決まっていたため、一時的な透析ですみました。ただ、移植後に服薬した免疫抑制剤の影響で乳がんを発症するなど、体調が安定しない時期も続きました。
編集部:体調が悪い中でも、お仕事は続けていたんですね。
Sさん:そうですね。最大の理由は、社会と繋がりを持ち続けたかったからです。
療養で家にこもっていると落ち着かなくて、「家から通いやすい場所」「自分にできる仕事」「バスで座って通勤できる距離」など、条件を整理して仕事を探していました。
飲食業界やスポーツ用品店の事務など、いろんな業界ではたらきましたね。乳がんの手術後も自宅でできるオンラインの仕事を見つけてはたらいていました。「はたらかないと、社会性がなくなってしまうのでは」という不安も、大きな原動力でした。
仕事をすることで、他者を許容できる余裕が持てた
Sさん:2024年7月、前職を辞めた次の日からパーソルダイバースではたらき始めました。現在は週4日、10時から16時の間、パソコンを使った入力業務を行っています。
パーソルダイバースを選んだ理由はテレワークができるから。さまざまな病気の影響で、通勤を避けて自宅ではたらくことが、自分にとってはたらくための最良の選択肢でした。結果的には同じなのかもしれませんが、「テレワークをやりたかったから」ではなく、自分がはたらける手段が「家ではたらくこと」だったんです。
編集部:大きな病気になりながらも、療養以外ははたらき続けているのはすごいですね。理由や工夫していることはあるのでしょうか。
Sさん:特に大きな工夫をしているわけではありません。何もせずに家にいるのがもったいないと思う性格なのかもしれません。

病気で療養している間、スマホを見たり、漫画や本を読んでいたのですが、1週間もすれば飽きてしまって、「なんかもったいない時間の過ごし方をしてしまったな」と思うんです。私にとっては仕事があるから、休みの日が活きてくる、というのでしょうか、仕事をしていることによって、休みの日の価値が上がるといいますか。
腎臓などの影響で、常に体は疲れやすいし、だるくなるのですが、休みの日をきっちり休めば、「ちょっと頑張れる」くらいには体が回復します。そういうことだけでも、嬉しいんです。疲労回復して、また仕事ができる!と思えるような、メリハリがある日々がとても大切です。
もう一つ感じるのは、「仕事をすること、社会と関わることで、許容する心を持てるようになる」ということです。
編集部:どういうことでしょうか?
Sさん:社会に出ると、いろんな人と関わって、そこにはそれぞれの考え方や価値観を受け入れていく必要があると思います。家にずっといると、自分の価値観だけで物事を進められるし、家族にも強要し、自分の価値観とは違う家族に対して、少しずつイラ立ちを抱える自分がいます。でも、家の外に出て社会に触れると、「こういう考え方もあるよね」「この人はこんなことを思うんだ」と感じることで、いろんな価値観を吸収でき、人として成長できるような気がしています。社会に関わるため、自分が成長するため、そのためにできることが、「テレワークではたらくこと」だったんです。
編集部:入社時や入社後に会社から配慮してもらっていることはありますか?
Sさん:もちろんあります。そもそもフル在宅時短勤務自体が大きな配慮ですし、質問の時間や、コミュニケーションを取る時間、しっかりとしたマニュアル、疑問に寄り添ってくれる上司など、とてもはたらきやすい環境が整っていると感じます。
ですが、それと同じくらい大事なことは、「自分ができることを探す」「自分にできる仕事がある会社を見つける」ことと、自分の方から会社の求めるものを実行する努力ではないかと思っています。
【これからはたらきたい人へ】病気を「しょうがないじゃん」と思えるように
編集部:腎臓移植やガンなど、大きな病気になっても前向きな気持ちではたらき続けるSさんから、これから仕事を探す人にヒントやメッセージをいただけますか?
Sさん:私の場合は、「病気になったのはしょうがない」と思うようにしています。病気は誰でもかかるものですし、突然の災害や事故に遭遇する人もたくさんいると思います。いつ何が起こるかは誰にもわからないし、誰にもコントロールできないからこそ、今を生きることが大切なんだと思います。
先のことばかり考えるのではなく、「いま、この瞬間」に見えていること、考えていることを大切にする方が良いのではないかと思います。それによって、予想もしない未来やポジティブな気持ちと出会うことができるんだと思います。
私はこれまで、病気になるたびに本当に多くの方に支えていただきました。
その支えに恩返しをするというよりも、いただいた恩を次の誰かに渡すような気持ちで、社会に出てはたらいているのだと思います。

はたらくうえで、ひとつだけアドバイスをするとしたら――
「何かひとつ、自信を持てるものを見つける・身につけること」でしょうか。
私自身、パソコンの勉強をしたことで、「パソコンの仕事ならできる」と思えるようになりました。
たった一つでもいいんです。「これならできる」と思えるものがあると、きっとみなさんの背中をそっと押してくれる力になります!
【まとめ】Sさんに学ぶ、重度障害があっても仕事で活躍できる考え方

インタビュー中、笑顔で前向き語る姿が印象的だったSさん。
病気に向き合いながら仕事を続けるには、「考え方」にヒントがあると感じました。
★1. はたらき方は手段。はたらく意味や理由をしっかり持ち、そのための方法を考える
家ではたらきたい、ではなく、何のためにテレワークを選ぶのかなど、はたらく意味を持つこと
★2. 配慮がある会社で、配慮に応えるための努力も必要
会社がしてくれる配慮だけでなく、自分ができる努力で、会社が求めることに応えるのも大事
★3. 先のことを考えすぎず、「今この瞬間」に目を向けることも大切
先のことを考えすぎて不安になることもあるが、目の前のことに集中することで未来を変えられるかもしれない
Sさんのポジティブな言葉が、みなさんのこれからの仕事・生活のヒントになれば幸いです。