障害者雇用支援月間に合わせ、2022年9月21日に開催された「障害とともに生きる・はたらく 2022 特別オンラインセミナー」。経済学・精神医学の専門家や企業経営者、障害当事者であるタレントや支援員など合計8名のゲストをお迎えし、濃密な3つのセッションが繰り広げられました。各セッションのレポートをお届けします。

「障害者の就職・転職大会議」と題された2つめのセッションでは、さまざまな分野で活躍する障害当事者が2つのパートに分かれてトークを交わしました。パート1では、聴覚障害に関する情報発信やサポートに取り組む株式会社デフサポの代表取締役・牧野友香子氏、車いすに乗りながらアイドルとして活躍する猪狩ともか氏、そしてパーソルグループから自身も障害がありながら障害者就労サポートに携わるパーソルサンクス株式会社の唐仁原理紗が登壇。モデレーターはパーソルチャレンジ株式会社の元井洋子が務めました。それぞれの体験をもとにしたリアルな声を、ダイジェストでお届けします。

登壇者

牧野 友香子 氏

株式会社デフサポ 代表取締役

猪狩 ともか 氏

アイドルグループ「仮面女子」メンバー

唐仁原 理紗

パーソルサンクス株式会社 サポート本部 人事部 人財支援室

モデレーター

元井 洋子

パーソルチャレンジ株式会社
人材ソリューション本部 キャリア支援事業部グループリーダー
国家資格キャリアコンサルタント

「健常者と同じレベルを求める」。その言葉に惹かれ、一般枠で大企業へ。そして起業!

元井 民間企業の障害者雇用者数は18年連続で増加していますが、一方でハローワークの統計では、障害者の就職率は5割に満たないという結果も出ています。今回は障害者の就職・転職について、ゲストのみなさんから「自分の障害と向き合うヒント」や、はたらくことについての考えなどをお聞きしていきたいと思います。ではまず、牧野さんからよろしくお願いします。

牧野氏 牧野友香子です。私は生まれつき耳が聞こえなくて、補聴器をつけても厳しいくらいの難聴です。大阪生まれ・大阪育ちの生粋の関西人ですが、就職を機に上京。ソニー株式会社で8年間、人事の仕事をしていました。そんな中、結婚をして生まれた子どもが50万人の一人の難病だったんです。育児中にさまざまな困難を経験し、自分に何かできることがないかと考えた結果、大好きだったソニーを退職してデフサポを立ちあげました。

元井 ソニーへは、障害者雇用枠で入社されたのですか?

牧野氏 いえ、一般枠です。就活では障害者枠と一般枠の両方から探していましたが、障害者であろうと健常者と対等なレベルを求めると明言していたのがソニーでした。それで、「絶対行きたい、行く!」と憧れて。実際に入社してからも対等に扱ってもらえましたし、自由にはたらかせてもらいました。

元井 でも、対等だったからこそ、人より大変なことも多かったのではないでしょうか。

牧野氏 大変だったことはめちゃくちゃあって(笑)。ミーティングや業務上の話は問題がなくても、ちょっとした雑談がわからないんですよ。オフィスで耳に入る会話でも、自分と関係があると思ったらみなさん無意識のうちに聞くじゃないですか。私はそれがまったくわからないので。ワンちゃんを飼っているとかお子さんが二人いるとか……雑談からしか得られない事前情報が全くないので、コミュニケーションで失敗することはありましたね。仕事とは直接関係がない分、このことを周囲に理解してもらうのが大変でした。

元井 苦労をされながらも大好きなソニーで8年間はたらき、そのまま「はたらく障害者のロールモデル」になるという選択肢もあったと思います。そこであえて起業を選んだのはなぜでしょう?

牧野氏 正直、辞めるのはめっちゃこわかったです。大企業で安定しているし、何より入りたくて入った会社でしたし。ただ、デフサポを立ちあげるにあたって耳の聞こえないお子さまを持つ親御さんの悩みをお聞きするうちに、これは副業レベルではできないと痛感しました。先輩や同期に相談したら「(デフサポを本気でやりたいなら)ソニーを辞めたほうがいい。だめになったら戻っておいで」と言ってくれて、それで「えいや!」と決断。ソニーとは今でもいい関係で、講演に呼んでくれることもあります。

元井 辞めた後もつながりがある、まさに理想的な関係ですね。デフサポの活動についても少しお聞かせいただけますか?

牧野氏 デフサポでは難聴の認知拡大を目的に、企業向けのコンサルティングや難聴の子ども向けのことばの教育、YouTubeでの情報発信などをしています。世の中には聞こえない人がたくさんいるのに、そうした人たちと日常的に接する機会がない人は、難聴についてずっと知らないまま。だから、いざ出会ったときにどう接していいかが分かりません。だからもっと多くの人に難聴のリアルを知ってもらい、気軽に対応できるようになってもらいたいと思っています。ぜひみなさんも、チャンネル登録お願いします!

限界を受け止め、人に頼りながら、障害者としてのアイデンティティを築く。

元井 では続いて、唐仁原さんにお話をお聞きしていきます。よろしくお願いします。

唐仁原 パーソルサンクス株式会社の唐仁原です。今日は庶民代表として来ました(笑)、よろしくお願いします。私は大学で福祉を学び、社会福祉士を取得して相談業務に専念していました。ところが昇進の機会に体調を崩してしまい、うつ病と診断。その後、自身が障害者になり、はたらくための準備、土台づくりが必要だと考えて東京障害者職業訓練校に通い、2022年からパーソルサンクスで障害のある社員の定着支援補助業務をしています。

元井 もともと福祉の仕事をされていたので、うつ病の基本的な理解や知識をお持ちだったと思いますが、いざ自分がうつ病になってどんなお気持ちでしたか?

唐仁原 まず、自分を客観的に見ることができなかったです。「客観的に見るだけの能力が今はない」ということが分かっていなかったのです。当時はとにかく復職したい一心で、復職さえすれば元通りの暮らしに戻ると思い込んでいました。だから毎週通院するたびに、先生に「もういいですか?」って聞いてしまって……。でも、いざ復帰しでも元には戻りませんでした。支援する側からされる側になったとき、周囲の人の態度が変わったこともショックでしたね。

元井 自分自身がうつになったショックだけでなく、復職なさったときに周りも変わった、ということですか?

唐仁原 そうですね……唐仁原という個人の前に「うつ病の人」というレッテルが貼られ、私の言葉が周囲に届かなくなった感じがしました。「はいはい」って聞き流されたり、今までのような雑談がなくなったり、なぜか挨拶を無視されたりもして。病気になったというだけでそう変わってしまったことが、すごくショックでした。

元井 そうした現実にぶち当たり、どうやって再びはたらこうとシフトできたのでしょう?

唐仁原 自分の限界を認めました。症状がよくないときはペットボトルのラベルすらうまく剥がせなくて、部屋にたまっていくのを見て「あ、やばいな。誰かに相談したほうがいいのかな」と。幸い私は福祉の勉強をしていたので、“今の困難な状況は環境や能力の限界が作っている、努力じゃどうにもならない”ということが分かっていました。ですから、福祉サービスでもなんでも使って、人に頼っていこうと開き直ったんです。

元井 誰かに頼る大切さは、他のお二人も強く頷かれていますね。

唐仁原 人の力を借りることは、甘えじゃなく賢さです。私は職業訓練校の力を借り、スタッフの方々に褒められていくことで「障害者としてもやっていけるんだ」と自信がつきました。障害者としてのアイデンティティができ、就活にも意欲的になって、その結果ここに座っています。訓練校以外にも就労移行支援や自治体の就職センターなど無料で活用できるサービスが世の中にはいろいろあるので、迷っている方はぜひうまく活用し、自信をつけるきっかけにしていただければと思います。

グループの中に、当たり前のように車いすの私がいる。事故後もアイドルを続ける意味とは。

元井 では最後に、アイドルグループ「仮面女子」メンバーとして活躍されている猪狩さんです。猪狩さんのことをニュースなどで知った方も多いかと思いますが……

猪狩氏 はい、2018年に強風で倒れた看板の下敷きになり、脊髄損傷から下半身不随になる事故に遭いました。私がアイドルを目指したのは22歳の時で、それから3年間の下積みを経て2017年に「仮面女子」の正式メンバーになり、埼玉西武ライオンズの始球式に出るなど夢が叶い始めた直後のことでした。事故でアイドルを辞めようと思わなかったかとよく聞かれるのですが、私にその選択肢はありませんでした。周りが本当によく支えてくれて、私の戻る場所を作って待っていてくれたからです。事故から4か月半で復帰ライブをして、活動を再開しました。

元井 4か月半で復帰とお聞きして、すごく早いなと思いました。

猪狩氏 それもよく言われるのですが、私は3か月くらいで復帰できると思っていたので遅く感じていたくらいで(笑)。でも復帰する場所があったことは本当にラッキーで、入院中に相部屋になった女性の方が「入院したことで仕事を辞めないといけない、退院したら新しい仕事を探さないと」と話されていて、私は本当に恵まれているんだと痛感しました。復帰ライブでも私の担当カラーの黄色のひまわりでファンの皆さんが迎えてくれて……。ありがたい環境のおかげで、こうして今も「仮面女子」の衣装を着ることができています。

元井 現在「仮面女子」として活動するうえで、何か大事にされていることはありますか?

猪狩氏 「仮面女子」というグループの中に、車いすに乗ったメンバーがポンっている光景って、初めて見る人にとっては結構めずらしいですよね。でも私たちにとってはそれが当たり前なので、一緒にステージに立つし、フォーメーション移動にも加わる。それが見せられるのは、「仮面女子」の強みだと思います。

元井 猪狩さんはアイドルを卒業すると決めた後、ライブで「卒業撤回」を宣言されましたよね。続けようと思われた理由は何でしょうか。

猪狩氏 コロナ以降、複数のアイドルグループが出演する対バンライブに出演する機会が増えたのですが、出演後にSNSで反応を見ていると「車いすの子が普通に馴染んでいてすごかった」とか「周りもサポートしてすごい」なんてコメントを目にすることがよくあるんです。そういうのを見ていると、車いすに乗りながらアイドルをしている意味を改めて認識できて。私はこれからも、仮面女子として活動していかなければいけないと感じたんです。それで、卒業撤回をさせていただきました。

遠慮をせずに、声を掛けて聞いてほしい。

元井 3名の興味深いお話を聞いてきましたが、視聴者の方から質問も来ているのでそちらもご紹介していきます。「障害のある同僚の理解や配慮について、仕事上で気を付けるべきことを教えて下さい」。こちらはまず牧野さん、いかがでしょう?

牧野氏 障害に対して、人はどうしても固定観念を持っています。でも実際には障害といってもみんなバラバラで、難聴の中にも手話で話す人もいれば補聴器を使う人もいて、私のように読唇術を使う人もいる。だから、一緒にはたらく障害者がどういうことで困っているか、どんな対応をしてほしいか、聞いてみるのがいいと思います。

元井 そういえば、私は聴覚障害の方と話すときゆっくり話す癖があるのですが、牧野さんと初めてお会いした時「普通にしゃべってください」って言ってくださいましたよね。同じ障害でも一人ひとり全然違うので、(障害の話題に)触れちゃいけないと思うよりちゃんと聞かなければとその時思いました。

牧野氏 みなさん「踏み込んではいけない」って思うかもしれませんが、私はむしろ踏み込んでほしいですね。「どうしてほしい?」って一言聞かれるだけで、こちらも伝えやすくなるので。

猪狩氏 私も牧野さんと同じ考えです。普段の活動はメンバーがとても助けてくれますが、一緒に過ごす中で何が大変かを徐々に理解してくれて、その時間があって今があります。知ることが一番なんだと思います。

元井 「親しい友人がうつ病と診断されて仕事をセーブしていたが、繁忙期になってぶり返してしまい心配している。友人としてのなんて声をかければ?」という質問も来ています。唐仁原さんから何かアドバイスはありますか?

唐仁原 私の場合は、“返事を待たない言葉がけ”がすごくうれしかったです。症状がよくないときは返信する気力もなくなってしまいますが、友達から「こんなことあったよ、返信は要らないよ、じゃあね」ってメールが来るだけで、「ああ、私は忘れられていないな」と支えになったので。「いつでも話を聞くからね」と急かさず伝え、そのリアクション次第でコミュニケーションをとっていくのもいいかと思います。

この他にもいくつかの質問が取り上げられ、最後に牧野さんが「多くの人が障害について知り、気持ちの面でも成熟できたら、きっといい社会になると思う」と締めくくりあっという間に1時間のセッションが終了。みなさんの経験談や現在の活動から、障害について、また一人ひとりについて、まずは「知ること」が大切なのだと強く感じたセッションでした。

※2022年9月時点でのインタビュー記事です。
※パーソルチャレンジ株式会社とパーソルサンクス株式会社は、2023年4月1日をもって統合し、パーソルダイバース株式会社として発足いたしました。