

「農福(ノウフク)連携」という言葉を聞いたことがありますか? その名前から想像できる通り、農業と福祉を掛け合わせた取り組みを指すこの言葉。農林水産省では「障害者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取組」と定義しており、2019年には「農福連携等推進ビジョン」を発表して認知度の向上や取り組み拡大に力を入れています。
パーソルグループの特例子会社パーソルダイバースでも農福連携に取り組んでいます。横須賀市で地域農家からの農作業を受託する「よこすか・みうら岬工房」では、障害のある社員(以下メンバー)が多数在籍し、地域農家の圃場整備や苗の定植、収穫作業などに従事しています。
本記事ではよこすか・みうら岬工房設立からメンバーの活躍など、農福連携によって「はたらいて、笑おう」が生まれている様子をご紹介します。
※本記事は2022年9月に開催された「みんなでDI&Eを考える強化月間(みんでぃ)」オンラインセミナーイベントの内容をもとに執筆しています。

パーソルダイバース株式会社
受託サービス統括本部 受託サービス第2本部 神奈川事業部
よこすか・みうら岬工房グループ マネジャー
岩﨑 諭史
横須賀市と連携。でも「パーソルに任せて大丈夫?」
パーソルダイバースは2018年に、首都圏の中でも農業が盛んで、障害者雇用にも熱心に取り組む横須賀市を本拠地に選び、「よこすか・みうら岬工房」を開設しました。

当初、私は開設スタッフの一人として、30件ほどの農家を直接訪ねて協力先を探しました。
当社は横須賀市と『農業と福祉の包括的な連携推進に関する協定書』を締結しています。自治体と特例子会社が農業分野で障害者雇用に関する協定を結んだのは全国初で、上地市長をはじめ多くの方々の賛同と期待をいただきながら雇用を進めています。しかし、自治体の協力があったとはいえ、当時は農業において私たちはスタートアップのような存在で、農家の方々から『本当に任せて大丈夫なのか』と厳しいお声をいただくこともありました。
そんなイメージを払拭し、不安を期待へと変えていったのは、何よりメンバーたちのはたらきぶりでした。
障害者のはたらく姿が農家の心を動かした
例えばよこすか・みうら工房の“レジェンド”と呼ばれるメンバーの高木悠さんは、これまで障害への理解不足から職場でつらい経験を重ね、何度かの転職の末に当社に入社。仕事を覚えるのが人一倍苦手でしたが、「ここは初めて安心してはたらける」とまっすぐ仕事に向き合い続け、担当するカブの出荷作業スピードは2年間で4倍にアップしました。そんな高木さんの姿を見て、最初は大きな期待をかけていなかった農家さんも、「高木さんがいないとうちのカブは出荷できない」と言っていただけるようになりました。

メンバーの成長が農家さんや周囲の意識を変えていくことができる、そんな大きなドラマがあります。
『人の笑顔をつくりたい』と2021年に入社した石井樹生さんは、自立したいという思いや責任感の強さゆえに、作業の難易度が上がるにつれ自信を無くし悩むようになってしまいました。でもそんな彼を見て、先輩メンバーが『そんなに頑張らなくていい。石井さんができることをやれば、こっちは自分がやるから』と積極的にフォローしてくれたんです。

このように、チームで切磋琢磨しながら、一人ひとりが成長しています。こうしたドラマをもっとグループ内へ届けたくて、メンバーが直接野菜を売る販売会なども実施しています。
農福連携のメリット「自分の身体と向き合ってはたらける」
障害のある方が農業に従事することのメリットは何でしょうか?主に以下のような点があげられると考えています。

この中でも、自然とともに生きる実感が特に重要だと思います。自然は厳しく過酷で、一生懸命育てた畑を一瞬でなぎ倒す残酷さもあります。でもそれを実感することで、逆らう・抗うのではなく、“あるべき姿”で生きることこそが人間の自然な姿だと感じられるのです。基礎体力もつき、心だけでなく体も強くなります。もちろん厳しいだけでなく、自然からは温かさや安らぎも得られます。農業がもたらす精神的な安定効果の研究も進んでいるそうです。
暑い日も寒い日も農作業を続けるには体調管理や丁寧さが不可欠ですし、そうした仕事への姿勢は成果物にダイレクトに表れます。農家さんの仕事をお手伝いさせていただくことは、農家さんの生活にコミットすることと同義です。だからこそ、嘘をつかないメンバーの姿勢がとてもマッチします。
よこすか・みうら岬工房には精神障害のあるメンバーもいますが、一緒にはたらくうちに緊張が解け、厳しかった表情もどんどん柔らかくなり、疲れなどから症状が悪くなってしまうときも自分の身体ときちんと向き合って仕事をしています。
おわりに:農福連携を広げ、はたらく機会と地域貢献を目指す
後継者不足や販売価格の下落など、農家を取り巻く現実は厳しくなっています。そうした中でよこすか・みうら岬工房として何ができるのか。付加価値のある農作物づくりや持続可能なやり方を模索し、障害のある方々が安心してはたらくことができ地域・農家のお役にも立てる、Win-Winな関係を作っていきたいと考えています。
パーソルダイバースでは他にも、地域と連携した取り組みを多数行っています。
群馬県では2017年より地域の伝統産業である養蚕業を次世代に繋げることを目指し「とみおか繭工房」を開設。養蚕や桑園管理、桑和紙原料の製造、野菜づくりなどの活動に加えて、廃棄する桑の枝を活用した和紙づくり、座繰り製糸、機織りなどの手仕事を活かした「6次産業化」のプロジェクトも展開しています。
また、千葉県いすみ市の「いすみ絆工房」では、地域の福祉事業所との農福連携で、食用菜花(なばな)の収穫に従事する取り組みも始まっています。
withではこうした農福や地域連携の取り組みのほか、各工房でのお仕事を詳しく紹介しています。ぜひご覧ください。