「ノウフク(農福)連携」という言葉を聞いたことがありますか? その名前から想像できる通り、農業と福祉を掛け合わせた取り組みを指すこの言葉。農林水産省では「障害者等が農業分野で活躍することを通じ、自信や生きがいを持って社会参画を実現していく取組」と定義しており、2019年には「農福連携等推進ビジョン」を発表して認知度の向上や取り組み拡大に力を入れています。

そんなノウフク連携、実はパーソルグループでもすでに取り組んでいる人たちがいることをご存じでしょうか。一体どんな事業を行い、どんな「はたらいて、笑おう」の瞬間が生まれているのか。パーソルグループの「みんなでDI&Eを考える強化月間(みんでぃ)」に合わせて行われたオンラインイベントから、パーソル流のノウフク連携をご紹介します。

登壇者

岩﨑 諭史

パーソルサンクス株式会社
神奈川事業部 よこすか・みうら岬工房 マネジャー

原 直裕

パーソルエクセルアソシエイツ株式会社
事業統括部 副統括部長

セミナーに登壇したのは、パーソルグループの特例子会社として農業事業を展開するパーソルサンクス株式会社の岩﨑 諭史(よこすか・みうら岬工房 マネジャー)と、パーソルエクセルアソシエイツ株式会社の原直裕(事業統括部 副統括部長)の2名。パーソルグループには障害者雇用に特化した特例子会社が4社あり、パーソルサンクスはグループ初の特例子会社、パーソルエクセルアソシエイツは2015年にグループ入りした特例子会社です。セミナーでは、まずパーソルサンクスの岩﨑から、自社での取り組みとはたらくメンバーのドラマについて発表されました。

メンバーの成長が周囲の意識を変える!~よこすか・みうら岬工房~

首都圏でオフィスの事務作業受託や工房運営を展開するパーソルサンクスがノウフク連携に取り組み始めたのは、2018年のこと。首都圏の中でも農業が盛んで、障害者雇用にも熱心に取り組む横須賀市を本拠地に選び、「よこすか・みうら岬工房」を立ちあげました。現在障害のある社員(以下メンバー)28名・スタッフ10名が当工房に在籍し、地元の農家の作業請負を行っています。岩﨑は立ち上げスタッフの一人で、当時30件ほどの農家を直接訪ねて協力先を探したと言います。

「パーソルサンクスは、横須賀市と『農業と福祉の包括的な連携推進に関する協定書』を締結しています。自治体と特例子会社が農業分野で障害者雇用に関する協定を結んだのは全国初で、上地市長をはじめ多くの方々の賛同と期待をいただきながら雇用を進めています。ただ、自治体の協力があったとはいえ、農業においてパーソルサンクスはスタートアップであり、最初は農家の方々から『本当に任せて大丈夫なのか』と厳しいお声をいただくこともありました」(岩﨑)

そんなイメージを払拭し、不安を期待へと変えていったのは、何よりメンバーたちのはたらきぶりでした。例えばよこすか・みうら工房の“レジェンド”と呼ばれるメンバーの高木さんは、これまで障害への理解不足から職場でつらい経験を重ね、何度かの転職の末にパーソルサンクスに入社。仕事を覚えるのが人一倍苦手でしたが、「ここは初めて安心してはたらける」とまっすぐ仕事に向き合い続け、担当するカブの出荷作業スピードは2年間で4倍にアップしました。そんな高木さんの姿を見て、最初は大きな期待をかけていなかった農家さんも、「高木さんがいないとうちのカブは出荷できない」とおっしゃるほどになったそう。

「メンバーの成長が農家さんや周囲の意識を変えていくことができる、そんな大きなドラマがあるんです。『人の笑顔をつくりたい』と2021年に入社した石井さんは、自立したいという思いや責任感の強さゆえに、作業の難易度が上がるにつれ自信を無くし悩むようになってしまいました。でもそんな彼を見て、先輩メンバーが『そんなに頑張らなくていい。石井さんができることをやれば、こっちは自分がやるから』と積極的にフォローしてくれて。チームで切磋琢磨しながら、一人ひとりが成長しています。こうしたドラマをもっとグループ内へ届けたくて、メンバーが直接野菜を売る販売会なども実施しています」(岩﨑)

こうしたドラマがどんどん生まれる一方で、後継者不足や販売価格の下落など、農家を取り巻く現実は厳しくなる一方だとも岩﨑は続けます。「そうした中でよこすか・みうら岬工房として何ができるのか。付加価値のある農作物づくりや持続可能なやり方を模索し、障害のある方々が安心してはたらくことができ地域・農家のお役にも立てる、Win-Winな関係を作っていきたい」と締めくくりました。

長期賃貸借契約をした農地から高付加価値商品が誕生
~富田林・岸和田アグリ事業~

続いてパーソルエクセルアソシエイツの原から、同社におけるノウフク連携が紹介されました。パーソルエクセルアソシエイツは大阪に本社を置く特例子会社で、オフィスサービス、クリーンサービス、パティスリー、そしてアグリの4事業を展開しています。ノウフク連携に取り組むアグリ事業は2012年に始まり、4事業の中でもっとも後発ながら、全社員210名中87名が従事する最大規模の事業です。

現在は富田林と岸和田に長期賃貸借契約をした農地を持ち、一年を通じて野菜の生産から収穫、販売までを一貫して自社で行っています。出荷した野菜は地元のスーパーや学校給食、飲食店、そして関西空港から飛び立つ飛行機の機内食まで幅広く利用され、富田林の特産品である高級野菜の海老芋や、プロ農家とアドバイザー契約を結んで生産したトマトなど、付加価値の高い商品に続々チャレンジしています。

国がノウフク連携を推進するよりかなり早い段階から始まった同社のアグリ事業。農業への参入理由はごくシンプルで、その拡張性やコストメリットにあったと言います。

「農業は、農地さえ広げていけばそれに比例して多くの障害のある方を雇用できます。また、農家さんとの関係づくりやトラブル対応、技術的サポートの面で自治体の理解協力が不可欠ですが、地域課題の解決にもつながることで協力が得やすいというメリットもあります。商品が野菜なので永続的なニーズがあることや、農地がかなり低コストで借りられること、そして知的障害の方でもやりやすい仕事であることも、アグリ事業を始めた大きな理由でした」(原)

農業は一つひとつの工程が細分化され、それぞれが完結しているため、一人がすべてをこなさなくても得意な作業に集中できます。知的障害の方は、決まった作業を丁寧に突き詰めることが得意な人が多いので、そうした特性にも農業がマッチしていたと原は言います。特に強調したのは、農業を通じて生まれるメンバーたちの「成長サイクル」です。

「メンバーの方の話を聞いて強く感じるのは、仕事へのまっすぐな思いです。仕事がしたい、やり続けたい……その思いが責任感を生み、仕事をやり切る。そしてやり切った達成感や成功体験が、次の挑戦につながっていく。こうしたサイクルの中で、社会人・職業人として確実に成長している実感が持てることが、アグリ事業の大きな特長だと思います」(原)

数十種類もの野菜を生産し、規模も作物のクオリティも市場で引けを取らないまでに成長したパーソルエクセルアソシエイツのアグリ事業。「たくさん作ればいい時代は終わり。これからは儲かる農業へとシフトチェンジしていきます」との言葉に、これからの発展がますます楽しみになりました。

自然の厳しさと癒しの中で、自分らしく成長する

2社の事例から、障害のある方が農業に従事することのメリットがいくつか明らかになりました。原はそのメリットを、下記にようにまとめて説明します。

「この中でも、自然とともに生きる実感が特に重要だと思います。自然は厳しく過酷で、一生懸命育てた畑を一瞬でなぎ倒す残酷さもあります。でもそれを実感することで、逆らう・抗うのではなく、“あるべき姿”で生きることこそが人間の自然な姿だと感じられるのです。基礎体力もつき、心だけでなく体も強くなります。もちろん厳しいだけでなく、自然からは温かさや安らぎも得られます。農業がもたらす精神的な安定効果の研究も進んでいるそうですよ」(原)

農業が障害のある方々に与える影響については、パーソルサンクスの岩﨑も次のように話します。

「暑い日も寒い日も農作業を続けるには体調管理や丁寧さが不可欠ですし、そうした仕事への姿勢は成果物にダイレクトに表れます。農家さんの仕事をお手伝いさせていただくことは、農家さんの生活にコミットすることと同義。だからこそ、嘘をつかないメンバーの姿勢がとてもマッチします。よこすか・みうら岬工房には精神障害のあるメンバーもいますが、一緒にはたらくうちに緊張が解け、厳しかった表情もどんどん柔らかくなり、疲れなどから症状が悪くなってしまうときも自分の身体ときちんと向き合って仕事をしています」(岩﨑)

発表後の質疑応答では、視聴者から「私もボランティアで参加したい!」「同じグループ会社としてIT支援などができないだろうか」「子どもにも参加させたい」「米や蕎麦もつくれるの?」……などなどたくさんのコメントが寄せられ、グループ内での関心の高さが感じられたところでイベントは終了。グループ向けの販売会や体験イベントなど、今後のパーソルにおけるノウフク連携の広がりが楽しみになるセミナーイベントでした。

※2022年9月時点でのインタビュー記事です。
※パーソルチャレンジ株式会社とパーソルサンクス株式会社は、2023年4月1日をもって統合し、パーソルダイバース株式会社として発足いたしました。