パーソルグループでは毎年、障害者雇用支援月間である9月に、障害のある方をはじめ、あらゆる方々が“障害とともに生きる・はたらく”ことについて考え・深めていただくイベントを開催しています。今年も9月25、26日の2日間、2つのsession(オンラインイベント)が行われました。sessionのダイジェストとアーカイブ動画を紹介します。

9月26日開催のsession2:『発達障害「心の不安」「見えない障害」と向き合い、自分らしくはたらくヒント』では、ADHD当事者として自身の経験を積極的に発信されているエッセイスト・メディアパーソナリティーの小島慶子さん、発達障害当事者であるパーソルダイバースの森田起恵さん、アイドルグループ「仮面女子」メンバーの猪狩ともかさんが登壇し、外からは分かりづらい“心の不安”“見えない障害”との向き合い方や、安心してはたらくための工夫について議論しました。また、悩みの解決方法として、パーソルダイバースではたらく当事者社員向けに行われている研修も紹介されました。

登壇者

小島慶子さん

エッセイスト・メディアパーソナリティー

猪狩ともかさん

タレント、アイドルグループ「仮面女子」メンバー

森田 起恵

パーソルダイバース株式会社
受託サービス統括本部
受託サービス第1本部PRO受託事業部 
ビジネスサポート第3グループ
オーダーサポート第2チーム

中津井 亨

パーソルダイバース株式会社
受託サービス統括本部
受託サービス企画推進本部 人財開発部
人財開発グループ 研修企画チーム

司会

大出 恵

パーソルダイバース株式会社
人材ソリューション統括本部
人材ソリューション本部 キャリア支援事業部
首都圏CA第2グループ

ADHDASDを併発。過集中や感覚過敏に自分なりの対応法で工夫する

初めに、森田さんと小島さんから、当事者としてはたらくうえで感じる心の不安、見えない障害についてお話を伺いました。

森田 私はADHDとASDを併発しています。私の特性の一つに感覚過敏があって、就職活動ではスーツを着たり、メイクをしたりすると落ち着きがなくなり、面接に苦労しました。また、周囲の発言のニュアンスが読み取れないことや、集中しすぎて疲労から体調を崩すことがありました。光や音も苦手で、遮光性が高い眼鏡や、ノイズキャンセリングのイヤホンを使って対応しています。

職場で最も苦労するのが、集中力のコントロールが難しい、ということです。自分の疲れに気が付かないくらいに集中してしまい、突然パタリと疲れ切ってしまうことがあるので、タイマーで時間を区切って休憩を取るようにしています。

■配慮や相談できる環境を求めて特例子会社へ。入社後も困りごとはすぐ相談

森田 もともと特例子会社での就職を考えていました。自分の困りごとや特性について相談できる環境があるのでは、と思ったからです。面接で、「自分はこういう配慮が必要です」と伝えたときに、面接官から「大丈夫ですよ、対応できますよ」と言っていただいたことに安心感を覚えて入社を決めました。

入社直後はしっかりしたマニュアルがあり、それに沿って仕事を進めるので、困りごとはありませんでした。ある程度の年数が経って、仕事の幅が広がってくると、後輩の相談、新人の研修など、マニュアルにない業務が増えてきます。そうしたときは、判断に迷うことがあるので、すぐに上司に相談することを心掛けています。マニュアルがない仕事をすることは、期待と不安の半々です。どうしていいか分からないと悩む反面、仕事を覚えて自分でマニュアルを作れば、後から同じような業務をする人のためになります。自分と同じような特性を持つ、誰かの役に立ったらいいなあと思っているところです。

小島慶子さん「発達障害と分かっても、その人は何も変わっていない」無意識の思い込みを取り除く

小島 私は40代のときADHDの診断を受けました。特性は森田さんに似ていて、気が散りやすいとか過集中とか、決まった手順を踏まないと先に進めないといった特性があります。

こうしてメディアに出ていると何事もないと思われるかもしれませんが、いまもこの瞬間、周囲の音がものすごく気になっています。慣れているので自分でノイズキャンセリングしていますが、とても疲れます。発達障害の方の特性は人それぞれかと思いますが、普通の人と同じように見えるように、普通の人の何倍のエネルギーを使って、「普通」に見せている努力をしているのだと思います。

私がいつもお伝えしているのは、それまで障害と気づかなった人が実は発達障害だとわかり「やっぱりなあ」と思ったときに、なぜその気持ちが生まれたかを考えてほしいということです。障害があることが分かった前と後で、その人が変わることはありません。発達障害と分かったとたんに「あ~、そういうことか」「まともじゃなかったのか」と思うことがあるとしたら、その感情や考え方こそが、障害のある人が生きていくうえでの大いなる障害、「心のバリア」になります。困りごとや特性、心のバリアは見えません。それを考える習慣を持ってほしいですね。

「アンコンシャスバイアス」という言葉があります。無意識のうちに「障害がある人は人より劣っている」「まともに話せない」といった心無い偏見や思い込みが自分の中に刷り込まれていることがあると思います。私にもそれはあって、例えば玄関で腕時計を忘れたことに気づくと、「これは私がADHDで自分がダメ人間だからだ」と思うようにしていました。ミスは障害の有無関係なく起きるのに、障害のせいにしてしまう。そうした“無意識の思い込み”を丁寧に取り除くことと、社会的な制度を整えることを同時にやらないと、なかなか人の意識は変わっていかないと思います。

■障害があることが分かって安心感を持てた

大出 猪狩さん、お二人の話を聞いてみて、どのように感じられたでしょうか。

猪狩 自分が障害者になって仕事に関わるようになってから、障害の違いが少しは分かってきましたが、お二人の話を聞いているとまだ理解が足りないなと感じました。

お二人に伺いたいのですが、障害が分かった時にはどんな感情になりましたか。ショックを受けたのか、自分が生きづらさを感じたのは障害だからなのか?と腑に落ちたのでしょうか。

森田 私の場合は安心感がありました。いままで、なぜ何やってもうまくいかないんだろう、人と同じにできないんだろうと思っていたので、理由が分かったことによって対応の仕方があるんだとホッとしたのを覚えています。

小島 私もホッとしたことを覚えています。私は人体の仕組みが好きで、自分の脳の仕組みが分かったような気がして面白かったです。「あの困りごとにはADHDが影響していたのかも」と思って、助かったな、という気分です。

感じ方は人それぞれだと思いますが、「なんでそんなことができないの」「普通はみんなできるのよ」といろんな言葉を無意識のうちに自分の内側に取り込んでしまい、なんでもない時に自分をその言葉で責めることがあります。「あ、これって発達障害が影響しているんだ」と分かると、自分をいたずらに責めることがなくなるな、と思いました。

心の悩みを解決するには、悩みを可視化し、自ら動くこと

session後半では、心の不安や見えない障害についてどう向き合えばいいかを議論しました。

はじめに、悩みの解決例として、1200名以上の精神・発達障害がある社員がはたらくパーソルダイバースで実施している社員向けの研修を、自身も障害ある当事者で研修企画・制作を務める中津井亨さんから紹介いただきました。

中津井 私は自身の休職や成長、当事者としての経験を生かして、障害のある社員が成長できる研修を担当しています。今日は心の不安や見えない障害と向き合う一例として、当社の「メンバー向け研修」を紹介します。

当社では、悩みの対象を「自分」「仕事」「仲間(職場で一緒にはたらく仲間)」と位置づけています。悩みは時間や対象で変わります。ただ漠然と悩むだけでは解消しません。

解消には3つのステップがあります。まずは自分の悩みの原因を考えること。次に解消のための行動を取ること。そして最後取った行動を振り返って、自分なりの「必勝法」を身に着けることです。このサイクルを繰り返すことで、悩みに対応する心の余裕も生まれ、よいスパイラルが生まれて、結果的に良い仕事ができて、良い仕事が安心感を与えて、安定した定着をもたらすことができると考えています。

sessionでは、ロジックツリーの考え方を使って、猪狩さんに不安の原因について考えてもらいました。詳細はぜひ、動画をご覧ください。

■誰もが想像力を持ち、困りごとがないかを尋ねる習慣を

最後に、ゲストの皆さんからのメッセージをいただきました。

猪狩 障害の有無かかわらず、何かに困っている人ってたくさんいると思います。障害があるから助けよう、障害がない人は大丈夫だと思うのではなく、すべての人に対して手を差し伸べたり、その人に対して向き合ったり考えたりすることが大事で、結果的に見えない障害を持つ人の助けになると思います。

小島 いろんな理由で、自分にとっては不都合じゃなくても、その人は悩んでいること、またその逆も常にあると思います。想像力を持つことと、尋ねること。質問することは失礼なことではありません。「手伝うことはありますか?」「私が知っておくべきことはありますか?」「困っていることはありますか?」と聞くのを習慣にしてほしいと思います。よく「障害って個性だよね」という言葉を聞くと思います。でも私は、日本はまだ障害=個性という考え方までにはなっていないと思います。日本の社会が、障害がある人や、ほかの人と大いに違う個性を持った人にとって暮らしやすい社会になって初めて個性と呼べると思います。まだまだ生きづらい社会、会社があるのは事実なので、そこを切り開く社会を作る、という意識をもって日々を過ごしてほしいなと思います。