パーソルグループが障害者雇用支援月間である9月に毎年開催している「障害とともに生きる・はたらく」。2023年9月21日に開催された、3つのオンラインセミナーのレポートをお届けします。

Session 1では、タレント業の傍らパラリンアート運営事務局(※1)の理事としても活躍する中山秀征さんを特別ゲストに迎え、障害のある人がはたらくことを通じてその人自身が感じる幸せや満足感、“はたらくWell-being”実感を高めていくために必要なことは何かについて、本音で語りました。(※2)

※1 「障がい者がアートで夢を叶える世界をつくる」を理念に、アートビジネスモデルを通じて障害のある人の経済的自立を目指す団体。https://paralymart.or.jp/association/
※2 パーソルグループでは、はたらくことを通してその人自身が感じる幸せや満足感を“はたらくWell-being”と定義しています。https://www.persol-group.co.jp/sustainability/well-being/

登壇者

中山 秀征 さん

タレント
一般社団法人 障がい者自立推進機構(パラリンアート運営事務局)理事

清宮 宏章

パーソルテンプスタッフ株式会社
第二キャリア推進本部
第三キャリアコーディネート部
北関東・甲信コーディネートセンター

渡邊 雅徳

パーソルダイバース株式会社
受託サービス第2本部 東京・千葉事業部
東京・千葉定着支援グループ

モデレーター

元井 洋子

パーソルダイバース株式会社
人材ソリューション本部
キャリア支援事業部
首都圏CA第1グループ グループリーダー

パーソルグループではたらく当事者社員と、タレントの中山秀征さんを迎えて

今回登壇した当事者社員の一人は、パーソルテンプスタッフ株式会社でコーディネーターとして活躍する清宮宏章さん。
28歳の時に網膜色素変性症による視野狭窄と診断され、5円玉の穴から覗いているような小さな点しか見えていない状態の清宮さん。結婚直後でもあり、家族を支えなければという責任感と失明の不安で何も考えられなくなり、お酒に逃げることもあったと言います。そんな中、パーソルテンプスタッフの派遣社員としてはたらいていた奥様からの紹介をきっかけに同社に入社し、現在は企業と求職者の間で駆け橋の役割を果たすコーディネーターとして活躍しています。

◇清宮さんの詳しいストーリーはこちらのインタビュー記事でご紹介しています。
https://with.persol-group.co.jp/magazine/interview/028/

もう一人は、パーソルダイバース株式会社ではたらく渡邊雅徳さんです。
渡邊さんは2017年のある朝、突然自分の仕事について一切思い出せなくなったことをきっかけに、若年性アルツハイマー型認知症を発症したことがわかりました。休職をして復職を目指したものの、物忘れと時間感覚の障害が大きく、退職することに。しばらくは生活保護を受けながらゲームをするだけの自暴自棄な生活を送っていましたが、認知症コーディネーターの支援を受けて前向きな気持ちを取り戻し、就労移行支援を経て現在の仕事に就くことになりました。今ではタスクを忘れてもすぐに気づけるよう、チーム全体でタスク管理を共有するなど、職場の仲間とも連携、工夫をしながら業務に取り組んでいます。

◇渡邉さんの詳しいストーリーはこちらのインタビュー記事でご紹介しています。
https://with.persol-group.co.jp/magazine/interview/027/

そして特別ゲストにお招きしたのは、タレントの中山秀征さんです。
40年以上にわたってテレビやラジオ、舞台など多方面で活躍されている中山さんは、2019年2月から一般社団法人 障がい者自立推進機構 パラリンアート運営事務局の理事として、障害者の芸術活動による経済的自立や夢の実現を支援されています。
障害のあるアーティストたちのエネルギーと創造性に強く感銘を受けるとともに、アーティストの経済的自立のためにアートをビジネスとして成立させることの重要性も強く感じていると語る中山さん。清宮さん、渡邉さんの話にも熱心に耳を傾け、社会の多様性に対するあたたかなまなざしが印象的でした。

はたらく幸せ、感じていますか?3人が本音で「はたらくWell-being」を語る

Session1の後半は、はたらくことを通じてその人自身が感じる幸せや満足感、“はたらくWell-being”実感を高めていくために必要なことは何かを考えるトークセッションを行いました。モデレーターの元井洋子さん(パーソルダイバース株式会社)から2つのお題を出し、3人が本音で答えるかたちで進行しました。

元井 では早速1つ目のお題です。「あなたはいま、はたらくことを通じて幸せや充実感を感じていますか?」イエスかノーで答えていただこうと思います。まずは清宮さん、いかがですか?

清宮 イエスです。私は28歳で目が悪くなって、仕事を辞めて引きこもり、お酒もたくさん飲みました。周りからそれが分からないよう、スーツを着て“カモフラージュ出社”をしたことも……。当時は障害者になって恥ずかしいという思いがあったんですよね。でも今はこうして仕事に就いて、普通にはたらけることが幸せなんだとすごく感じています。それまでは仕事のよろこびを感じることはありませんでしたが、目を悪くしたからこそ、今の幸せな自分があるとも思います。

元井 普通が幸せなんだと再確認できたということですね。渡邊さんも前半のお話では幸せを感じているように見受けられましたが、どんな時にそれを感じますか?

渡邊 私の会社では、今の仕事を世の中に役立てることを条件に「複業」が認められていて、私も若年性アルツハイマーの経験についての講演活動を行っています。会社であったことを次の講演で紹介したり、逆に講演活動を通じて知ったことを仕事に役立てることができたりしたとき、とても充実感を感じますね。涙を流して聞いてくれる人もいて、「就職できたのは渡邊さんのおかげです」と言ってもらったこともあるんです。障害のある人にも何らかの自分の役割分担が与えられるといいなと思いますね。

元井 では最後に、いろんなお仕事でご活躍されている中山さんはどんな時に幸せを感じるのでしょう?

中山 街で視聴者の方に「昨日のあの番組おもしろかったよ!」と言っていただける、そんな一言が本当に励みになりますね。僕らも悩んでいるときに、テレビ番組で笑って元気づけられることがあるじゃないですか、そんな風に誰かのプラスになれたら一番うれしいですね。

当事者は自分をさらけ出すこと、会社は自己開示をしやすい環境を作ること

元井 ありがとうございます。続いてのテーマは「違いや制約を超えて、はたらくWell-beingを掴むために」です。渡邊さんは何か工夫をされていることはありますか?

渡邊 自分を「さらけ出す」、つまり自己開示していくことで周囲の理解を得ていくことが大事だと思います。例えば何か配慮が必要なら、「自分はこういう病気で、こういう条件のときにこんな症状が出ます」ということをちゃんと伝えていくと、会社側もフォローがしやすいですよね。でも、かっこわるいと思って具体的なことを何も言わないと会社は配慮のしようがないし、仕事ができないときに「この人はワガママを言っているのではないか?」と判断されかねません。はたらく個人側は、「自分の病気はかっこわるいことじゃない」と認める強さを持って自己開示をしていくこと、会社側は自己開示をしやすい環境を作っていくこと、その相互がうまく絡み合っていくことが大事じゃないかと思います。

元井 ちなみに、職場で同僚や上司に望むことはありますか?

渡邊 あんまり先回りの配慮はいらないと思っています。例えば「障害」の「害」がよくないから平仮名にしようという流れがありましたが、それまで別に当人は意識していなかったのに、過剰な気遣いによって「そんなに差別的に思われていたんだ」と思ったこともありました。私は見た目からはアルツハイマーだとまったくわかりませんが、市役所で障害者手帳を出した途端に相手の態度が急変すると「え?」となってしまいます。

元井 今のお話は、ハッとする人も多いかもしれませんね……。清宮さんはどうでしょうか。

清宮 そうですね、私も最初の頃は「迷惑をかけて恥ずかしい」と思っていましたが、あるとき同僚から「(清宮さんを)手伝いたいけど、言ってくれないとわからないよ」と言われたんです。それで「ああ、言っていいんだ」と吹っ切れました。障害を問わずですが、しっかり話をすることで仕事がやりやすくなったり楽しくなったりすることがあると思います。
また、自分は目が悪くなってきている一方で、耳が良くなってきているのですが、自分の得意とする分野を伸ばし、活かしていくことが大切だと日々感じています。そして、小さな成功を積み重ねていくことが大きな成功に変わっていくきっかけになるのではないかと思います。

先回りの配慮より、まずは明るく話し合うことを目指そう

元井 中山さん、今のお二人のお話を聞いていかがでしたか。

中山 相手に対して良かれと思ってやっていることが、実は裏目に出ることってあるじゃないですか。でもお二人のお話を聞いていると、気にしないで話す方がいいのかなと感じました。例えば僕も今日、失礼かなと思いながらも清宮さんに「視力はどれくらいなんですか」とお聞きしたら、「五円玉の穴から見ている感じ」と普通にお答えいただけて、「清宮さんにしか見えない世界があるんだな」「どれだけ疲れるんだろう」とより深く理解できるようになりました。今日、お2人とこうして非常に明るく話できたっていうことが、なにより良かったなと思います。

元井 これを見ている視聴者の方にも、最後に一言お願いします。

中山 僕は実家が群馬の町工場を営んでいて、障害のある人が身近にいる幼少期を過ごしていました。幼少の頃から自然と障害の有無に関わらず皆が一緒にはたらいたり遊んだりしている環境で過ごしていて、そんな中で感じたのは、まず、居場所があること、そして模索をしながらその人の持ち味や得意を生かしていくことが大事ということです。そのためには、まずぜひ外に出て、門戸をたたいてみる。気晴らしに外に出るだけでもいいかもしれません。例えばアートなど、すぐに直接「はたらく」につながることではなくとも、きっと何かのきっかけになると思います。

それから、こうして話をするにも、やっぱり心が元気じゃないとできませんから、まずは気持ちを元気にしてほしいですね。そして皆さん一人ひとりに、必ず何かできることがあるので、それを発表してください。自分ではたいしたことはないと思うことが、(人から見たら)すごいことって必ずあるんですよ。だから周りの人にオープンに話をしてもらえたらと思います。

自分を受け入れ、さらけ出し、はたらく幸せを掴む。簡単なことではなくても、お二人の言葉から勇気をもらえた人もいるのではないでしょうか。何より恥ずかしがらず、明るく話し合うことの大切さを感じたトークセッションでした。