パーソルが2023年9月に開催した障害者雇用支援月間特別オンラインセミナー「障害とともに生きる・はたらく 2023 」。さまざまな分野で活躍する障害のある当事者が、自身の障害や仕事のこと、職場での工夫などについて本音で語ったセッションが行われました。

この記事では、「障害者の転職・就職~自分らしいはたらき方を見つけよう!~」をテーマに、アイドルグループ「仮面女子」の猪狩ともかさんと、発達障害(ADHD)当事者として「タスク管理」のノウハウを広げる活動をする小鳥遊(たかなし)さんをゲストに、自分らしくはたらける職場や仕事の選び方、職場の工夫について紹介しました。
パーソルグループからは、障害者のための転職・就職サービス「dodaチャレンジ」で、キャリアアドバイザーとして障害者の転職支援に携わってきた木田正輝と元井洋子が登壇しました。

※本記事は2023年9月に実施したセミナーをもとに執筆しています。

登壇者

猪狩ともか

アイドル「仮面女子」メンバー

TASK DESIGN LAB.
( タスクデザインラボ )

代表

小鳥遊(髙梨健太郎)

ADHD(注意欠如・多動症)と診断され、仕事の失敗から抑うつを経験。自作のExcelツールで業務管理を工夫し、社会福祉法人SHIPと共に「タスクペディア」を無料公開。
現在はストレスの少ない働き方を実現し、共著に『要領が良くないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』がある。

パーソルダイバース株式会社

人材ソリューション本部
キャリア開発支援事業部
ゼネラルマネジャー

木田 正輝

モデレーター

パーソルダイバース株式会社

人材ソリューション統括本部
人材ソリューション本部 
キャリア支援事業部 首都圏CA第3グループ
マネジャー

元井 洋子

タスク管理でADHDと向き合う|小鳥遊さんのキャリア体験

はじめにゲストのお二人から、それぞれの経歴や体験、障害との向き合い方について伺いました。
まずは発達障害の一つであるADHD(注意欠如・多動症)の当事者として、ご自身の経験を生かし、発達障害とタスク管理をテーマに書籍を出されるなど活動している小鳥遊(たかなし)さんです。

発達障害の診断を受け、自分の特性を受け入れた

小鳥遊さん 私は大学を卒業したあと、しばらく司法書士の勉強をしておりました。その傍らアルバイトを始めたのですが、これがなかなかうまくいかない。なんでこんなに仕事ができないのだろうとネットで検索したら、たまたま発達障害という言葉に出会ったんです。それでいろいろ調べていくと「これぞ私!」という解説のオンパレード。病院を受診したら、やはりADHDと診断されました。

障害があると分かったときは正直、安心しました。仕事がうまくいかないのは自分が怠けて悪いことをしているんじゃなかったのだとほっとしたのを覚えています。

診断を受けてからの数年間は、(自分の特性に対して)特になんの対策もしていませんでした。そのため就職しても失敗としくじりの連続でした。1社目は就職後じきに休職してしまいそのまま退職。2社目も休職してしまい、その時「このままではいけない!」と強く思ったんです。それで、忘れやすいとか、段取りがうまく組めないとか、先延ばしにしちゃうとか、過度の自責傾向があるといった自分の特性を受け入れて対策を立てるようになり、今につながっています。

ADHDの障害特性から生まれた「タスク管理術」

小鳥遊さん 私が提唱しているタスク管理術は、仕事ができるビジネスパーソンが偉そうに唱えるようなものではまったくありません。自分が持つ傾向に対し、一つひとつ対策した結果たどり着いたものです。「忘れっぽいなら書いておけばいいや」とか、「段取りがうまく組めないならタスクを書き出して一つずつチェックしていこう」とか。そうやって私の障害特性から生まれたものが、たまたま世に言う「タスク管理」の方法に似ていて、結果的に障害の有無関係なくお役に立っているのかなと思います。

元井 実は私も小鳥遊さんのご著書『要領が良くないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』を読ませていただきましたが、今まさに転職活動をされている方にもヒントになることがたくさん詰まっていると思いますので、ぜひ皆さんにも読んでいただけたらと思います。

小鳥遊さんのタスク管理術については、後半でも詳しく紹介します。

前向きなはたらき方を貫く|猪狩ともかさん

続いて、「仮面女子」の猪狩ともかさんをご紹介します。
猪狩さんは2018年、事故で脊髄を損傷し、両下肢完全麻痺と診断をされ、現在は車椅子で活動をされていらっしゃいます。グループでのパフォーマンスのほか、自身の体験をまとめた書籍や作詞活動など、多彩な活動を行っていらっしゃいます。

猪狩さんはパフォーマンスだけでなく、ご自身のYouTubeで旅行やリハビリに挑戦される様子を発信されていて、その姿に元気をもらっている人も多いと思います。自身に降りかかってきた事故や障害とどのように向き合ってきたのかを伺いました。

「仮面女子」という居場所が私を守ってくれた

猪狩さん 事故に遭ってから、周囲の人がとても前向きな言葉をかけてくれたおかげで、前向きな気持ちに切り替えていくことができました。
なにより、「仮面女子」という居場所があったことが私を守ってくれたと思います。ケガを負って仕事を失ってしまう方もいるかと思いますが、私の場合はメンバーやスタッフが「早く戻ってきてくれるのを待っているね」「それまでステージを守っているね」と言ってくれたので、それが自分にとって前向きになれるポイントだったかなって思います。

「ファンファーレ」という曲で作詞に挑戦しました。入院していた時に私が作詞をしたいと言ったら、スタッフさんから「今のリハビリをがんばる気持ちや前向きな気持ちを等身大で書いてほしい」と言われたので、もう本当に、当時思っていたことをバーッとスマートフォンのメモ帳に書き出してから歌詞をつくっていきました。入院初期の頃だったので、痛みで眠れないことも多く、ちょっとナチュラルハイ状態でしたね(笑)

小鳥遊さん えっ! 今ちょっと鳥肌が立ちました……。この曲を聞いて、すごく前向きな歌詞でいいなと思ったんですが、それを病院で書いたとはすごいエネルギーですね。今日この曲と出会って、すごく力をもらえた気がします。

猪狩さん ありがとうございます!

【実践編】転職・就職を成功させるヒント

セッションの後半は、障害者向け転職・就職サービス「dodaチャレンジ」を利用して就職された方を対象に行ったアンケートの結果を紹介しながら、仕事探しやはたらき方のヒントをゲストの皆さんと考えるトークセッションを行いました。

書類作成や面接対策に向けてやるべきことは?

最初のテーマは、「お仕事探し中に苦労したこと・特に力を入れて取り組んだこと」。アンケートでは、1位が「面接対策」、2位が「書類作成(職務経歴書など)」となりました。

木田 まず書類作成をする際のアドバイスですが、もし障害があるために転職回数が多かったり、1社の在籍期間が短かったりする場合は、キャリア式という書き方をおすすめしています。これは、時系列で職歴を書くのではなく「営業職でこんな経験がある、事務職でこんな経験がある」といったように、どの仕事がどれくらいできるかを書く方式です。

また、現在離職中で就労移行支援事業所に通われている方は、遠慮せずそのこともアピールしてほしいですね。例えば週5日休まず通えているとか、自宅から事業所まで公共交通機関を使って毎日通所できているとか。自分の課題をどう乗り越えたかという非常に良いPRになります。

面接において大切なのは、ずばり自己理解です。自分の障害や特性を理解すればするほど必要な配慮が明確になりますし、それを相手に説明できる人ほど安定就業につながることも調査データから明らかになっています。

小鳥遊さん 自己理解は本当に大事だと私も思います。私の場合、自分一人で自己理解をやっていたら数年かかっちゃった、と言っても過言でないほど。でも自分の障害を理解したら、それを受け入れて対策を立てるまで、とんとん拍子で進みました。「自己理解をしたらこっちのもんだ!」と言えるのではないかと思います。

タスク管理術、秘訣は「覚えなくてもいい」こと

元井 続いて「仕事でのマイルールや工夫」に移ります。アンケートでは「スケジュール、タスク管理を綿密に行う」「業務のWBSを作成・運用する」」など、仕事の進め方やタスク管理に関する意見が目立ちました。

小鳥遊さん タスク管理で一番大事なのは、「自分の頭で管理しないこと」です。例えばUSBメモリを渡されて、1時間後に2割の情報がなくなると言われたら絶対に使いませんよね。それと同じで、脳ってやっぱり忘れちゃうんです。だから脳に記憶を頼らず、全部書き出す。忘れないようにがんばるのではなく、忘れてもいい環境を作るということにとても効果があるんです。
皆さんも学生の頃、定期試験前に回答を頭に詰め込んで、試験が終わった瞬間「もう忘れてもいいや!」と解放感を得たことはありませんか? 「覚えていなくてもいい」と思って会社を退社できるのってすごく気持ちが良いので、ぜひ皆さんにもやっていただきたいなと思います。

猪狩さん それ、仕事に限らず普段の生活の中でも使えそうだなって思いました!

木田 私も頭の中にタスクがだいぶ溜まっていそうなので、今晩は書き出してから寝ようと思います。

はたらく幸せや充実感を大切にする

元井 最後のテーマは「はたらく幸せや充実感」についてです。
パーソルダイバースが2021年に発表した調査では、障害のある方がはたらく幸せや充実感を感じるのは「新たな学びや成長を感じるとき」(58.2%)が最も多く、次いで「体力的・精神的に安定しながら仕事ができているとき」(55.0%)、「仕事への前向きな意味や、自分の役割を能動的に担えているとき」(46.1%)でした。

また、dodaチャレンジ利用者に聞いたアンケートでは「『いつもありがとうございます、あなたが来てくれて仕事が回るようになりました』と言われた時」「難しい仕事にチャレンジできるようになった時」「いろんなことにチャレンジさせてくれること。自分の存在感が否定されてないことを感じる」などのコメントをいただきました。

自分はどんなときに幸せや充実感を感じるのか?その職場ではたらくことで、自分は幸せや充実感を感じることができるか?を考えることも、自分に合ったはたらき方を選ぶ上で大切なポイントです。
猪狩さんは仮面女子として活動されてどんな時に充実感を感じますか?

猪狩さん 以前、大きめのアイドルイベントを開催したのですが、会場の利用許可がなかなか降りなかったことがありました。でも「仮面女子の猪狩さんも出演します」と伝えたら「それなら」と許可していただけたことがあって。それまで自分がグループにいることで迷惑をかけていると思うことが多かったのですが、自分の存在がマイナスをプラスに変えられたと思えた瞬間でした。ファンの方からも「猪狩ちゃんから勇気をもらっている」と言われると嬉しくて、これからも頑張ろうと思えています。

過去は振り返らない。「前向きな諦め」が未来を照らす

元井 木田さんはキャリアアドバイザーという立場から、充実感の得られるはたらき方を見つけるために、まずはどんなことが必要だと思いますか?

木田 私は、十数年前にうつ病になって、一時期キャリアアドバイザーの仕事から離れていたことがありました。その時上司から「今はキャリアアドバイザーの仕事はできなくても、きっと木田が誰かの役に立てることがあるよ。目の前にあるどんな仕事でも成果を出せるように、一緒にがんばろう」と言われたんです。その時、もう過去を振り返るのはやめて今を生きようと思いました。そうやってはたらくことを前向きに考えて一歩を踏み出すことが、充実感や幸せに必ずつながっていくと思います。

小鳥遊さん 私も「前向きな諦め」が未来につながることってあると思いますね。私の場合は、“忘れ物をしない自分になる”のを諦めたことで対策を打つようになり、人並みにはたらけるようになりました。「諦め」と聞くとマイナスイメージがあるかもしれませんが、前向きな「諦める」は良いと思っていて、「物忘れしない自分」になることを諦めて、他の方法で解決する道もある、「諦めることで夢は叶う」と伝えたいです。

猪狩さん それでももし何か躓くことがあれば、ぜひ仮面女子のライブ映像を見てください!

おわりに:自分らしいはたらき方、キャリアを選ぼう

いかがでしたか?
猪狩さんの前向きな生き方、小鳥遊さんのADHD特性を活かした仕事術、職務経歴書や面接対策、自分と向き合い、幸せを感じられるはたらき方を選ぶこと…レポートではお伝えしきれないほど、話のテーマが多岐にわたったセッションでした。
自分にあったはたらき方を模索している方、転職・就職を考えている方へのヒントとなれば幸いです。

セッションの最後、木田から「一人で考えて答えを出すことが難しい場合は、誰かを頼りにしてもいい。キャリアアドバイザーとして、私も皆さんの中にある「自分らしいはたらき方」を一緒に考えていきたいと思っています」と話してくれました。
パーソルでは、転職・就職に悩んでいる方や、自分に合ったはたらき方を見つけたい方に向けて、障害者のための転職・就職サービス「dodaチャレンジ」を運営しています。ご興味のある方はお気軽にご相談ください。