パーソルグループが障害者雇用支援月間である9月に毎年開催している「障害とともに生きる・はたらく」。2023年9月21日に開催された、3つのオンラインセミナーのレポートをお届けします。
Session3のテーマは「障害者の転職・就職大会議2023 ~自分らしいはたらき方を見つけよう!~」。ゲストにお招きしたのは、前年のセッションにもご登壇いただいたアイドルグループ「仮面女子」の猪狩ともかさんと、発達障害(ADHD)当事者として「タスク管理」のノウハウを広げる活動をする小鳥遊(たかなし)さんです。パーソルグループからは、障害者のための転職・就職サービス「dodaチャレンジ」を運営するパーソルダイバース株式会社から、キャリア支援事業部ゼネラルマネジャーの木田正輝と、モデレーターとして元井洋子が参加しました。賑やかな60分のセッションを、ダイジェストでどうぞ!
登壇者
猪狩 ともか さん
タレント
アイドルグループ「仮面女子」メンバー
小鳥遊(たかなし) さん
木田 正輝
パーソルダイバース株式会社
人材ソリューション本部
キャリア支援事業部
ゼネラルマネジャー
モデレーター
元井 洋子
パーソルダイバース株式会社
人材ソリューション本部
キャリア支援事業部
首都圏CA第1グループ グループリーダー
小鳥遊さん「このままではいけない!と対策に踏み切ったら、タスク管理術に行きついた」
セッションの前半では、ゲストである小鳥遊さんと猪狩ともかさんに、ご自身の経歴や障害との向き合い方をお話しいただきました。
元井 まずは小鳥遊さんのご紹介から始めたいと思います。小鳥遊さんは発達障害の一つであるADHD(注意欠如・多動症)の当事者として、ご自身の経験を生かし、発達障害とタスク管理をテーマに書籍を出されるなど活動されています。ADHDが分かったのはどんなきっかけだったのでしょう?
小鳥遊 私は大学を卒業したあと、しばらく司法書士の勉強をしておりました。その傍らアルバイトを始めたのですが、これがなかなかうまくいかない。なんでこんなに仕事ができないのだろうとネットで検索したら、たまたま発達障害という言葉に出会ったんです。それでいろいろ調べていくと「これぞ私!」という解説のオンパレード。病院を受診したら、やはりADHDと診断されました。
元井 その時のお気持ちはどうでしたか?
小鳥遊 正直、安心したんです。仕事がうまくいかないのは、自分が怠けて悪いことをしているんじゃなかったのだとほっとしたのを覚えています。
元井 そこから今の活動に至るまで、どんな経緯があったのでしょうか。
小鳥遊 診断を受けてからの数年間は、(自分の特性に対して)特になんの対策もしていませんでした。そのため就職しても失敗としくじりの連続でした。1社目は就職後じきに休職してしまいそのまま退職。2社目も休職してしまい、その時「このままではいけない!」と強く思ったんです。それで、忘れやすいとか、段取りがうまく組めないとか、先延ばしにしちゃうとか、過度の自責傾向があるといった自分の特性を受け入れて対策を立てるようになり、今につながっているというわけです。
元井 ご著書ではタスク管理術や仕事術を紹介されていますが、これはどういうものでしょうか。
小鳥遊 私がやっているタスク管理術は、仕事ができるビジネスパーソンが偉そうに唱えるようなものではまったくありません。自分が持つ傾向に対し、一つひとつ対策した結果たどり着いたものです。「忘れっぽいなら書いておけばいいや」とか、「段取りがうまく組めないならタスクを書き出して一つずつチェックしていこう」とか。そうやって私の障害特性から生まれたものが、たまたま世に言う「タスク管理」の方法に似ていて、結果的に障害の有無関係なくお役に立っているのかなと思います。
元井 実は私も小鳥遊さんのご著書『要領が良くないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』を読ませていただきましたが、今まさに転職活動をされている方にもヒントになることがたくさん詰まっていると思いますので、ぜひ皆さんにも読んでいただけたらと思います。小鳥遊さんのタスク管理術については、後半でも詳しくお聞きしたいと思います。
猪狩さん「事故後も前向きでいられたのは、待っていてくれる居場所があったから」
元井 では続いて、「仮面女子」の猪狩ともかさんをご紹介します。猪狩さんは2018年、事故で脊髄を損傷し、両下肢完全麻痺と診断をされ、現在は車椅子で活動をされていらっしゃいます。グループでのパフォーマンスのほか、著書『100%の前向き思考――生きていたら何だってできる! 一歩ずつ前に進むための55の言葉』の発刊や、楽曲「ファンファーレ」の作詞も担当されるなど、多彩な活動を行っていらっしゃいます。
ここで少し、仮面女子としての猪狩さんのパフォーマンス動画をご紹介します。
元井 とてもパワフルでかっこいいですね!猪狩さんはパフォーマンスだけでなく、ご自身のYouTubeで旅行やリハビリに挑戦される様子を発信されていて、その姿に元気をもらっている人も多いと思います。事故に遭われてから、どうやって前向きな気持ちに切り替えていったのかお聞きしてもよろしいですか?
猪狩 私の場合は周囲の人がとても前向きな言葉をかけてくれたので、そのおかげが大きいです。そしてなにより、「仮面女子」という居場所があったことが私を守ってくれたと思います。ケガを負って仕事を失ってしまう方もいるかと思いますが、私の場合はメンバーやスタッフが「早く戻ってきてくれるのを待っているね」「それまでステージを守っているね」と言ってくれたので、それが自分にとって前向きになれるポイントだったかなって思います。
元井 先ほど流した「ファンファーレ」は作詞にも挑戦されていますが、あれはどんなお気持ちで書かれたのでしょうか?
猪狩 私が作詞をしたいと言ったら、スタッフさんから「今のリハビリをがんばる気持ちや前向きな気持ちを等身大で書いてほしい」と言われたので、もう本当に、当時思っていたことをバーッとスマートフォンのメモ帳に書き出してから歌詞をつくっていきました。入院初期の頃だったので、痛みで眠れないことも多く、ちょっとナチュラルハイ状態でしたね(笑)
小鳥遊 えっ! 今ちょっと鳥肌が立ちました……。この曲を聞いて、すごく前向きな歌詞でいいなと思ったんですが、それを病院で書いたとはすごいエネルギーですね。今日この曲と出会って、すごく力をもらえた気がします。
猪狩 ありがとうございます!
◇猪狩ともかさんが登壇された昨年のセッションのレポートも公開中! ぜひあわせてお読みください。
https://with.persol-group.co.jp/magazine/report/003/
転職活動や就業中の工夫、はたらく幸せ…dodaチャレンジ利用者のアンケート紹介
後半は障害者向け転職・就職サービス「dodaチャレンジ」を利用して就職された方を対象に行ったアンケートの結果を紹介しながら、仕事探しやはたらき方のヒントをゲストの皆さんと考えるトークセッションを行いました。
書類作成や面接対策に取り掛かる前に、まず必要なことは?
最初のテーマは、「お仕事探し中に苦労したこと・特に力を入れて取り組んだこと」。アンケートでは、1位が「面接対策」、2位が「書類作成(職務経歴書など)」となりました。この結果を受け、キャリアアドバイザー視点でのアドバイスから話が始まりました。
木田 まず書類作成をする際のアドバイスですが、もし障害があるために転職回数が多かったり、1社の在籍期間が短かったりする場合は、キャリア式という書き方をおすすめしています。これは、時系列で職歴を書くのではなく「営業職でこんな経験がある、事務職でこんな経験がある」といったように、どの仕事がどれくらいできるかを書く方式です。
また、現在離職中で就労移行支援事業所に通われている方は、遠慮せずそのこともアピールしてほしいですね。例えば週5日休まず通えているとか、自宅から事業所まで公共交通機関を使って毎日通所できているとか。自分の課題をどう乗り越えたかという非常に良いPRになります。
面接において大切なのは、ずばり自己理解です。自分の障害や特性を理解すればするほど必要な配慮が明確になりますし、それを相手に説明できる人ほど安定就業につながることも調査データから明らかになっています。
小鳥遊 自己理解は本当に大事だと私も思います。私の場合、自分一人で自己理解をやっていたら数年かかっちゃった、と言っても過言でないほど。でも自分の障害を理解したら、それを受け入れて対策を立てるまで、とんとん拍子で進みました。「自己理解をしたらこっちのもんだ!」と言えるのではないかと思います。
猪狩さん 障害のない人がある人に対して、壁を作ってしまう原因の一つは、どう手を差し伸べていいか分からないということだと思うんです。配慮してほしいことを周囲に伝えて、ちゃんとお互いにそれが理解できているということは、本当に大事なポイントだと思いました。
タスク管理のポイントは「自分の頭で管理しないこと」
元井 では次のテーマ「仕事でのマイルールや工夫」に移ります。「自分の機嫌は自分で取る」「“できない”を正直に伝える」など、たくさんのコメントをいただいていますが、中でも「スケジュール、タスク管理を綿密に行う」「業務のWBSを作成・運用する」」など、仕事の進め方やタスク管理に関するコメントが目立ちました。タスク管理というキーワードが出てきたので、小鳥遊さんに、タスク管理のポイントや、すぐに使えるタスク管理術を伺いましょう。
小鳥遊 タスク管理で一番大事なのは、「自分の頭で管理しないこと」です。例えばUSBメモリを渡されて、1時間後に2割の情報がなくなると言われたら絶対に使いませんよね。それと同じで、脳ってやっぱり忘れちゃうんです。だから脳に記憶を頼らず、全部書き出す。忘れないようにがんばるのではなく、忘れてもいい環境を作るということにとても効果があるんです。皆さんも学生の頃、定期試験前に回答を頭に詰め込んで、試験が終わった瞬間「もう忘れてもいいや!」と解放感を得たことはありませんか? 「覚えていなくてもいい」と思って会社を退社できるのってすごく気持ちが良いので、ぜひ皆さんにもやっていただきたいなと思います。
猪狩 それ、仕事に限らず普段の生活の中でも使えそうだなって思いました。
小鳥遊 なんにでも使えます!
木田 私も頭の中にタスクがだいぶ溜まっていそうなので、今晩は書き出してから寝ようと思います。
「前向きな諦め」が未来を拓く!? 躓いたときは誰かに頼ってもいい
元井 最後のテーマは「はたらくことを通じた充実感や幸せを感じるとき」です。
「『いつもありがとうございます、あなたが来てくれて仕事が回るようになりました』と言われた時」「難しい仕事にチャレンジできるようになった時」「いろんなことにチャレンジさせてくれること。自分の存在感が否定されてないことを感じる」などの意見がありました。
猪狩さんは仮面女子として活動されてどんな時に充実感を感じますか?
猪狩 以前、大きめのアイドルイベントを開催したのですが、会場の利用許可がなかなか降りなかったことがありました。でも「仮面女子の猪狩さんも出演します」と伝えたら「それなら」と許可していただけたことがあって。それまで自分がグループにいることで迷惑をかけていると思うことが多かったのですが、自分の存在がマイナスをプラスに変えられたと思えた瞬間でした。ファンの方からも「猪狩ちゃんから勇気をもらっている」と言われると嬉しくて、これからも頑張ろうと思えています。
元井 木田さんはキャリアアドバイザーという立場から、充実感の得られるはたらき方を見つけるために、まずはどんなことが必要だと思いますか?
木田 私は、十数年前にうつ病になって、一時期キャリアアドバイザーの仕事から離れていたことがありました。その時上司から「今はキャリアアドバイザーの仕事はできなくても、きっと木田が誰かの役に立てることがあるよ。目の前にあるどんな仕事でも成果を出せるように、一緒にがんばろう」と言われたんです。その時、もう過去を振り返るのはやめて今を生きようと思いました。そうやってはたらくことを前向きに考えて一歩を踏み出すことが、充実感や幸せに必ずつながっていくと思います。
小鳥遊 私も「前向きな諦め」が未来につながることってあると思いますね。私の場合は、“忘れ物をしない自分になる”のを諦めたことで対策を打つようになり、人並みにはたらけるようになりました。「諦め」と聞くとマイナスイメージがあるかもしれませんが、前向きな「諦める」は良いと思っていて、「物忘れしない自分」になることを諦めて、他の方法で解決する道もある、「諦めることで夢は叶う」と伝えたいです。
猪狩 それでももし何か躓くことがあれば、ぜひ仮面女子のライブ映像を見てください(笑)
木田 一人で考えて答えを出すことが難しい場合は、誰かを頼りにしてもいいと思います。キャリアアドバイザーとして、私も皆さんの中にある「自分らしいはたらき方」を一緒に考えていきたいなと思っています。
元井 みなさん、今日はありがとうございました。こちらをもちまして、「障害者雇用支援月間特別オンラインセミナーイベント 障害とともに生きる・はたらく2023」すべてのセッションを終わりたいと思います。
レポートではお伝えしきれないほど、話のテーマが多岐にわたったセッション3。今回のセッションで小鳥遊氏のタスク管理術や猪狩氏の前向きな思考に興味を持たれた方は、ぜひお二人の本(下記参照)も手に取ってみてください。また、転職・就職に悩んでいる方や、自分に合ったはたらき方を見つけたい方は障害者のための転職・就職サービス「dodaチャレンジ」までお気軽にご相談ください。
『要領がよくないと思い込んでいる人のための仕事術図鑑』F太・小鳥遊 共著 (サンクチュアリ出版)
『100%の前向き思考――生きていたら何だってできる! 一歩ずつ前に進むための55の言葉』猪狩ともか 著(東洋経済新報社)