job coach

社員の悩みや課題に向き合う「田町のジョブコーチ」が、障害者雇用の日常やちょっと役立つノウハウを紹介する当コラム。今回は、私が一次面接を担当していたときに思ったことを、少し振り返りたいと思います。

「転職は3回まで」が常識だと思っていたら

現在、田町のジョブコーチである私は、6年ほど前まで求人広告を作成するグループ企業のある部署にいました。俗にいう“広告ディレクター”というやつです。

当時は「転職サイト」に掲載する広告を作るため、さまざまな企業に取材に行っていました。取材時には各社の採用条件を聞くのですが、よくある条件の一つが「転職は3回まで」。そんな“常識”を抱えて当社パーソルダイバースに異動した私ですが、しばらくすると1次面接の対応をすることになりました。

履歴書を見るなかで驚いたことは、転職回数の多さにでした。「転職3回まで」という定説はもはや、自分の中から消えてしまい、逆に「転職は3回から」が常識というくらい考え方が180度変わりました。転職回数が二桁でも、それほど珍しいことではないのです。

転職回数よりも重視すべきこととは

面接に同席した当社社員に教えてもらったのですが、精神・発達障害の方は、障害特性や体調の安定を実現させるために、また限られた条件の中から自分に合った職場を探すために、一般平均よりも多く転職をされるそうです。転職の理由は、「病気を治療するため」「業務と特性が合わないため(判断を伴う業務が難しい等)」「職場環境になじめなかったため(例えば大きい音が続く、光を発する環境等)」「他者とのコミュニケーションが苦手だった」「曖昧な指示に対応できなかった」……などさまざま。転職を繰り返しながら、自分が自分らしくはたらける場所を懸命に探しているのです。

ですから当社の面接では、転職回数は特に重視していません。大切なのは以下の3つ。

  • はたらく意欲があるかどうか
  • 自己理解ができているか
  • そして安定的にはたらくために体調管理ができるかどうか

個人的に特に重視していたのは、一つ目の「はたらく意欲・熱意」をきちんと表現できるかどうか。はたらきたい・はたらいて社会に貢献したいという意欲があれば、それを全力で支援したいと思いながら面接を行っていました。

一人ひとりの頑張りに応える環境を用意する

このコラムをご覧の方は、何かしら「障害者雇用」に関係がある方がほとんどだと思います。そんな読者の皆様にちょっと自慢気にお伝えしますと、当社には勤続5年~10年の精神・発達障害の社員が結構いる、ということです。

この事実は、都内の障害者雇用担当者会議などで関係者に結構びっくりされたりします。そして必ずと言っていいほど、「安定雇用のためにどんな努力をしているんですか?」という質問が続きます。このコラムでも小まめな面談対応の重要性などをお伝えしてきましたが、一番の要因は何と言っても「社員一人ひとりのそれぞれの頑張りなんだろうな」と最近思います。そしてその「頑張れる環境」を、会社がいかに準備できるかが大事だと感じています。

当社の特徴は、とても多くの種類の業務があることです。パソコンでの入力作業などの定例反復業務や、原稿制作といった非定型業務、清掃など体を動かす仕事、さらにITスキルに秀でた社員はマクロを使ってツール開発などをしています。また、職場は首都圏だと田町、目白、池袋、横浜、大宮など複数箇所で展開しています。「複数の業務×複数の勤務地」の組み合わせで多様なはたらき方を実現できることは、それぞれの社員が心身ともに健康的にはたらき続けられる要因になっているのかもしれません。

ちなみに、不調者が出た場合は粘り強くフォローを続け、本人や支援機関、医師、上司などの意見を集めて課題がどこにあるのかを探ります。課題が明確になることで、「どんな仕事が最適か」「どんな場所・同僚とはたらくのが最適か」という対応策が見えてくるのだと思います。実際に業務を変えることによって体調が回復するだけでなく、見違えるようなハイパフォーマンスを出すこともあります。

先日、異動したある社員に「異動後は体調も回復し、とても仕事がやりやすくなりました。上司からの評価が高くなり、期待の言葉も貰いました。ありがとうございます」と言われました。私は何にもしてないんですけどね……。でも、そんな笑顔が「この仕事を頑張ろう!」という気持ちにさせてくれるのです。