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社員の悩みや課題に向き合う「田町のジョブコーチ」が、障害者雇用の日常やちょっと役立つノウハウを紹介する当コラム。今回は「田町のジョブコーチ」自身の経験から、精神障害のリアルな症状や支援の考え方をお話しいたします。

突然襲い掛かる不安、いつもの作業ができない

以前の記事でもお話ししましたが、私「田町のジョブコーチ」は30代後半から40代前半にかけての5年間ほど、メンタルクリニックに通院していました。今は何事もなく生活していますが、当時は「抑うつ状態」や「不安神経症」と診断され、仕事をしながら月に2回の通院と薬の服薬を続けていました。

心の病の場合、同じ病名でも出てくる症状は十人十色です。私の主な症状は、食欲不振、ミス多発、急に襲ってくる不安、記憶があいまいになる……など。「など」と書いたのは、それこそ「記憶があいまいになる」という症状の影響で、実は当時のことをあまり覚えていないからです。記憶にないだけで、おそらくもっと症状はあったはず。

いくつかの症状を具体的に紹介しましょう。まず「急に襲ってくる不安」。これは本当に急なんです。朝、通勤電車に乗るまではいたって普通。が、電車に乗り込んでしばらくすると、いきなり頭の中がピーンとひらめいた(?)状態になり、その瞬間「不安な自分」に突然気づくのです。「やばい!何か分かんないけど不安で電車に乗っていられない!」となって、次の駅で慌てて下車。すぐに会社に休むと電話し、ホームのベンチに座って息を整えてから、反対ホームの電車に乗って家に帰りました。この場合の「不安」とは「緊張」に近い感覚でしょうか。ドキドキ、ざわざわと心が落ち着かないのです。

また、当時は「なんでそんなこともできないのか」ということの連続でした。例えば自動車移動の交通費精算。1Lのガソリン代×距離を請求すればいいだけなのに、それができない。金額を間違えて記入し、次の訂正では距離を間違える。そして自分で間違えていることに気づかないのです。

理由や原因は本人だってわからない

障害のある社員の支援において、不安が強まっている社員に「何か原因がある?」と聞くことはわりと普通ではないでしょうか。本人に思い当たる原因がない場合は、「じゃあ、不安になる直前に、何か変わったことがあった?」と聞くこともあるでしょう。でも、当時の自分の感覚を思い出してみると、特に不安を誘う出来事もなく、直前の変化もなく、本当に原因がさっぱり思い当たらない。ただただ、不意に不安が襲い掛かってくるのです。ですので、不安を抱える社員には、理由を根掘り葉掘り聞くのではなく、ただ不安な気持ちを聞く「傾聴」が大事なんだよなあ、と思ったりします。

ミスが多い社員に対して「再発防止のために間違った理由を考えましょう」とアドバイスすることも多いと思うのですが、間違う側からすると、これもまた原因がさっぱり分からないのです。もう、不思議としか言いようがない……。たぶん、頭の中がオーバーヒート寸前なんでしょう。処理スピード、容量、正確性が普段通りにいかない状態なのです。簡単なことでもミスが続く場合はしばらく休むのがいいと言われますが、オーバーヒート状態を落ち着かせるためだよなあと実感を持って思います。

心の病を体験し、支援する立場になって思うこと

そんな状態から私がどうやって抜け出したか。私の場合、メンタルクリニックに通院することにも、薬を服薬することにも、まったく抵抗がありませんでした(今から思うと不思議なのですが)。ですから、ガソリンの交通費計算がうまくできなくなったころから「やばいな」と自覚し、ネットで評判が良い病院を調べて通い始めました。薬も言われたとおりに飲みました。風邪だったら「もう飲まなくていいや」「もう通院しなくていいや」と自己判断するのですが、メンタルクリニックではお医者さんの指示通りに通院と服用を続けました。

自分でも変わっているなと思うのが、「通院するのを誰かに見られたら嫌だ」という気持ちすらなかったこと。なんせ、当時通っていたオフィスが入っているビルの1階にあるクリニックに通っていましたから。心の病では会社や家から離れた病院に行くケースも多いと聞きますが、「近いからラクじゃん」とビルの2階にあるオフィスから1階にあるクリニックへ階段を下りて通っていました。

同僚にもメンタルの調子が悪いことを伝えました。幸い周囲の人たちはみんなすんなりと受け入れてくれました。自分のあっけらかんとした性格が幸いしたのか、溜め込むこともなく、誰にも言えないなんてこともなく、まあ、ちょっと時間はかかったけれど、はたらきながらなんとか病院を「卒業」することができたのです。
(ただ、あくまでこれは私の場合。あまり人に話したくない気持ちも分かりますし、体調と付き合っていく方法は人それぞれです。)

そんなこんなで今、支援の仕事をしています。自身の経験から生まれた私の支援ポリシーは、以下の4つです。

  • 急がないこと
  • とにかく近くにただいること
  • 受け入れること
  • 押し付けないこと

意見を押し付けられても、頑張れと言われても、不安の材料を早く取りのぞこうと言われても、病気の渦中では体も感情も動きません。でも、「しょうがないよね」「まあ、いいじゃないの」と言われると、まあまあ気持ちがラクになりました。この支援スタイルは、自分ではそんなに間違ってないんじゃないかなと思っています。