横須賀の農業現場から届いた「不安」の声

先日、当社のジョブコーチである私のもとに、横須賀のオフィスから一つの相談がありました。
「精神・発達障害のある社員と一緒にはたらくためのヒントを、現場スタッフに伝えてほしい」。これから精神・発達障害のある方の採用を増やすにあたり、迎え入れる側にも不安があるというのです。
横須賀エリアでは、これまで知的障害のある社員の採用が多く、精神・発達障害のある社員の受け入れ経験はほとんどありませんでした。さらに、現場スタッフの多くは福祉よりも農業経験が中心です。農作業の進め方は分かっていても、目に見えにくい障害特性への向き合い方には迷いが残ります。「どう声をかければよいのか」「どこまで配慮すればよいのか」。その戸惑いから、今回の研修は始まりました。
障害者雇用の農業では、制度や知識だけでは見えない現場の迷いがあります。だからこそ、まずはその不安を隠さず言葉にし、障害者雇用の現場で起きていることを一緒に整理する時間が必要だと感じました。

約15人の研修で飛び出した、現場のリアルな質問

研修当日、横須賀のオフィスに当事者とともにはたらくスタッフ約15人が集まりました。研修では、精神・発達障害の基礎的な理解や、障害者雇用のコミュニケーションで気をつけたいことをお伝えしました。
印象的だったのは、最後の質問コーナーです。現場からは次々と具体的な質問が出てきました。「他責傾向が強く、自分の課題に向き合いにくいメンバーにはどう接すればよいのか」「農作業でその日のノルマがあるとき、急いでほしい場面ではどう伝えればよいのか」「障害のある社員と農家さんがやりとりするとき、何に気をつければよいのか」。
私は、勤怠日数や業務実績など数字で表せる客観的な事実をもとに伝えること、急がせる前に急がなくてもよい仕組みを考えること、本人の許可を得たうえで病名ではなく「苦手なこと」や「伝わりやすい伝え方」を共有することをお話ししました。
この時間を通じて感じたのは、障害者雇用の受け入れに向き合う現場の本気度です。障害者の農業雇用を進める側にも、「安心して迎えたい」「長くはたらけるように支えたい」という強い思いがありました。障害者雇用のコミュニケーションは、知識を伝えるだけではなく、現場の迷いを一緒にほどいていくことから始まるのだと思います。

受け入れる側だけでなく、当事者も工夫を重ねている

研修をしながら思い出したのは、当社で長年はたらく社員たちの姿です。障害者雇用の受け入れは、会社側だけが努力するものではありません。精神・発達障害のある社員自身も、安定してはたらき続けるために、自分なりの工夫を重ねています。
たとえば、自分の性格、スキル、障害特性、配慮してほしいことをパワーポイントにまとめ、自作の「カルテ」のように会社へ提出した社員がいました。文字にすることで、会社が行う配慮や会社が任せる仕事が明確になり、長期就労につながりました。
また、「安定して仕事を続けること」を最優先にしている社員もいます。仕事も家のことも完璧にしようとせず、仕事に慣れるまでは家事を最低限にして眠りやすい環境を整えます。休日のどちらかは静養にあて、スマートフォンを見る時間にルールを決めます。こうした小さな工夫が、はたらき続ける力になります。
障害者の農業雇用の現場でも、当事者が自分の得意なこと、苦手なこと、疲れやすい場面を言葉にできると、周囲は支援しやすくなります。一方で、障害者雇用の現場として本人の努力を受け止める仕組みも欠かせません。

農業現場で受け入れを進めるために必要な視点

障害者雇用の農業に取り組むうえで大切なのは、病名だけで判断しないことです。同じ診断名であっても、得意な作業、苦手な場面、必要な配慮は一人ひとり違います。本人の同意を得たうえで、「この作業は得意」「この伝え方だと分かりやすい」と共有することが、障害者雇用のコミュニケーションの第一歩になります。
農業では、天候や収穫量、納期に左右される場面もあります。そのため、「急いで」と伝えるだけではなく、作業を細かく分ける、得意な工程を任せる、確認のタイミングを決めるなど、急がなくても品質を保てる仕組みを考えることが必要です。
そして、会社が心配しすぎないことも大切です。もちろん配慮は必要ですが、すべてを先回りして抱え込む必要はありません。基本的にはともにはたらく仲間であり、給料を受け取る社員でもあります。やるべきこと、やってはいけないことを伝えたうえで、指示の出し方に課題があれば本人と話し合いながら調整します。その積み重ねが、障害者雇用の現場のノウハウになります。
障害者の農業雇用は、特別な正解を探す取り組みではなく、現場に合ったやり方を試し続ける取り組みです。支援担当者には、現場を責めず、当事者だけに任せず、双方の間に立って障害者雇用の受け入れを進める役割が求められます。

戸惑いを言葉にすることが、次の受け入れにつながる

今回の研修を通じて、農業現場でも精神・発達障害のある方の活躍は広がっていくと感じました。
最初から不安がない現場は少ないと思います。むしろ、戸惑いがあるからこそ、質問が生まれ、学びが生まれます。その姿勢が、障害者雇用の農業を前に進めていくのだと思います。
障害者雇用の受け入れは、完璧な準備ができてから始めるものではありません。現場スタッフが悩みながら学び、障害者雇用のコミュニケーションを重ね、当事者も自分にできる工夫を続ける。そうした双方の努力が重なることで、居心地のよい職場が少しずつ形になっていきます。
障害者の農業雇用の現場には、まだ手探りの部分があります。それでも、今回の研修で見えたのは「しっかり迎え入れたい」という現場の姿勢でした。試行錯誤しながら受け入れを進めるその積み重ねが、精神・発達障害のある方が農業現場で活躍する未来を広げていくのだと思います。