
なぜ、今「待つ」ことが問われるのか

発達障害のある社員の職場トラブルに直面したとき、私たち支援者側は、つい「早く解決したい」と焦ります。しかし、パーソルダイバースでの経験を振り返ると、本当の解決をもたらしたのは、即効性のある対処法ではなく、「時間」でした。この記事の主役は、ある一人の社員ではありません。人が変わるまでの「時間」そのものです。目に見える成果を急ぐこと以上に、成果が生まれるまでの時間をどう支えるか——それが支援の質を左右します。
障害者雇用の支援に携わる方に、成長を待つことの価値と、その時間を無駄にしない関わり方をお伝えしたいと思います。
「時間をかける」以外に道はなかった
社員(Tさん)は、発達障害のうちASDやADHDの特性があり、入社当初は職場でのトラブルが絶えませんでした。研修中に断りなくシャツを脱いだり、講師に語気を強めて詰め寄ったりすることがありました。「あの人に研修を行うのは怖い」という声が届くほど、状況は深刻でした。感情のコントロールが難しく、周囲との衝突も一度ではありませんでした。
こうしたとき、短期間で答えを出そうとすると、本人の変化や職場側の調整可能性を十分に見極めないまま、退職という選択肢が意識されやすくなることがあります。しかし障害のある方の就労において、焦りは禁物です。障害のある方の就労現場では、特性そのものを短期間で変えようとするのではなく、本人の自己理解と周囲の関わり方を整えていく視点が重要です。変わりうるのは、本人の自己理解と周囲の受け止め方です。だからこそ、時間をかける以外に道はなかったのです。ここで大切なのは、「待つ」という判断を、支援者が意識して選び取ることです。放っておけば時間だけが過ぎていきます。けれど、明確な意図をもって関わり続ける時間は、本人にとって変化を試す猶予となり、周囲にとっては信頼を育てる期間になります。急がないという選択そのものが、支援の第一歩になります。
待つ時間を支えた「連携」と「自己理解」
ただ待つといっても、放置とは違います。関係者は面談の回数を増やし、困りごとについて、一つ一つ「答え合わせ」をしていきました。「口に出す前に、その言い方で相手が不快にならないか考えてみましょう」「大きな音が気になるときは、上司に相談して別室へ移りましょう」——こうした地道な対話が、発達障害のある方の自己理解を少しずつ育てました。正解を教えるのではなく、本人が自分で気づけるよう、待つ姿勢を大切にしました。この積み重ねが、時間を意味あるものに変えていったのです。
支援側の工夫は、上長・支援機関・会社の支援担当が必ず同じアドバイスをすることでした。助言がばらつくと、本人が受け止めやすい意見だけを選んでしまうことがあります。そこで支える人々は、電話やメールで頻繁に連絡を取り合い、「この相談にはこう返す」という対応をあらかじめすり合わせていました。障害者雇用の支援において、この足並みをそろえた連携は欠かせません。一人の担当者が抱え込むのではなく、チームで見守る体制こそが、待つ時間を支える力になります。Tさん自身も、定期通院に加えて月2回のカウンセリングを続け、自分の特性と向き合いました。発達障害のある方の自己理解は、1日で進むものではありませんが、支える人々の連携が続くほど、着実に深まっていきます。焦らず待つ時間こそが、発達障害のある方の自己理解を深める土壌になったのです。
「時間」が成長に変わる瞬間

数年の積み重ねを経て、風向きは変わりました。かつて職場トラブルの中心にいた社員は、勤続7年を超え、高いパフォーマンスを評価されて月間表彰者に選ばれました。取材の場でも堂々と話し、感謝を言葉にするようになりました。
本人が現在大切にしているのは、「トラブルを短期間でゼロにしようとしない」「比べる相手は昨日の自分」という姿勢です。この言葉こそ、時間が成長に変わった証しでしょう。振り返れば、劇的な転機があったわけではありません。小さな「答え合わせ」の積み重ねが、ある日ふと成果として表れた——支援の現場での実感としては、その表現が近いのだと思います。障害者雇用の支援では、成果を急ぐほど、かえって定着が遠のくことがあります。発達障害のある方の職場定着のカギは、短期の成果ではなく、半年後・1年後を見据えた関わりにあります。長い目で伴走してこそ、発達障害のある方の定着は、現実のものになるのです。
支援担当者へ:待つことは、能動的な支援である
職場で困りごとを抱える社員を長く雇い続けるのは、簡単ではありません。それでも、本人の努力と周囲の環境、そして「時間」が重なれば、障害のある方の就労は安定へと向かいます。安易に退職を促すのではなく、粘り強く待つ——その選択が発達障害の定着を支え、障害のある方が就労を継続することを可能にします。待つことは、手をこまねくことではなく、環境を整えながら伴走する能動的な支援そのものです。
もちろん、すべてのケースで待てば解決するとは限りません。だからこそ、待つ判断には、本人の変化の兆しを見逃さない観察と、周囲への丁寧な説明が伴います。支援担当者に求められるのは、早く結論を出すことではなく、成長を信じて見守り続ける忍耐です。当事者が「自分が変われば状況は好転する」と信じ、会社が「もう少し様子を見よう」と待つ。障害者雇用の支援において、この両輪がそろったとき、発達障害のある方の職場トラブルは、成長に向かう過程の一部として捉えられるようになります。時間は、ただ過ぎるものではありません。正しく関わり続ければ、それは何より確かな支援になるのです。成長を待つこと——それ自体が、支援の本質なのかもしれません。


