朝、出勤の準備をしようとした瞬間、理由のはっきりしない不安に襲われることがあります。
「またミスをするのではないか」「うまく振る舞えなかったらどうしよう」——そんな考えが頭から離れない。
こうした状態が続く場合、それは単なる気分の問題ではなく、「不安障害」という心の状態である可能性があります。
15年前に不安障害を患った、このコラムの著者であるジョブコーチが、自身の体験を交えながら、長くはたらくためのヒントを紹介します。

不安障害には、パニック症(パニック障害)や社会不安障害、強迫性障害などの種類がある

まず、不安障害についての概要を説明します。不安障害とは、厚生労働省のサイトでは「精神的な不安から心と体に、さまざまな不快な変化が起きるもの」と説明されています。
健康な人でも、不安は少なからずありますが、その不安や恐怖が過剰かつ持続的に現れ、日常生活や社会生活に支障をきたす状態を指します。
この不安や恐怖はいろいろな症状を伴い、それぞれ障害名がついています。主な種類は以下です。

  • 全般性不安障害(GAD)
  • パニック症(パニック障害)
  • 社会不安障害
  • 強迫性障害

いずれも、「不安によって生活機能が低下する」という点で共通しています。

不安障害は精神面、身体面の両方で症状が出る傾向にある

不安障害は、心と体の両面に影響を及ぼします。
心理面では、過剰な心配や予期不安、集中力の低下が見られます。身体面では、動悸、息苦しさ、めまい、不眠などが主な症状だと言われています。
これらは仕事において、次のような形で現れます。

  • 判断や優先順位付けが難しくなる
  • ミスへの恐怖から作業が遅れる
  • 出勤や特定業務への強い抵抗感
  • 対人関係の回避

重要なのは、これらが能力や意欲の問題ではなく、不安反応によるものだという点です。
ちなみに15年前、人間関係から不安障害(診断名は社会不安障害)を発症した私は、上記の症状については、対人関係の回避以外は顕著にありました。また、同時に例えば経費精算など、単純な作業でのミスが多くなるといった症状がありました。

不安障害が発症する原因は、個人の特性や、人間関係、長時間労働などさまざま

不安障害は、以下のような複数の要因が重なって生じます。
環境要因:仕事の負荷、人間関係、長時間労働
個人特性:完璧主義、責任感の強さ
生物学的要因:神経伝達物質や自律神経のはたらき
過去の経験:強いストレス体験やトラウマ
これらが組み合わさることで、不安が慢性的に持続する状態になります。そして、原因はこれ以外にも考えられます。個人によって、原因、症状、また適切な治療方法がそれぞれ違います。

前触れもなくやってくる不安

繰り返しですが、私の場合は人間関係がきっかけで発症しました。さまざまな局面で不安が強くなり、例えば通勤で電車に乗っている際、何の前触れもなく急に不安感だけが襲ってきて、冷や汗が止まらず、次の駅で下車してベンチに座り、会社に休みの連絡を入れたうえで、自宅まで徒歩で戻ったことがありました。
また、それまで3件やっていた業務が、たまたまその日5件になり、「この数はできないかもしれない」と不安になり、上司に相談して数を減らしてもらったこともありました。「不安が突然襲ってくるかもしれないという不安」などもあり、常に緊張状態にあったような気がします。

不安障害と向き合い、はたらくための工夫は、まず「相談すること」

不安障害を抱える人の多くが、「仕事を続けられるか」という問題に直面します。
よくあるのは、「頑張っているのにうまくいかない」「周囲に迷惑をかけている気がする」といった感覚です。これにより自己評価が下がり、不安がさらに強まるという悪循環が生まれます。私もこの感覚は常にあったような気がします。
しかし、はたらくか辞めるかの二択ではなく、「はたらき方を工夫する」という選択肢があることを当時の主治医に言われました。

  • まず自身の状態をしっかり上司に伝える
  • 不安が襲ってきたときの対処法を共有する(早退や遅刻など、心を落ち着かせるための対応を決める)
  • 相談する相手を1人に絞る
  • 突然の体調不良は「悪いことではない」「怠慢などではない」と改めて、上司とその認識を共有する
  • 業務量の多少の増減は臨機応変に対応する

これらのことを決めごととして上司と話し合うことで、比較的不安が少なくなり、15年前の発症以来、休職することはなく、2か月に1回のカウンセリングと服薬を続けています。途中数年間は、服薬も通院も不要だった時期もあります。

それぞれの発症時期・理由をきっかけに、当時の症状がよみがえってくることも

私がこのコラムを書いた理由。それは15年ぶりに強い不安に襲われたからでした。私が15年前に発症したのは、ちょうど東日本大震災の時期でした。
そしてこの3月は震災から15年という節目。そこでテレビやWeb、新聞などに様々な形で震災が取り上げられることで、当時の震災の様子や、また不安障害になった直後の辛い記憶がよみがえり、3月は通院回数が増え、服薬量も増えました。
人によっては、このようなことが起こる場合もあるでしょう。また、特に何事もなく、寛解に至るかもしれない。精神障害とは、本当に人それぞれ、違う形で出てくるんだなと強く実感した3月でした。
幸い4月に入り、症状は次第に収まってきています。時間が解決することもあるし、時の流れが一時的に何かを呼び起こすこともあるようです。3月は服薬とともに、上司に相談して都度早退するなど「やりすごす」という方法を選択しました。「不安は再び強くなることがあるかもしれない、でも対処すれば立て直せる」という実感は得られました。この経験は、ひょっとしたら、誰かの役に立つかもしれない、と書くに至った次第です。

不安障害と向き合いながらはたらくために

繰り返しですが不安障害の中には、パニック症(パニック障害)などの種類があり、それが個人の性格や置かれた環境などと合わさって、症状や特性は人それぞれです。そのため、「不安をゼロにする」「症状をいち早く治す」といった考え方だけでなく、不安とどう向き合い、どのように対処しながら長くはたらくかを考える視点が重要だと思います。

また、これは自分の経験ですが、小さな成功体験の積み重ねは、自己効力感の回復につながります。昨日は●件仕事をした。今日は●件できた。今日は電車を途中で降りずに会社に行けた。そういった、小さな成功を確認しながら1日を過ごしてみてはいかがでしょうか。

まとめ

不安障害は、必ずしもはたらくことを不可能にするものではありません。治療や自己認知、相談、対応法の準備など、工夫次第で長期就労も可能だと思います。自分だけの努力ではなく、自分の頑張りだけで過ごすのではなく、医師、家族、友人、上司、そして薬など、より多くの力を借りてみることをおすすめします。
そして、これからはたらきたいと考えている方へ、この方法ではたらく準備を整えてみてはいかがでしょうか。