4月は新年度の始まり。期待がふくらむ一方で、職場や仕事内容、人間関係が一気に変わる時期でもあります。また、4月を機に転職・就職する人も多いでしょう。障害者雇用の現場では、精神・発達障害のある当事者が、「慣れない」「見通しが立ちにくい」状況に直面しやすく、心身の負荷が高まりがちです。安心して長期職場定着するために、どんなスタートを切ればいいのか。障害者雇用の現場に10年間携わってきたジョブコーチが、社内で見聞きした事例を紹介します。

不安の正体を言語化することで、対処することの優先順位が見えてくる

「4月は落ち着かない」。毎年、多くの当事者から聞こえてくる言葉です。その背景には、異動や組織変更、就職・転職などで環境が変わる人が多く、その際に、複数の変化が同時に訪れることがあると考えられます。
新しい上司やチーム、新しい業務やオフィス、異なる評価基準、増える会議、通勤ルートの調整など。「未知のもの」に対する不安は、手帳の有無に関係なくありますが、特に精神・発達障害の当事者は、不安の感度が強く、小さな変化が連続すると、大きな不安をもたらすことがあります。

特にASDやADHDなど、発達障害の特性がある方は、見通しが立ちにくい状況では不安の感度が高まりがちです。感覚過負荷(音や光、人の多さへの過敏)もあるので、慣れるまではエネルギーの消耗が加速します。

不安は「曖昧であること」によって膨らみます。だからこそ最初にやるべきは、不安の言語化です。曖昧な部分をまずは明確にしてみることから始めてはいかがでしょうか。

何がわからないのか、どの場面で困るのか、どの時間帯に負荷が上がるのか、そして自分で調整可能な範囲はどこまでか。言葉にしたり書き出したりすることで、いまの不安要因が明らかになり、対策の優先順位が整理されます。その結果、気持ちが少し楽になることもあります。
上司や人事、支援機関の方などに伝える際も不安を書き出した紙やデータを共有して、具体的な場面と課題を一つひとつ相談して解決すると、相談される側もより的確なアドバイスを送れると思います。

※ミニポイント:不安は「場面・時間・刺激・役割」の4つの軸で分解し、短いメモにすると、整理しやすくなるでしょう。

「最初の3カ月をどう過ごすか」など、短いスパンで目標・ゴール設定を

就労移行支援事業所や各種支援機関への登録後、あるいは当社入社直後には、できること、できないこと、現状の課題や生活状況などの見える化・文字化をします。「アセスメント」と呼ばれるものです。

入社直後は、社員一人ひとりの業務習得状況を把握しながら、難易度や件数など、それぞれに合わせた業務を準備する場合があります。これは、「段階化」と呼ばれる考え方です。
負荷を一気に上げず、ある程度は個人に合わせる。負荷のグラデーションを丁寧に設計します。刺激に弱い人ほど、負荷の上がり方を緩やかにする配慮が必要です。また、同時に業務のマニュアルの準備が非常に大事で、「これを見れば仕事ができる」と安心感を社員に与えることができます。文字だけでなく、図解を伴ったマニュアルはより効果的でしょう。

異動で新しい環境に入ったケースも同様で、前部署での経験、体調推移を見ながら、現在の上司と相談して、不安をなるべく減らした状態で新しい環境でスタートを切るのが望ましいです。その際は、例えば4月から夏場まではこのように過ごそうといった、ある程度の「想像できる期間」「短いスパンでのゴール・目標」があれば、先が見えることにより、不安が少なからず解消されると思います。

当社では、支援機関を交えた定着面談や、上長が行う定期的な1on1、また社内の支援担当との面談など、相談の場を複数設けています。「何かあったら言って」と言われても、新しい環境で声を挙げるのは、なかなか勇気がいるものです。あらかじめ、「話せる場」を設定することで社員も安心できると考えています。

他者比較より、自分の強みに目を向けることで、安心できることがある

繰り返しですが、変化が多い4月は特に、毎年同じような悩み・不安の中でスタートする社員が目立ち、相談のケースも多くなっています。

過去にしたアドバイスで、慣れるまでは、同じことを続けてみましょう、と伝えたことがあります。
毎日同じ時刻に始業し、同じ手順でスタートする。これは上司と相談のうえですが、1日のタスクの件数をしっかり決める、困ったときに使う定型文(「優先度はAで合っていますか」「いま、質問してもいいですか」など)を準備しておく。これらの準備が「何かあったら、これをやればいいんだ」という安心感を与えてくれます。また、業務を定形化することで、覚えやすくなり、環境に慣れるスピードも速くなります。

そして、改めてですが業務を進めるうえで、配慮を必要とする特性については、しっかりと上司と相談すること。雑談が苦手な人は「雑談参加は任意にさせてほしい」や、感覚過敏・聴覚過敏の人はドアの近くに座ることや、電話の近くの席は避ける、などの工夫が考えられます。

また、入社や異動、転職直後は同期入社の社員と、研修や実務で同席しがちです。そうすると、どうしても周囲と自分を比べがちです。「あの人のほうが覚えが早い」と焦るケースもあるでしょう。その際は、改めて自分の強みや、得意なこと、会社や前職で評価されたことを振り返ってください、とアドバイスしています。自分のポジティブな部分に目を向けると、自然とネガティブな考え方が止まることもあります。

障害者雇用の現場では、特性や困りごとについて相談するのは日常風景です。特性をもってはたらく、が大前提ですので、「自分で頑張る」と一人で解決するのではなく、相談する勇気をぜひ持ってください。その一歩が入社後の不安を、想像以上に軽くしてくれるでしょう。

小さな安全・安心の積み重ねが、職場での長期安定就労につながる

年度の始めや、1年の始まりなど、いわゆる「節目」は、誰にとっても落ち着かないし、不安もあり、先の見通しが立ちにくいものです。
障害者雇用の現場では、小さな配慮を積み重ね、見える化・段階化・連携の循環を回し続けることで、社員の長期職場定着や、一人ひとりが実力を発揮できる職場環境の整備に力を入れています。

不安をゼロにするのは難しいことかもしれません。でも、減らすこと、軽くすることは、各所へ相談することなどで実現できます。
今日できる一歩を選び、明日を少しでも良い日にしていく。その積み重ねが安心をもたらし、安心が余裕を生み出し、安定した長期就労を可能にしてくれます。最初は不安です。でも、さまざまなフォローをする周囲の人間や企業の制度があることを頭の片隅に入れて、思い切って一歩を踏み出してみてください。