高知県、四万十川のほとりにある「パーソルダイバース 高知四万十オフィス」では、障害のある社員が自分のペースではたらきながら成長を実感しています。2021年4月に開設されたこのオフィスでは、20名近くの障害のある社員が在籍し、パソコンを使った事務作業や、地元農家のニラ出荷補助作業を担当しています。

黒潮町から通勤しているY.Mさんもその一人。入社当初は人と接することが苦手で不安を抱えていましたが、1年が経つと「自分は変われた」と語るまでに成長しました。
そんなYさんが見つけた「はたらく喜び」とは——?

※本記事は2023年10月に実施したインタビューをもとに執筆しています。

パーソルダイバース株式会社

受託サービス第1本部
PRO受託事業部 高知四万十グループ
M.Y

就職して1年後にASDの診断を受ける

編集部  Yさんご自身が障害の診断を受けるまでの経緯を教えてください。

Y 実は小さいころから、なんとなく違和感を感じていました。人の顔が覚えられなかったり、会話がうまく続かなかったりすることがよくあったんです。大人になってからも、仕事ややるべきことをなかなか覚えられず、母親から何度も注意されていました。それこそ「何百万回」と言ってもいいくらいです(笑)。

最初に病院を受診したのは、就職して1年が経った2018年のことです。そこで、自閉症スペクトラム(ASD)の診断を受けました。翌年には障害者手帳を取得しました。
二次障害はありませんでしたが、はたらくことや他人と接することがとてもおっくうに感じていました。外に出るのが怖くなり、好きだったイラストを仕事にできないか、あるいは自宅でできる仕事はないかと模索する日々が続きました。

静養中に一度、就職を考えて面接を受けたことがありました。しかし、まったく話せず、「やはり知らない人と話すのは難しい」と痛感しました。その後も自宅でできることを探し続けていましたが、母が理解を示してくれたおかげで、焦らずに過ごすことができました。母は保育士をしており、障害のある子どもをサポートした経験もあったため、特に動じることもなく「できることを一緒に探していこう」と言ってくれました。

発達障害の特性を理解し、体調管理を徹底して採用

編集部 就職に向けて、ご自身で工夫されたことはありましたか?

Y 私は自分の障害について調べるのが好きで、まずは特性をしっかり理解することに努めました。その結果、自分には以下のような特徴があることが分かりました。

  • 他人との会話が苦手
  • 突発的な状況にパニックを起こしやすい
  • 優先順位をつけるのが難しい
  • 大人数の中にいると疲れる
  • その反面、一つひとつの作業を丁寧にこなすのが得意

こうした特性をハローワークや地域の障害者就業・生活支援センターに相談しました。その際、パソコンを使ったコツコツとした入力作業であれば対応できることを伝えたところ、「人数もそれほど多くない環境ではたらける」環境としてパーソルダイバースを紹介され、2022年9月に入社することになりました。

編集部 自分の特性をしっかり理解し、それを伝えられたことが、就職成功のポイントだったのですね。

Y  そうですね。その点は支援機関の方にも褒められました。また、母からよく言われていた「規則正しい生活」を心がけていたことも大きかったと思います。就職前も、同じ時間に起きて、同じ時間に寝るという習慣を続けていました。そのおかげで、就職後も体調を崩すことがありませんでした。
ただ、面接のときは本当に緊張しました。面接が終わった直後は、疲労感でいっぱいでしたが、「自分の思いをなんとか伝えられたかな」と思えたのが救いでした。今振り返ってみると、「自己受容」と「体調管理」ができていた点が良かったのかもしれません。

「正解は一つじゃない」自分のペースではたらく

編集部 Yさんが担当している業務内容を詳しく教えてください。

Y 入社してからしばらくは、グループ企業の営業さんが受け取った名刺をデータ化し、システムに入力する業務を担当していました。
現在は営業用データの調査を行っており、住所やウェブサイト、業務内容などに変更があった場合、その情報をエクセルに更新・記録する仕事をしています。

編集部 入社前と後では、ご自身の印象は変わりました?

Y 入社してしばらくの間は、毎日が緊張の連続でした。人との会話が苦手なので、気軽に相談することができず、不安を感じていました。
だからこそ、教わったことを忘れないように必ずメモを取っていましたし、「どうしても分からないときは、勇気を出して聞くんだ」と自分に言い聞かせていました。
同時に、「最初は誰でも緊張するものだから、慣れるまで時間がかかって当然」と少し開き直ることも心がけていました。それが結果的に良かったのかもしれません。

以前は「早く結果を出さないと」と焦ってばかりでした。小さなミスが続くたびに余計に焦ってしまっていたんです。でも、当社は障害特性を理解し、ある程度待ってくれる環境が整っているため、成果を出すまでのスパンが長い仕事や提案にも取り組むことができました。
入社して1年が経った今では、気づいたことを上長に伝え、それが実現した経験もあります。自分の意見を聞いてもらえたことが大きな自信になりました。

また、スピードが求められる仕事もあれば、時間をかけて成果を生み出す仕事もあると気づきました。正解は一つではないんだと理解できたことで、それまで下を向きがちだった自分が、前を向いて歩けるようになったんです。はたらくことや生活することに対しても、自信がついた気がします。

「自分が変わる瞬間が楽しい」――はたらくことで見つけた「成長の喜び」

編集部 最後に、Yさんにとって「はたらく喜び」とは何でしょうか?

Y 人と接することが苦手な自分が言うのは少し矛盾しているかもしれませんが、仕事を通じて人や社会とのつながりを実感できることが一番の喜びです。

以前の私は、自分と家族以外にはあまり目が向いていませんでした。でも、仕事を通じてさまざまな人の考え方や人生に触れ、「自分はもっとこうなりたいな」と思うことが多くなりました。新しい発見があるたびに、自分が成長していると感じられて、それがとても楽しいんです。

もちろん、今でも人と接することには疲れを感じます。それでも「誰かのためになりたい」と思えたり、「この仕事の意味ややりがいは何だろう」と考えられるようになった自分がいます。そうやって考えられるようになったことが、自分の大きな成長だと感じていますし、はたらく上での大きな喜びになっています。

編集部 ありがとうございます。お話を伺って、この四万十オフィスで、充実してはたらいている様子が伝わってきました。

Y 四万十オフィスはとても風通しがよく、自分のペースではたらけていると実感しています。私は近隣の黒潮町から列車と送迎を利用して、1時間かけて通勤していますが、ここにいると「自分の人生がもっと充実できるかもしれない」と感じるんです。
環境がすべてではありませんが、やはりはたらく場所によって得られるものはたくさんあると思います。私にとって、この職場は本当に多くのことを学び、成長できる場所です。四万十近辺で仕事を探している方には、ぜひお勧めしたいですね!

まとめ:Yさんに学ぶ、障害による不安を自信に変えるヒント

障害や仕事のこと、はたらく喜びについて、穏やかに話してくれたYさん。
Yさんの話から、障害特性による不安を自信に変えてはたらくヒントが見えてきました。

  1. 自分の特性を正しく理解し、仕事や職場選びに活かす
    Yさんは障害について詳しく調べ、自分の特性を把握しました。特に「会話が苦手」「突発的な状況に弱い」など、自身の弱みを理解したことで、無理をせず自分に適した仕事を選ぶことができたと言えるでしょう。
  2. 適したサポートを活用し、相談できる環境を整える
    ハローワークや障害者就業・生活支援センターに相談し、自分に合った職場環境を見つけたことが、就職成功のカギとなりました。支援機関のサポートにより、自分一人では見つけにくい職場を見つけることができました。
  3. 規則正しい生活習慣を身につけ、自己管理を徹底する
    規則正しい生活を続けたことで、就職後に体調を崩すことがなかったと語るYさん。生活リズムを整えることが、安定してはたらくための土台になりました。
  4. 「人とのつながり」から成長や喜びを感じる意識を持つ
    人とのつながりが苦手でも、仕事を通じて社会や他者と関わることで、成長を実感できることがYさんの喜びとなっています。視点を広げ、ポジティブにとらえることが成長の一歩と言えるのではないでしょうか

Yさんの体験が、同じASDのある方や、自信をもってはたらきたい方へのヒントとなれば幸いです。

withマガジンでは、高知四万十オフィスについて詳しく紹介しているほか、Yさんと同じASDの特性のある社員のエピソードを紹介しています。また「お仕事図鑑」では、Yさんも従事している名刺情報の入力業務を紹介していますので、ぜひご覧ください。