パーソルグループの特例子会社であるパーソルダイバース いすみ絆工房(千葉県)は2024年1月から、地元特産品、食用菜花(なばな)の栽培を業務のひとつとして開始しました。それまでグループ企業のノベルティ製作が中心だった同工房で、初めて「地元のお仕事」をすることになりました。
地元の畑で育つ菜花の栽培はこれまで、地域の支援センターが行っていました。人手不足からいすみ絆工房に声がかかり、このたび社員17名のうち5名(指導員1名含)が作業に従事しています。地域の仕事をひとつ始めたことで社員の一人は、「ようやく地元企業だと言えるような気がします」と笑顔で話してくれました。改めて、工房の存在意義は、そしてこれからどのように地域と共生するのか。工房ではたらく社員に聞いてみました。
戸田 崇晴
パーソルダイバース株式会社 受託サービス統括本部
受託サービス第2本部 東京・千葉事業部
いすみ絆工房グループ 販促品チーム
長谷川 歩
パーソルダイバース株式会社 受託サービス統括本部
受託サービス第2本部 東京・千葉事業部
いすみ絆工房グループ 販促品チーム
この場所にこの工房がなかったら、自分は会社員になれなかった
いすみ絆工房は、千葉県いすみ市と締結した障害者雇用に関する包括連携協定に基づき、2021年7月に設立しました。特別支援学校や福祉事業所などから見学や実習を積極的に受け入れ、地域の障害者雇用活性化に取り組んでいます。
前述のとおり、これまで業務はグループ企業のノベルティ製作が中心でしたが、地域産業である菜花の収穫量向上に貢献すると同時に、新たな職域の創出を通じて障害者雇用の拡大を目指すことを目的に、2024年1月から3月末までの間、社会福祉法人土穂会 障害者就業・生活支援センター ピア宮敷が栽培する食用菜花の収穫を始めました。
菜花栽培に従事するのは4名の社員と1名の指導員。その中の1人、2022年1月に入社した、重度の知的障害がある戸田崇晴さんに話を聞きました。
編集部 仕事の楽しさと難しさを教えてください。
戸田 どのくらいの大きさになったら収穫していいのか。その判断が難しいです。教えてもらったのは、収穫に使うハサミの長さで、菜花の茎を切るということです。これだったら、赤ちゃん菜花を切らなくて大丈夫。最初の1週間くらいは慣れなかったけれど、だんだん慣れてきました。1日の目標10kgの収穫が、多い日には14㎏取れるようになりました。入社してすぐは、室内で除菌スプレーを作ったり、入浴剤を作ったりしていました。
でも、いまは菜花の仕事が大好きです。外の空気が吸えるし、広い場所で仕事ができるので、できればずっとやりたいです。
編集部 入社して2年ですね。仕事は順調ですか?
戸田 はい。とても順調です。最初からこの会社に入る事しか考えていませんでした。僕は長い時間電車に乗れません。家の最寄り駅から電車に乗っているのは15分。それくらいしか乗れません。その距離と時間くらいではたらける場所を探していると「会社」は、いすみ絆工房くらいしかなかったんです。
実習で2週間通うことができたし、スタッフの人も、「作業が上手だね」とほめてくれました。ここに入るのが自分にはぴったりだなと思いました。もし、ここが決まっていなかったら自分は会社員になれなかったかもしれません。遠いところに電車で行くことが想像できませんでした。パーソルダイバースがあって良かった。地元ではたらけて良かったとすごく思います。
入社後も仕事を教えてもらったり、仲良くしてもらったり。それまであんまりなかった、人と人との繋がりを実感できて、毎日とても楽しいです。これから、新しい作業にも挑戦する予定です。それをちゃんとできるようにして、自分にできることを増やしていきたいと思います。
そう、笑顔で話す戸田さん。次に、毎日工房から畑まで、社用車で社員を引率する、スタッフの長谷川歩さんにも話を聞いてみました。
地元の人たちに農業を通じて、いすみ絆工房をもっと知ってもらい地元に貢献したい
2023年5月に入社し、工房で指導員を務める長谷川さん。いすみでの就職はある意味「予想外」だったそうです。両親の移住を機にいすみで仕事探しを始めた長谷川さん。最初は地元グループホームで仕事を見つけはたらいていたそうです。いすみに来るまでの仕事経験はほぼ事務職。現地で仕事を見つけるのは一苦労。何とか見つけたグループホーム職員での仕事が1年過ぎたあたり、「さらに障害者領域に進みたい」と考えていたときに、工房の募集を見つけて「飛びついた」そうです。
編集部 工房に「飛びついた」そうですが、詳しく教えてください。
長谷川 これは地方ではよくあることかもしれませんが、そもそも仕事を募集している機会が少ないです。そんな状況の中で、自分がやりたいと思った仕事に出合うことは奇跡に近くて、募集が出たときは、もう会社のことを調べる前に応募していました。最初はいわゆる「工房」の募集だと思ったんです。小さな工房で障害がある方と一緒に、何かを作っているイメージ。でも、何回かの面接を受けるうちに、ん?これは違うかも、と思い始めました。なんだか考えているより大きな会社じゃないか?いやいや、相当大きな会社じゃないか?と。よく採用してくれたなあと会社にはほんと感謝しています。
編集部 仕事内容は、工房でやっている業務の指導などですか?
長谷川 そうですね。上司のチームリーダーとともに、業務の指導や体調管理など、現場のマネジメント全般を担当しています。1月からは菜花栽培のため、片道30分をかけて、社用車のドライバーもしています(笑)入社して予想外だったのが、「重度の知的障害」と言われる社員が、予想以上に多くの作業ができること。
そしてさまざまなことのチャレンジしようとする意欲があること。逆に言うと、世間一般のイメージに縛られて、「任せるのは危ない」という理由で、能力があるのにできないことが多いということを知りました。つまり、できる仕事や社員の可能性を広げる余地がたくさん残っているということで、「これはやりがいがあるし、いい仕事だな」と思いました。仕事の種類をたくさん増やして、できる仕事を増やせれば、おのずと社員も増えるのはと思ったんです。それは、結果的に地域の雇用促進に繋がるだろうと。
編集部 いまの長谷川さんの目標は、そういった業務拡大ですか?
長谷川 業務拡大は一つの手段だと思っています。大きな目標はパーソルダイバースのいすみ工房という名前と存在をもっと地元で大きな存在にして、地域に溶け込むことです。まだまだ当社は知られた存在とは言えません。一緒に菜花収穫をしているピア宮敷さんは地元では知られた存在で、当事者の人やその保護者から頼られる存在です。そして、先ほども言ったように当社のことは私自身も知りませんでした。認知度を上げて、もっともっとこの地域のために存在価値を高めたいと思います。
社員ができることを増やす、仕事を増やす、そして、地元仕事をするなど、地域に還元できれば、「障害者雇用といえば、パーソルダイバースいすみ絆工房」になると思っています。そのスタートとして、菜花の収穫は大事な作業だと思っています。この作業は1月~3月の短期作業ですが、これをきっかけに、この地域に通年で仕事を通じて携わることができれば、私の夢も実現に一歩近づきます。
いすみ絆工房のチャレンジはまだ始まったばかり。「農福連携」という言葉が最近よく聞かれます。農業を通じて障害者が仕事のやりがいを見出すこと。そして、高齢化が進む農業のはたらき手不足を、障害者によって解消すること。それによって、障害者の仕事創出と農業の労働力不足という社会問題を解決することが大きな目的です。さらに、地元の仕事を地元にある会社で地元の人々が従事することで、「地域貢献・活性」という大きな付加価値がプラスされるのではないでしょうか。
チャレンジの結果がどうなったか。しばらく時間をおいて、またいすみ絆工房の様子をお届けします。