
「電車での通勤中に動悸がして、途中の駅で降りてしまう」 「会議中や接客中に発作が起きたらどうしようと不安で、仕事に集中できない」パニック障害や別の障害に伴う発作を抱えながらはたらく日々は、常に「予期不安(また発作が起きるのではないかという恐れ)」との戦いです。今の仕事を続けるのが限界だと感じたり、自分のキャリアを諦めそうになったりしている方も多いのではないでしょうか。
しかし、パニック障害は適切な治療と「環境の調整」によって、自分に合ったペースではたらき続けることが十分に可能な病気です。本記事では、パニック障害の方が抱えやすい悩みの正体を整理し、無理のない適職の選び方や職場での工夫を解説します。当社の定着支援担当が実際に支援したパニック障害社員の話も紹介します。
パニック障害で仕事が「辛い」と感じる主な原因とメカニズム

パニック障害を抱える方にとって、仕事場は「逃げ場のない場所」と感じられやすい環境が揃っています。なぜこれほどまでに苦しいのか、その背景にある「予期不安」の正体を知ることから始めましょう。
予期不安と「逃げられない環境」への不安
パニック障害の最大の特徴は、一度起きた激しい発作への恐怖から、「またあそこで発作が起きるかも」という強い不安(予期不安)が消えなくなることです。特に仕事においては、会議室、満員電車での通勤、窓のないオフィス、さらには「抜け出せない接客中」などが、心理的な閉塞感を生みます。この「もしもの時に逃げ出せない」という感覚が、心拍数を上げ、さらなる発作を誘発するという悪循環を作り出しています。
発作を隠そうとするプレッシャー
「職場で発作が起きたら迷惑をかける」「変な目で見られるかもしれない」という思いから、体調不良を必死に隠してはたらこうとすることも、大きなストレス源となります。パニック障害は目に見えない障害であるため、周囲に理解されにくいという側面があります。この「隠さなければならない」という重圧自体が、心身をすり減らし、仕事を続けることをより困難にさせているのです。
パニック障害でもはたらきやすい「適職」とは?

「自分にはもうできる仕事がない」と絶望する必要はありません。パニック障害の特性上、避けるべき環境と、逆に安心して強みを活かせる環境には明確な傾向があります。
パニック障害の方がはたらきやすい仕事の特徴
パニック障害の方にとっての「適職」とは、「自分のペースでコントロールできる」仕事です。具体的には、以下のような環境が挙げられます。
- 在宅ワーク(リモートワーク): 通勤電車のストレスを回避でき、自分の部屋という安心できる環境ではたらける。
- 自分のペースで進められる専門職: ライター、プログラマー、翻訳など、突発的な対人対応が少なく、作業を一時中断しやすいもの。
- 柔軟な勤務体系: フレックス制や時短勤務が認められており、体調に合わせて始業時間を調整できる環境。
これらは「逃げ場がある」という安心感に繋がり、結果として予期不安を軽減させます。
逆に避けたほうが良い可能性のある仕事の特徴
一方で、高い緊張感が長時間続く環境は、発作のリスクを高める可能性があります。例えば、途中で持ち場を離れられないレジ業務や受付、多人数が密集する騒がしいオフィス、移動手段が限られる長距離の出張などは、予期不安を強く刺激しがちです。ただし、これらは雇用形態や配慮の有無で改善される場合も多いため、職種名だけで判断せず「はたらき方のルール」に注目しましょう。
パニック時の症状を理解し、対策を見つけること

インタビューでは、当社の定着支援2名に、安定している社員の特徴や工夫、また傾向などを聞きました。
そもそも当社では、「パニック障害」で精神障害者手帳を取得した人が少ない。という前提があります。これは、例えばパニック障害以外に、ADHDやASDの発達障害や、PTSDなどの症状があると、そちらの症状名で手帳取得が優先される傾向にあるからです。パニック障害だけ、というより、さまざまな障害の症状として、「パニック発作」があるという考え方だと分かりやすいかもしれません。自分に起きるパニック発作はいつ、どんなときに、どんな症状が出るのか。それを把握して対策を立てるのが大事です。
「成功体験を重ねる」ことが治療の一つになる
パニック障害の治療法はいくつかあります、例えば発作時に頓服薬を飲んで症状をおさえること。抗不安薬などの常用薬で少しずつ不安全般を減らしていくこと。
そして、もう一つは長期的な心理療法になりますが、あえて発作が起こる場所・状況に近づいていって、成功体験を重ねることです。例えば電車内で発作を起こすことがある場合、1駅乗ってみる、少し距離を伸ばしてみる、など「大丈夫だった」を増やすことです。実際クリニックでもやっていますが、これは医師やカウンセラー、患者との関係性が大事なので、慎重に行う必要があります。
当社の社員を見て安定している人の傾向として多いのは、まずは体力を整えること。そして発作への準備をすることです。例えば電車が苦手な場合、乗る前頓服薬を飲む。いつでも降りられるように各駅停車に乗るなどです。
自分の状態を把握し、無理なことは無理と言うことが大切
続いて30代男性の定着支援をしている定着担当にも話を聞いてみました。
私が担当している社員も電車が苦手という症状は同じでした。ただ彼の場合は閉じ込められている、降りられないという不安よりも、ぎゅうぎゅう詰めで動けないことにより発作がでるとのことでした。対処方法としては、有料の特急電車に乗るなどして、パーソナルスペースを確保していました。
また突然、何の前触れもなく、めまいが襲ってくるのも特徴の一つで、その際は上司に言って休憩室などで横になることで対応していました。
この人は前職で100時間を超える残業をしていたとのことで、確かに仕事に対して真面目に一所懸命頑張るタイプでした。発症や療養を経て、少し余裕をもってはたらくことができるようになり、現在の勤怠はほぼ安定しています。面談をしていて思うのは、無理なことは無理という力がついたな、ということです。周囲に自分の状態をきちんと言えること。これは、安定就労に不可欠だと思います。
まとめ:自己認知と言語化で、自分のパニック障害・発作と向き合おう
障害名としてのパニック障害。症状としてのパニック発作。パニック発作の場合はさまざまな障害の症状としても現れます。いずれにしても、大切なのは自分に起きるパニックが、いつ、どんなときに、どのような形で表出するか。そして、対処方法を見つける、周囲にあらかじめ伝えておくなど、しっかりした準備が必要です。
よく聞かれる「自己認知」という言葉。これを言語化できることが、パニック障害・発作に向き合いながら長くはたらくコツになるでしょう。


