双極性障害(双極症)があると、心身が安定せず、「仕事が続かないのでは」「休職したらキャリアは終わりなのでは」と不安を感じる人は少なくありません。躁状態とうつ状態の波が仕事に影響しやすい一方で、はたらき方や環境を工夫することで、安定就労を続けている人もいます。本記事では、パーソルグループの特例子会社パーソルダイバース株式会社で、双極性障害Ⅱ型を抱えながら10年間安定して就労し、現在サブリーダーとして活躍する男性の実体験とインタビューをもとに、症状への対処法や長期就労のコツを、実例を交えながら紹介します。

双極性障害(双極症)が仕事に及ぼす影響とは

双極性障害(双極症)は、気分が高揚する「躁状態または軽躁状態」と、気分が落ち込む「うつ状態」を繰り返す精神疾患です。症状の波は本人の意思ではコントロールしづらく、仕事や人間関係、生活リズムに影響を及ぼすことがあります。ただし、病気そのものが「はたらけないこと」を意味するわけではありません。特性を理解し、体調の波があることを自覚し、支援のもとで安定した状態を保ちやすくなる可能性があります。
躁状態・うつ状態の特徴と仕事への影響を考える
躁状態では、一般的に気分が高まり、エネルギーに満ちた感覚が強くなると言われます。そのため、
- 「今日は何でもできそう」と頑張りすぎる
- 本来のキャパシティを超えて仕事を抱えすぎる
といった行動に出やすくなります。短期的には評価されることもありますが、その後にうつ状態へ移行することもあり、結果として負担が大きくなる場合があります。
一方、うつ状態は心身のエネルギーが低下した状態になると言われ、
- 朝起きられない、出勤が難しい
- 集中力や判断力が低下する
- 「自分は役に立たない」といった自己否定が強まる
など、仕事を続けることが難しい状態になります。
そこで大事なのは、躁状態、うつ状態、それぞれの自分の特性をしっかり把握することです。
- セルフモニタリング(気分・睡眠・体調を記録する習慣)
- 波を大きくしない仕事の仕方(仕事内容やペースの一定・安定化)
といった工夫があります。後ほどインタビューで登場する男性社員も、この自己認知とはたらく環境整備を意識することで、長期就労を実現しています。
【インタビュー】双極性障害に向き合い、10年間同じ会社ではたらける理由

Dさん(男性)は、一般企業で営業職などを経験した後、2014年に障害者雇用枠でパーソルダイバース((旧)パーソルチャレンジ)へ入社。現在はサブリーダーとして、メンバーの進捗や体調面のサポートを行いながら、事務入力業務に携わっています。ここからは、Dさんにお話を伺った内容を紹介します。
ある日感じた多幸感が双極性障害(双極症)の引き金だったかもしれません
発症時は、一般職で営業をしていました。成果を出せば出すほど給料が上がる仕組みの会社でしたので、睡眠時間を削って、休みを返上して毎日全力ではたらき続けていました。しかし、そんなはたらき方が長く続くはずもありません。
20代後半のある日、そんな日常が続く中で、多幸感のようなものを覚えたんです。「自分は頑張ってる」「階段を上っている途中だ」「勢いついてきたぞ」と。いま思うとそれが軽躁状態で、病気になる引き金だったんだと思います。数日後、まるで反動のように布団から出ることができなくなりました。トイレにも行く力が出ない。ただただ疲労度が増していき、バリバリやっていたときの力が少しずつ削られる感覚がありました。それが入社して4年ほど経った20代後半のときでした。心配した両親とともに病院に行き、診断を受けました。その後は休職と復職を繰り返すこと1年ほどして治療に専念するために退職しました。通院やデイケアに通うなど、2年間療養しました。
そして、ある会社に入社したのですが、「もう大丈夫かな」と自己判断で薬を止めてしまったことで、はたらくことが難しい状態になり、退職。改めて障害にきちんと向き合おうと思い、障害者枠での仕事を探し、いまの会社に入社しました。
自分の躁うつ状態のスイッチを見つけ、対策を講じることが安定につながります

いまは自分の状態を観察し、把握し、対応策を持つことで比較的安定していると思っています。
まず、自分の症状は周期的に軽躁状態が2週間、抑うつ状態が1週間、そしてフラットな状態がしばらく続くといったように、その状態を周期的に繰り返すことが特徴です。
軽躁状態になるサインは
- 睡眠時間が短くなる
- 早口になる
- 散財したくなる
- 予定をたくさん入れたくなる
このあたりが強く出ます。ですから、睡眠時間を確保する。意図的にゆっくり話す。予定は余裕をもって2割くらいは余力を残す、などの対応をすることで、病気のスイッチを押さないように心がけています。
逆に抑うつ状態のときは、予定を入れたくなくなるし、やるべきことを後回しにしがちになり、自己評価が低くなる傾向にあります。こういったときは無理をせず、しっかり体を休めることを心がけています。
この病気に向き合って10年以上経ちますが、対処法として覚えたのは、出てきたサインと逆のことをやること、だと自分の場合は思います。通院ペースは月1回。薬はこの7年変わっていないので、いまは比較的安定していると思います。
安定した業務内容と仕事のペースが、心にも安定をもたらした
だからといって、パーソルダイバース入社からすぐに安定していたわけではありません。体調こそ自分のリズムを見つけましたが、仕事にはなかなかうまくフィットすることができませんでした。
最初の仕事は「生産管理」という部署で、各部署の品質や納品日のチェックをする業務でした。やりがいを感じていながらも、多くの部署や人と接することで、少しずつ心身に疲れがたまり、休職と復職を繰り返していました。自分でも不調の対処法がなかなか見つからなくて苦労していました。きっかけは異動。最初こそ、「戦力外通告を受けた」と思っていましたが、異動先の事務業務をやってみると、案外自分に向いていることがわかりました。同じペースで、余計なことを考えず、ひたすらに入力業務をこなす。気持ちの上下動がなくなることで、症状も安定するようになりました。
また支援機関の方と面談を繰り返して、自分の仕事や周囲の環境、体調を改めて考えたこともよかったかもしれません。それまで誰かに病気のことを相談するということをしていませんでした。しっかりとしたアドバイスをもらい、思い切って環境を変えること。このあたりは不調から抜け出すきっかけになったと思っています。
生活と仕事、特性に合わせた細かな対策を続けることが長期就労につながります

いま最も心がけていることは、仕事ができるコンディションを整えること。睡眠の質にはこだわっています。枕はセミオーダーのものを買いました。また、目覚まし時計で起きるのが苦痛なので、音ではなく疑似日光のようなものを照射する時計で起きています。不調のサイン・スイッチに睡眠があるので、気にするようにしています。また、スマートウォッチを使い、自分の体調をスコア化して、不調にいち早く気づけるようにしています。
職場においてはコミュニケーションを意識しています。仲間と笑うこと。何気ない話をすることがリラックスにつながります。あとはタスクの細かい管理ですね。納期はいつか。どのくらい時間がかかるのか。どこから先に手を付けるのか。体調と一緒で、仕事の進め方を見える化することで、心の上下動を抑えながら業務を進められていると思います。
また、業務で迷ったときはSOSを早めに出すこと、マルチタスクをなるべく避けることも意識しています。自分が進む道にある石をしっかり拾って、一歩ずつ歩くというのでしょうか。対処法を持つことで安心感も得られます。だから、最近安定してきたんだろうな、と思うんです。
今後はよりメンバーの安定、長期就労のための仕組み、はたらき方を作っていきたい
サブリーダーになったのは2022年です。特になりたくて手を挙げたわけではありません。先ほど挙げたような自分自身の体調と業務安定の手法を、みんなに伝えたところ、多くのメンバーが安定していったことが評価されたのかな、と自分では思っています。
さまざまな辛い経験もありましたが、対策方法も見つけることができました。自分の特性に一つずつ向き合うこと。対策を見つけること。これは、障害の有無は関係ないのかもしれない、とも思うときがあります。
自分ができることを増やす→周囲にノウハウを伝え、仕組みを作る→みんな安定して生産性も上がる。そんないいサイクルを今後も回していきたいと思っています。
一歩一歩丁寧に歩いていくことで、長くはたらくことが実現すると思います!


