「発達障害」「ADHD(注意欠如・多動症)」「ASD(自閉スペクトラム症)」などという言葉が、ここ数年、Webやテレビなどで数多く取り上げられ、また検索ワードとしても目立つようになりました。
背景には医学の発達だけでなく、発達障害に関する情報が増えて知識が広まり、「ひょっとしたら」と受診するケースが増えたこともあるのでしょう。

パーソルグループの特例子会社である、パーソルダイバース株式会社(以下パーソルダイバース)ではたらいている障害がない社員の中にも「当事者社員を見ていて、自分もそうかもしれない」とジョブコーチである私に相談するケースがたびたびありました。私が特例子会社の現場に異動したことで、前の部署の管理者から「一回話をしてみてほしい」と頼まれるケースもありました。こうした実例をふまえ、現場での経験から見えてきた背景や共通点をお伝えします。

「発達障害かもしれない」が可視化されやすくなった背景とは

例えば、文部科学省の資料によると、発達障害のひとつである「注意欠如・多動症(ADHD)」では、通級による指導を受けている小学生の人数は、令和元年度20,626人から令和5年度34,678人へと増加しています。

(参考:令和5年度特別支援教育資料文部科学省)

これは、単に「発達障害の人が増えた」というより、

  • 発達障害の基準が明確化されたこと
  • 診断技術が発達したこと

こうした要因により、これまで診断に至らなかった人が診断されるようになった、ということです。

そして、テレビなどでの情報が増え、それを見た本人や家族が「ひょっとして」と思い受診したところ、発達障害と診断されるケースが多くなっているそうです。

「実数が増えた」というより、診断・支援につながる人が増えた側面があると考えられます。

これが「大人の発達障害」という言葉がよく聞かれるようになった理由の一つだと思います。

特例子会社で当事者と向き合うことで、「自分も発達障害かもしれない」と感じる瞬間

パーソルダイバースに入社した当事者社員の中には、社会に出てからADHDやASDと診断された、というケースが少なくありません。「一般枠ではたらいていたけれど、微妙なニュアンスが分からず叱責を受けることが多かった」「暗黙の了解や、曖昧な指示(あれ、うまいことやっておいて、のような)が分からなかった」「電話に出ながらメモを打つなどのマルチタスクができなかった」などの理由で一社目を退社し、通院の結果、ADHDやASDなど障害があると分かった(診断された)人も少なくありませんでした。私が定着支援を担当した社員の多くが、こうした経緯をたどっています。

また、パーソルダイバースにおいては、障害がない一般社員が、実際に当事者に向き合い、そして困りごとを聞くうちに、「自分も同じような悩みがある」「自分の性格はひょっとしたら障害かもしれない」と相談し、その結果通院に至りそして障害が分かるケースも複数ありました。

自分の悩みの原因や性格は、実は障害の特性の一つかもしれない

  • 大学までは「勉強」をしていればよく、明確な答えがあったから問題なかった
  • 教科書や教師の言うことをしっかり聞いて実行することで特に問題は出なかった
  • 「あれ」「それ」といったあいまいな指示が分からなかったけれど、これは自分の理解力が足りないから
  • ケアレスミスや物忘れが多く、自分は人よりずいぶんそそっかしく、忘れっぽい性格だと思っていました
  • たまにいつも乗る電車を間違えたり、乗り過ごしたりするので、かなりひどい方向音痴だと思っていた

こういった悩みの数々が、ひょっとしたらADHDやASDの特性かもしれないと気付き、通院を経て、障害が判明するケースが複数ありました。そして、皆さん口をそろえるのが、「自分が怠け者だったり、性格が雑だったりするのではなく、障害という原因があったんだ」とホッとされることでした。

大人の発達障害は「知っている人の話」になると自分事になる

本やテレビ、Webで見聞きする精神・発達障害に関するニュースは、時に「自分とは関係ない」と流されることもあります。また、様々なメディアで取り上げられるのは、とても症状が重いケースのことも多々あります。

しかし、パーソルダイバースのように障害の有無に関係なく、多様な社員がはたらく環境だと、障害そのものが顔や温度感をもって伝わります。「何に苦労しているのか」「どんなことが苦手なのか」。それらが仕事を通じてより具体的になり、「自分事」として考えることができるようになるのかもしれません。

また、似たようなケースに「前の部署から相談を受ける」ということもありました。私の前の部署は広告を作る制作の部署で、障害について一定の理解がある社員が非常に少ない部署でした。
「指示通りに仕事ができない人がいる」「コミュニケーションが取りづらい人とどう接すればいいのか」「一度悩みを聞いてほしい」と、私に相談することがたびたびありました。「実際に知っている人に話を聞く」という行為が、よりその人たちの理解を深めるようで、その後、その部署で障害に関する勉強会を開いたこともあります。
Webや書籍など知識を得られる場所はいくらでもありますが、「障害について知っている人から直接聞く」は一定の説得力があるんだな、と実感しました。いま、悩まれている人は、病院や住んでいる自治体の役所(区役所や市役所など)などで一度話を聞いてみるのもいいかもしれません。

発達障害でも活躍するケースは多い:特性・個性に合った仕事を選ぶ

後日談として「パーソルダイバースに入社後、障害が分かった人はどうしたのか」を紹介します。
ある社員は自分の特性を理解し、対応策を見つけて業務を続けました。「ケアレスミスが多いのでダブルチェックをお願いする」「よく間違えるパターンを書き出し、チェックしながらタスクを進める」など、対策を講じて業務を続けました。

また、同じようなケースでASDが分かった人は、それまで苦手だった「先の見えないこと」を「見えるように」するため、「2週間単位でやることを上司と相談して決める」「空気が読めない代わりにルールを厳格に守ること」は得意なので、「しっかりと自分の業務マニュアルを作る」といった対策で、ミスをほとんどなくし、良い仕事をすることができ、精神的にも安定して、長期就労を実現しています。

特性を理解し、自分なりのルールやマニュアルを作ることで長期就労も可能になる

特性に気づく→特性を明確にする→対策を見つけて実行する、というサイクルを回すことで、自分も周囲もはたらきやすい環境を作り出すことができます。
自分の障害や特性に気づくことは、いまの状況を改善する第一歩を踏み出したことになるかもしれません。

大人の発達障害と向き合い、仕事をして、安定するためには

発達障害に限らず、自分の特性に自分だけで気づくことは難しいでしょう。もちろん、自分でWebや書籍を利用して理解することもできます。それが難しい場合には、例えば周囲に人がいて初めて、他者との比較ができます。そして、障害について知っている人に聞くことで、理解を深めることができます。

「自分がそうかもしれない」「同じ会社の人がコミュニケーションに困っているようだ」「家族のことが気になる」という人がいるかもしれません。Webの利用も手段の一つです。その際は、出典元や発信者の信頼性が高い情報を重視することをおすすめします。
例えば、国(厚労省・文科省)の協力の下、関係機関が共同で運用する『発達障害ナビポータル』があります。
発達障害ナビポータル

また、政府広報オンラインにも発達障害に関する情報が掲載されています。
発達障害に気付いたら?大人になって気付いたときの専門相談窓口 | 政府広報オンライン

ここには具体的な相談先も書いてあります。Webや本で調べつつ、必要に応じて医師や専門家に直接相談するところから始めてはいかがでしょうか。
「大人の発達障害」という漠然とした言葉を深掘りし、自分自身を見つめ直すことで、自分にできることが見つかり、そして、自分の生きづらさを解消するきっかけになるかもしれません。